第48話 ロゼッタの提案
「え、何でロゼッタ……副会長がここに?」
教壇の向こうに立っていた人物を見てルクスは思わず声を漏らす。
そこにいたのはリベルタ学園副会長、そして学園の中でも最高峰のAクラスに属する美少女――ロゼッタ・シトラスだった。
ロゼッタ自体はルクスにとって別に珍しいことでも何でもない。
というより、昼休みに階段下で会話したばかりである。
しかし、彼女がFクラスの教室にいるということがルクスにとっては驚きだった。
先程のルクスの声はFクラス教室にいた全員に聞こえており、担任教師のオリオールは深く溜息をつく。
「ルクスよ。お前、俺の話聞いてなかったな。今日これからの授業は特別講師を呼んだって言ったじゃねえか。ロゼッタさんにはそれで来てもらったんだよ」
「特別講師? あ、なるほど」
ルクスが緊張感のない声を上げて、教室内が笑いに包まれる。
シエスタやコランはルクスの人となりを知っているだけに乾いた笑いだったが。
(まさかロゼッタがFクラスに転入してきたのかと思って焦っちゃったよ。まあそんなはずはないんだけど。というか、さっきロゼッタが別れ際に言っていたのはこれかぁ……)
驚かせようと思って黙っていたんだなと、ルクスが抗議の視線を送るとロゼッタはウインクして返してみせた。なかなかにお茶目な反応である。
「ったく、話を戻すぞ。昨日はダンジョン攻略の実践授業を通じて課題が見つかった者も多いと思う。そこでAクラスのロゼッタさんに来てもらったわけだ。知ってる奴も多いと思うがロゼッタさんはこの学園でもトップクラスの魔法の使い手だからな」
「こんにちは、ロゼッタ・シトラスと申します。今日は僭越ながら皆さんの授業にお招きいただきました。私でお力になれるか分かりませんが、有意義な授業にできればと思っています。皆さん、よろしくお願いしますね」
ロゼッタはそのように述べてペコリとお辞儀をする。
それはただの挨拶だったが、ロゼッタの放つ凛然とした雰囲気にFクラスの生徒たちは溜息を漏らした。
特に男子生徒たちに反響が大きいようだ。
ロゼッタの姿を目の当たりにして歓喜する者、呆然とする者、落ち着かない様子になる者と様々である。
そんな状況だからだろうか。
お辞儀をして顔を上げたロゼッタがルクスの方を向いて柔らかく笑うと、その直線上にいる男子生徒たちが「自分に対して微笑んだ!?」と心を射抜かれていた。
「はいはい。ざわつきたくなる気持ちは分かるが、落ち着けお前ら」
オリオールがパンパンと手を叩いて、それでようやく教室内は静かになる。
「さて、それじゃ早速授業を始めっからな。同じ生徒としても得るところが多いだろうから、ロゼッタさんの話をありがたく聞くように」
「あ、それなんですがオリオール先生」
「ん?」
オリオールが話を譲ろうとしたところ、ロゼッタが待ったをかける。
そして銀の髪を耳にかけると、澄んだ声で話し始めた。
「もしよろしければ本日の授業、教室ではなく学園の中庭で行うというのはいかがでしょう? 午後の授業ということで座学ですと退屈する方も多いでしょうし、あそこで魔法の実践などをしながら話した方が身の入る授業になるかなと」
「ああ」
オリオールはロゼッタの提案に頷き、そしてほどなくしてその提案を了承する。
「確かにその方が有意義かもな。それじゃ、中庭でやるとするか」
オリオールがそう呟くと、授業に退屈していたクラス内の数名から歓喜の声が上がった。
その気持ちはルクスも同じで、胸の内でロゼッタに大感謝する。
(おお! ロゼッタ、ナイス!)
そうして、ロゼッタを特別講師に招いたFクラスの授業は屋外――リベルタ学園の中庭で行われることになった。





