第6話 ルクスと、イジメを受けている生徒
「よっし、それじゃ今日もダンジョンに……ん?」
昼休みの時間帯になって。
午前の退屈な座学を終え、いつものごとくダンジョンに向かおうと廊下を歩いていたルクスが窓の外に目を向ける。
そこには男子生徒が数名。
見るに、一人の生徒を取り囲んでいるようだった。
(あれは……)
ルクスは取り囲まれている男子生徒に見覚えがあった。
というより、クラスメイトだった。
「確か、コランだっけか。この前E組から落ちてきたっていう」
ルクスは3日ほど前に担任のオリオールが紹介していたことを思い出し、独りごちる。
まだ転級してきたばかりということもあって話したことはなかったが、ぽっちゃり体型かつ陰の薄い生徒だったとルクスは記憶していた。
「取り囲んでいるのは……あー、Cクラスの奴らか」
男子生徒連中の胸元を確認したルクスが呟く。
リベルタ学園の制服には襟章の部分に小型の水晶が付属しており、所属しているクラスによりその水晶の色が異なるのだ。
取り囲んでいる生徒の襟章に着いている水晶の色は紫紺。
Cクラスの生徒であることを表していた。
ちなみにルクスの所属するFクラスの生徒が着ける色は白であり、取り囲まれているコランも白の水晶である。
「絡まれてる、って感じだよな。仕方ない」
ルクスが放った「仕方ない」という言葉は、Fクラスの生徒が上級クラスに目をつけられているから、関わったら面倒事になりそうだから、という意味ではない。
昼休みのダンジョン探索は諦めることになるが仕方ない、という意味である。
「ちょっと失礼しますー」
「え……?」
「なっ、お前どっから現れやがった!」
ルクスが割って入ると、コランとCクラスの生徒たちは一様に目を見開く。
連中の目にはルクスが突然現れたように見えたのだ。
なお、ルクスは窓から飛び降りたわけだが、元いたのはFクラスの教室がある階。
6階と少しばかり高い地点からの落下だったが、多数の魔法を扱えるルクスにしてみれば造作もない事だった。
「皆さん怖い顔しちゃって。何かあったんですか?」
ルクスが飄々と尋ねると、Cクラスの先頭にいた生徒が舌打ちする。
「うるせえな。テメェには関係ねえだろ。オレたちとそこにいるコランとの問題なんだよ」
「……」
ルクスがちらりと後ろを見やると、コランが体を震わせて怯えていた。
「おうコラン。オレらの分の昼メシ買ってこいって言ったよな。テメェはお使いもロクにできねえのか?」
「で、でも、購買にはもう売っているものがなくて……。頑張ったんですが、その……」
「言い訳してんじゃねえ! 頑張ったなんてのはどうでもいいんだよ! オレらの昼メシ、どうしてくれんだ!」
どうやらCクラスの生徒たちとコランは顔見知りのようだ。
そして、そのやり取りから察するに――。
(イジメ……ってことなんだろうなぁ。くだらない……)
ルクスは胸の内で大きく溜息をつく。
前に絡んできたBクラスの不良生徒と同様、変な劣等感でもあるのか、中間クラスにはこういう輩が多いのだ。
(コランにとっては災難もいいところだな……)
どちらにしてもくだらないなと思いながらも、ルクスはこの場を切り抜けることを選んだ。
「まあまあ、Cクラスの方々。ここはどうか一つ穏便に――あ、ロゼッタ副生徒会長!」
「なっ――」
ルクスがCクラスの生徒たちの後ろを指差し叫ぶ。
それは嘘だったが、生徒会の人間にイジメの現場を見られていたらマズいとでも思ったのか、Cクラスの連中は馬鹿正直に後ろを振り返った。
その隙に、ルクスはコランを抱えてその場を去ろうとする。
(――風魔法、《シルフィード》)
ルクスがある魔法を発動すると、局所的な突風が吹き荒れる。
それは目眩ましと移動速度の上昇という二つの効果をもたらし、ルクスはコランを抱えたままCクラスの生徒たちの前から校舎の角へと跳躍した。
「あっ! クソッ! どこに行きやがった!」
Cクラスの連中が辺りを見渡すが、もう遅い。
既にコランを抱えたルクスは死角へと移動した後だ。
「ふぅ……。何とか撒けたかな」
「あ、ありがとう……」
抱えていたコランに礼を言われ、ルクスはそれにニカッと笑い返してみせた。