第49話 ロゼッタ先生の特別授業
「さて――」
ロゼッタの提案から、その日最後の授業は中庭で行われることになった。
リベルタ学園はかなり広く、数々のダンジョンを敷地内に有するほどだ。
元々主要なダンジョンが密集していたその土地を、まるごと今の学園長が買い取ったからだったが、その影響で敷地内の各施設も相応の面積となっていた。
ルクスたちが到着したそこは、中庭というよりも訓練所という意味合いが強い。
石壁に囲まれ、生徒たちの前方には魔法の標的とするために立てた丸太などが設置されていた。
「それじゃ、どんな風にするのが良いかね。ここなら魔法を使っても大丈夫だが」
オリオールが呟くと、集まったFクラスの生徒たちから声が上がる。
「はいはーい! 私、ロゼッタさんに魔法を見てもらいたいでーす!」
「オレもオレも!」
「わたしはロゼッタさんの魔法が見てみたい!」
思い思いの希望が出され、オリオールはボサボサの髪を搔きながらロゼッタの方へ視線を向けた。
「だそうだが、どうかねロゼッタさん。せっかくの機会だしロゼッタさんにこいつらの魔法を見てもらって、時間があったらロゼッタさんの魔法も披露してもらうってことで」
「そうですね。皆さんの実力を見てみたいですし、私からもそれでお願いできればと」
「よし、じゃあ決まりだな」
オリオールが頷き、生徒たちの方へと向き直る。
そして昨日のダンジョン攻略授業の時の班分けを元に、生徒たちが割り振られることになった。
それからまもなくして、一人目の男子生徒がロゼッタの見守る中、手を突き出して構えをとる。
学園トップクラスの実力を持つロゼッタが見られながらの魔法の実演だ。
男子生徒は良いところを見せようと張り切った表情を浮かべていた。
「《土塊の礫》――!」
使用された魔法は土属性の魔法の中でも初級に位置づけられる魔法。
ぶつければ対象にそれなりのダメージを与えることができ、低級の魔物であればこれだけで戦闘不能にすることができる上、使用する場所にも問われないためそれなりに使い勝手が良い魔法である。
男子生徒が放った土塊は離れた場所に立てられていた丸太に勢いよく命中し、木片を散らした。
「どうッスか、ロゼッタさん! けっこう上手くいったんじゃないッスか!?」
「ええ、見事な威力ですね。射出についても十分な速度が出ていたと思います」
「あ、ありがとうございますッス!」
ロゼッタに優しく微笑みかけられ、男子生徒はぐっと拳を握りしめる。
「では、次はあちらから走りながら同じ魔法を使用してみてもらえますか?」
「え? 走りながらッスか?」
「はい。できるだけ丸太の中央に当てるように意識して」
ロゼッタの指示通り、男子生徒は走りながら魔法を使用する。
と、今度は放たれた土塊の方向が逸れ、丸太から離れた場所に着弾した。
「あ……」
「分かったようですね。実戦では動きの中で魔法を使用することが多くあります。更に言えば、相手も動きます。そのため、単にどのような魔法を使うか、魔法の威力がどうかということだけでなく、対象に命中させる技術が求められるわけです」
「なるほど……」
「とはいえ初級魔法の威力としては先程も言った通り十分だと思います。今後は魔法の訓練をする際にも動きの中で使用することを心がけると更にレベルアップできると思いますよ」
「あ、ありがとうございましたっ!」
ロゼッタが微笑むと男子生徒は頭を下げる。
その表情は晴れやかで、最初ロゼッタに良いところを見せようと意気込んでいた時とはまた違った雰囲気だった。
それを遠巻きに眺めていたオリオールは感嘆の溜息を漏らす。
(ふぅむ、指導も丁寧で的確だ。それに相手を立てることも忘れず、どうすればいいかを伝えている。今後の向上のために何が必要か具体例も提示して、か)
二人目の生徒を呼び出し指導しているロゼッタを見ながら、オリオールは顎に手を当てた。
(そういえば、前にエレイン先生が話してたな。ロゼッタさんには師匠と呼んでいる人物がいると……。その人物の影響か?)
ロゼッタが師と仰ぐ人物が誰なのか気になり、オリオールはまた頭を掻く。
その人物は意外にも近くにいるのだが……。
そうして、ロゼッタが特別講師を務める授業が始まったのだった。





