第42話 月の精霊ルーナ
「な、何で精霊がここに……?」
ダンジョン攻略実践授業が終わった後で。
ルクスにとって衝撃的な出来事が色々と起きていた。
一つはシエスタの発言。
担任教師であるオリオールにさえ悟らせなかったのに、ルクスの前に立つ青髪の少女はルクスが実力を隠していることに気づいたようだった。
当然というべきか、ルクスは先程の授業で手を抜いていた。
より正確には、自身の使える魔法を初級魔法のみと申告したため、その魔法のみを使用して魔物と交戦していたのだが、シエスタの目にはそれが何かを隠しているように映ったらしい。
そしてもう一つの衝撃的な出来事はまさに今、目の前で起きている。
ルクスの前には精霊ルーナと名乗る少女がぷかぷかと浮かんでいたのだ。
大きさはウンディーネと同じくらいだろうか。
まばゆく黄金色に輝く髪に整った顔立ちは、童話に出てくる妖精を思わせる。
ルーナは無表情で、ともすれば無愛想なようにも見えるのだが、それが不思議としっくりくるなとルクスは思った。
「ルーナって言ったよな……。何でシエスタが精霊と一緒に?」
「ふむ。私のことをすぐに精霊と受け入れるあたり、やはり貴方も精霊に会ったことがあるようですね」
「あ、やべ……」
月の精霊ルーナに指摘され、ルクスは思わず口元を覆う。
そんなルクスをルーナは観察するように見下ろしていた。
ノームとウンディーネの時は会うなりすぐに手を握って相手を困惑させていたルクスだったが、今回は逆にルクスが困惑する側だ。
ルーナはしばしルクスのことをじぃっと見つめ、表情を崩さずに問いかけてきた。
「貴方に聞きたいことがいくつかあります」
「き、聞きたいこと?」
「はい。シエスタの後ろで先程のダンジョンで戦う姿を見させてもらいましたが、なぜ貴方は手加減をしていたのですか? 本来ならばもっと高位の魔法を使えるはずでしょう? それに、なぜ今の地位に甘んじているのかも気になります」
「ええと、それは……」
「それから、貴方からは他の精霊の匂いが漂っています。他の精霊とはどうやって知り合ったのですか? 誰と、いつ、どこで、どうやって会ったのですか?」
立て続けに質問が投げられ、ルクスは反応に困ってしまう。
ルーナの表情は変わらず無表情という感じなのだが、ルクスはどこか圧のようなものを感じていた。
「ルーナさん、いきなり出てきてそんな質問攻めだとルクスくんが……」
「む、そうですね」
シエスタがおずおずといった感じでルーナに声をかけた後、今度は申し訳無さそうにルクスへと語りかける。
「ルクスくん、驚かせてすみません。どこから説明していいか……」
「そうだな、俺も色々とシエスタに聞きたいことが……。ただ、こんな場所で話すのも何だしな」
ルクスはそう言って辺りをキョロキョロと見渡す。
周りには誰もいないようだったが、こんな道端で話をする内容ではないだろう。
そのように考え、ルクスはシエスタに提案をする。
「なあ、シエスタ。もし良かったらウチに来て話さないか? そこでなら人目を気にせず話せると思うし」
「え? ルクスくんのお家に、ですか?」
ルクスの提案に一瞬驚いたような表情をして、シエスタはやや照れたように俯いた。
「え、えと。それじゃあ、お願いしましゅ……」
消え入りそうな声で噛みながら呟くシエスタ。
そうして、互いの疑問が解消されないままに、話し合いの場所はルクスの家へと移されることになった。





