第51話 師匠
「皆さん、お疲れ様でした」
Fクラスの生徒たちの前でロゼッタがペコリとお辞儀をする。
ロゼッタからの助言を受けたことで、Fクラスの生徒たちは皆が活気に溢れた様子だった。
自分が師匠と仰ぐルクスへの指導――それもルクスの実力を隠しながら助言をするという、何とも微妙な役回りを終え、ロゼッタは一つ息をつく。
「同じ生徒の立場でありながら出しゃばってしまい失礼しました。少しでも皆さんのお力になれていれば嬉しいです」
ロゼッタが挨拶をすると、Fクラスの生徒たちから自然と拍手が送られる。
それは生徒たちの感謝の表れだった。
「ロゼッタさん、凄い人ですね」
「ん?」
ルクスもまた拍手を送っていたところ、隣にいたシエスタから声がかかる。
「あ……。す、すみませんいきなり」
「いや、別に全然気にしなくていいぞ」
「そのぅ、私もロゼッタさんの指導を受けて思ったんです。凄く的確で、分かりやすくて、それで褒めてくれたりもして。女性の私から見ても素敵な人だなぁって」
シエスタはたどたどしい口調ながらも感じたことを述べていく。
それは素直な称賛の気持ちだった。
「まあ、ロゼッタもあれで苦労したからな」
「え……? ロゼッタさんがですか?」
「ああ。今では誰もが憧れるって感じだけどな。最初は初級魔法を扱うのにも四苦八苦してたっけ。ダンジョンでも低級の魔物と戦うのがやっとだった」
ルクスの言葉にシエスタは驚きの表情を浮かべる。
昨日の夜、シエスタはルクスとロゼッタの関係についてそれとなく聞いていたのだが、それでもルクスが今発した言葉は意外だった。
ロゼッタといえば今のリベルタ学園でトップクラスの実力を持つとされ、将来を有望視される生徒の一人である。
容姿端麗な見目に加え、今では生徒会の副会長も務めるという才色兼備ぶり。
ルクスは、そのロゼッタが順風満帆ではなかったと言う。
シエスタからすればより二人の過去が気になるところだった。
「それって――」
シエスタがルクスに問おうとしたところ、Fクラスの生徒たちが上げた声に遮られる。
「ロゼッタさん! オレ、ロゼッタさんの魔法が見てみたいッス!」
「わたしもわたしも! Aクラスの人の魔法なんて見たことないし!」
「オリオール先生、お願いします! まだ時間あるでしょ!」
矢継ぎ早に声が上がり、ルクスとシエスタもロゼッタの方へと注目を寄せる。
「ロゼッタさん。こいつらも期待しているようだし、一つ魔法を見せてやっちゃくれるかね? できれば上級魔法なんかを」
「分かりました。それでは僭越ながら魔法の実演をさせていただきます。でも、少し危ないかもしれませんから離れていてください」
オリオールにも提案され、ロゼッタは生徒たちに背を向ける。
そして周りから生徒たちが離れたのを確認し、ロゼッタは手を前方に突き出した。
「……一つ、皆さんに言っておきたいことがあります」
凛としたロゼッタの声にFクラスの生徒たちが視線を送る。
当然、何が語られるのかという興味の視線だ。
「私は元々、特に秀でた才を持っていたわけではありませんでした。初級魔法すらまともに扱うこともできず、自分はこの程度なのかと自己嫌悪に陥ったこともありました」
Fクラスの生徒たちが沈黙する中、ロゼッタは淡々と語る。
そして、突き出した手に膨大な魔力が集束しつつあった。
「それでも、ある人の教えを受け、私は頑張ることができました。今ではAクラスに所属していますが、その人がいなければ間違いなく今の私はなかったと、そう断言できます」
「「「……」」」
「先程、皆さんに指導をさせていただきましたが、それもほとんどはその人の受け売りなんですよ」
風がロゼッタを中心として吹き荒れ、銀の髪と制服をはためかせる。
その中でもロゼッタは前を見据えていた。
「……その『ある人』というのは?」
オリオールに問いかけられ、ロゼッタは微笑を浮かべる。
それは悪戯っぽい笑みだった。
「ふふ。それは内緒です」
吹く風が一段と強くなり、ロゼッタの足元、その周辺の地面が凍り始める。
そして――。
「《絶対零度の息吹》――」
前方に広がる訓練場の土地。
ロゼッタが魔法を唱えると、その全てを包み込むようにして氷結現象が生じた。
最難関とされる八大精霊ダンジョンの一角――《ウンディーネの大氷窟》の第10層にて習得できる大魔法だ。
その威力は先程まで生徒たちが放っていた魔法の比ではなく、文字通り全てを凍りつかせていた。
生徒たちは誰もが目を見開き、眼前で起きた事象にただただ驚愕の視線を送っている。
魔法を撃ち終えたロゼッタは振り返り、生徒たちに向けて言葉を続けた。
「私が今放ったこの魔法も、あの人が扱える多くの魔法の内、たった一つでしかありません。まだまだ私はその人に教わることがあります。そしてそれはこれからも変わらないと思います」
ロゼッタは笑みを浮かべ、そして視線を一瞬だけある生徒の方へと向ける。
「きっかけを与えてもらい、私の目標であり続ける人。だから私は、その人を『師匠』と仰ぐのです」
その視線の先には、照れくさそうに頬を掻くルクスの姿があった――。
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