第43話 ルクスの決心
「ありがとうございます、ルクスくん。お邪魔しちゃった上に紅茶までいただいちゃって」
「どういたしまして。口に合うといいけど」
ルクスの家に移動して。
椅子に姿勢良く座っていたシエスタが礼を言いつつ、ルクスが用意した紅茶を受け取っていた。
シエスタはどうやら猫舌なようで、何回も息を吹きかけながら恐る恐るティーカップに口を付けている。
そんなシエスタの後ろに控えるようにして、月の精霊ルーナは宙に浮いていた。
「それで、どうしてシエスタと精霊が一緒にいるのか聞いていいかな?」
「あ、はい。ええと、どこから話しましょうか」
「私とシエスタが会ったのはつい10日ほど前のことです」
「おわっ!?」
いつの間にか目の前に移動していたルーナが、ずいっとルクスの顔を覗き込むようにしてシエスタの言葉を継ぐ。
ジトッとした目で、無表情なのも相変わらずだ。
突然のことにルクスは思わず後ろにひっくり返りそうになった。
「お、驚かすなよ」
「失礼。シエスタ以外の人間と話すのは久々なもので距離感が分からず」
そういえばノームが「精霊はクセの強い変わった連中が多い」と言っていたなとルクスは思い出し、椅子に座り直す。
ルーナの場合は変わっているというよりも掴みどころがないという感じだったが。
「まあいいや……。とにかく、シエスタは精霊の存在を知っていたってことだな」
「はい。そうなります」
「10日くらい前に会ったってことだったけど、どこかダンジョンの奥地とかで会ったのか? ルーナは月の精霊だし、《月の地下迷宮》とか?」
「い、いえいえ。私に八大精霊ダンジョンに入る実力なんてありませんよ」
「……? じゃあどこで?」
「私は月の精霊ですからね。満月の夜には時折地上に出て月光浴をしているのです。もちろん、人間には見えないよう姿を消してですけど。シエスタと会った日も良い月の夜でした」
ふわりと宙を移動しながらルーナが答える。
「なるほど、つまり地上でシエスタとルーナは会ったと。でも、どうして?」
ルクスの言った「どうして」とは、姿を消していたはずのルーナをなぜシエスタが見つけられたのかという意味だ。
意図を察し、ルーナは目を閉じて語り出す。
「私が姿を現したのです」
「ルーナが? またどうして?」
「月光浴を楽しんでいたら近くにいた女の子が泣き出したものですから、つい」
「泣き出した?」
「る、ルーナさん、それは……」
「まあ、とにかく。それから私はシエスタに付いて回っているというわけです」
シエスタが慌てたように言って、ルーナは話を締めくくる。
ルクスは気にはなったものの、あまり触れない方がいい話題だろうなと思い直し、深掘りはしなかった。
シエスタもまた話題を変えようと思ったのか、ぎこちなくルクスの方に向き直って口を開く。
「と、ところでルクスくん。ルクスくんも精霊さんを知っているんですよね? その精霊さんたちは近くにいらっしゃるんですか?」
「あー、それは……」
どうしたものかとルクスは思案する。
ノームやウンディーネのこと、特にノームと出会った経緯を話すとなれば、自分が八大精霊ダンジョンの奥地まで潜っていることなどにも話を及ぼさなくてはならないからだ。
そして、先日の《白水晶の遺跡》での一件のことも。
ルクスは逡巡した後、シエスタも精霊のことを知っているなら話すべきかという思考に傾いていく。
無論、適当な理由をつけてはぐらかす選択肢はあった。
しかし、真っ直ぐな瞳を向けている少女にそれをするのかと自問して、ルクスは自分の頭を掻いた。
そして、「これはここだけの話にしてほしいんだけど」と前置きし、ルクスは答えることにする。
「分かった。正直に言う」
「……」
「まず、俺が初めて精霊に会ったのは《ノームの洞窟》でのことだ」
「え? 八大精霊ダンジョン?」
シエスタの言葉にルクスは頷き、そして続けた。
「そう。《ノームの洞窟》、その第200階層で初めて精霊に会ったんだ――」





