第58話 魔導具と尾行
「それでは師匠、生徒会長の謎を探りに行きましょう!」
授業が終わり、放課後になって――。
ロゼッタがやる気に満ち溢れた表情をルクスに向けていた。
こうしてルクスとロゼッタが集まっているのは他でもない。
木の精霊ドライアドと接点を持ったと推測される生徒会長シーベルトを尾行し、調査するためである。
今は姿を隠しているが、ノームやウンディーネ、ルーナと、精霊たちも二人の近くに控えていた。
シエスタは隠れて行動するのが苦手であるという理由から、ロゼッタ、そしてルクスの二人でシーベルトの動向を探る流れになっている、のだが……。
「……なあロゼッタ。その格好、どした?」
「どこか変ですか?」
「いや、変というか見慣れないというか……。その半分になったマントみたいなのとか、変わった形した帽子とか」
ルクスの目の前に立つロゼッタは、妙な服装をしていた。
学園の制服の上に肩だけを覆うケープのようなものを羽織り、頭には鍔が前後に二つ付いた帽子を被っていた。
「ふふん。これはですね、以前王都の魔導具屋さんに行った時に買ってきたものなんです」
「へぇ、魔導具か。それじゃ何か特殊な効果があったりするのか?」
「はい! この帽子はディアストーカーと言って、頭の回転を早める効果があります。こっちの羽織っているのはインバネスコートという代物でして、隠密行動に向いています。魔導具屋さんの受け売りですけど……」
「おお、それは凄いな。見慣れない服だけどけっこうロゼッタに似合ってるし、良いと思うぞ」
ルクスの素直な感想にロゼッタは見えないようグッと拳を握る。
魔導具というのは、錬成や合成などの魔法に長けた者が特別に作成したアイテムを指す言葉だ。
広義では疲労回復に効果のある魔法薬などもこれに含み、様々な独自効果を持つとされている。
一見すると玩具のようなものでも魔導具だったというケースがあり、その見た目から効果を想像できないものも多い。
だからこそ躍起になって収集する者も多く、魔導具専門のコレクターがいるほどだ。
ルクスには少々苦手な分野であり、クラスメイトのコランなどは鉱物を合成することで新たな魔導具を作れないかと日頃から模索していた。
「そ、その……。今度師匠も一緒にその魔導具屋さんへ行ってみません? 品揃えも豊富で色々と楽しいですよ?」
ロゼッタが自分の銀髪をくるくると弄りながら提案し、ルクスの様子を伺う。
特に「一緒に」の部分を強調して。
「お、良いね。俺は魔導具にはそんな詳しくないけど気になってはいるんだよな。今度案内してくれよ」
「は、はい! ぜひっ!」
理想の言葉が返ってきたことでロゼッタはまたも拳を握る。
そもそもロゼッタがなぜ王都の魔導具屋に行き帽子やら羽織物を購入したのかというと、ルクスに見せるためである。
さらに言えば、ルクスに興味を持ってもらい、魔導具屋へ一緒に行く予定を取り付けるためだ。
その思惑を察したノームは姿を消したまま、うんうんと頷いていた。
***
「お、いたな」
Aクラスの生徒たちに聞きながら探すこと少しして。
ルクスとロゼッタは目的の人物を発見する。
二人の視線の先ではシーベルトが学園の校舎から外れて歩いていくところだった。
「なあ、ロゼッタ。あれ、何やってるんだ?」
ルクスが問いかけたのはシーベルトが持っていた妙なものを指してだ。
それは黒い石のようなもので、シーベルトはカチャカチャと擦り合わせながら歩いている。
「あれは……。パズルですね。昨日も生徒会室で奮闘していましたが」
「歩きながらやるなんてよっぽどハマってるのか……?」
ルクスは呟き、シーベルトの様子を観察するが、その様子に違和感を覚えた。
黒い石を擦り合わせるシーベルトの表情は真剣そのもので、それは玩具に向けるものとしては不自然な気がしたからだ。
「あ。師匠、シーベルト会長が森に入っていきますよ」
ルクスは考えを巡らせていたが、ロゼッタのその言葉を受けて一旦保留にする。
そのまま学園の敷地の奥へと向かうシーベルトを尾行しながら進んでいく。
そして――。
「あれは……」
シーベルトが歩みを止めたのは、とあるダンジョンの前。
八大精霊ダンジョンの一角――《ジンの風穴洞》の入り口だった。





