第62話 シーベルトとの邂逅
「師匠、いい考えって?」
「ああ。ちょっとシーベルト会長と話してこようかなと」
ロゼッタに笑いかけ、ルクスはその場に立ち上がった。
「一応聞くけど、ロゼッタは会長が悪いことをする人じゃないって思ってるんだよな?」
「え……? ええ。ちょっと軽薄そうなところはありますが、生徒会で一緒に仕事をしている印象として悪事を働くような人には思えません」
「なら大丈夫さ。ロゼッタが考えている通りきっと会長はいい人だ。だからそれをハッキリさせてこようかなと」
話の流れからいって、ルクスはシーベルトの立ち位置を見極めようというつもりなのだろうが、皆その方法が分からない。
そんな中でウンディーネが慌てた様子で尋ねる。
「話してくるって、あっちは姿を消しているのよ? ずっと尾けていましたとでも明かすつもり? もしルーナの言う通り悪意を持つような人間だったら面倒なことになるじゃない」
「んー。話したいところだけど、早くしないとシーベルト会長が行っちゃうだろうから。お、ちょうどいいところに魔物もいるな。ちょっと行ってくる」
「あ、ちょっ――」
ウンディーネが引き留めようとするも、ルクスは構わず駆けていく。
そして泉の方からもよく見える位置――即ちシーベルトからも認識できるであろう位置まで移動した。
そして――。
「いやー、さすが八大精霊ダンジョンは広いなぁ!」
「「「えっ……?」」」
一同が見守る中、ルクスは予想外の言葉を口にする。
それは姿を消しているシーベルトにもちろん聞こえているはずで、そして魔物にも届く声だった。
「アイツ、いったい何やってんのよ。シーベルトって人間にも分かっちゃうし、何よりあれじゃ魔物の標的にされちゃうじゃない」
ウンディーネが危惧した通り、声に反応した獣型の魔物がルクスの方をギョロリと向く。
そしてルクスめがけて勢いよく突進してきた。
「ほら言わんこっちゃない!」
「で、でも師匠ならあの程度の魔物を倒すなんて造作もないはず……」
言いかけたロゼッタだったが、ルクスはまたも予想外の行動をとった。
「うわぁああああ! 誰か、誰か助けてくれぇ!」
そうやって悲鳴を上げながら魔物とは反対方向に逃げ出したのだ。
その動きは鈍く、明らかにいつものルクスとは異なっている。
魔物がもうすぐでルクスに追いつこうというところ、何もない空間から声が響いた。
「――っ。《烈風の斬撃》!」
声がした方から鋭い風切り音がしたかと思うと、ルクスに迫っていた魔物が斬り刻まれる。
その光景を見たルクスの口の端が僅かに上がった。
(なるほど。やっぱりな――)
魔物は撃破され、ルクスは魔法が飛んできた方を見やる。
そこにはリベルタ学園の制服を着た男子生徒――シーベルト・レインドットが立っていた。





