第40話 実力隠し
【砂の回廊:第1階層】
「さて、見てばかりじゃ実践授業にならないからな。次はお前たちでこのフロアの魔物と戦ってみろ」
「うわー、いよいよか」
「私、魔物とはあんまり戦ったことないから不安―」
「よっしゃ。俺の魔法を試してやるぜ」
オリオールが告げるとFクラスの生徒たちは口々に呟いた。
不安や緊張、意気込みなど、様々な感情を持ちつつ、生徒たちは同じ班の仲間と打ち合わせを始める。
「あんまり離れず班ごとに行動するんだぞー」
オリオールがそのように言葉を発すると、それぞれの班ごとで別々の方向へと散開していった。
《砂の回廊》は初級ダンジョンということもあってか、ダンジョン内もさほど入り組んだ構造にはなっていない。
足場が砂地となっている箇所が多いことはやや難点だが、広々としていて死角となる場所も少ない。
そのため、引率教師のオリオールからしてみれば生徒たちが散り散りになっても監督しやすい環境と言えた。
「よし、それじゃ俺たちも行くか」
ルクスの掛け声にコランが頷き、シエスタは不安や緊張の入り混じった表情を浮かべる。
少し進むと、ルクスたちはすぐに魔物と遭遇した。
さすがに初級ダンジョンというところか。
現れたのは低級の魔物として知られるスライムだ。
ブヨブヨとした体で突撃を受ければ多少の衝撃はあるものの、それだけだ。
《ノームの洞窟》の本当の最下層で魔物たちと死闘を経験しているルクスにとってみれば取るに足らない相手と言える。
しかし、ルクスは自分の方を向いていたオリオールを確認すると思考を巡らせる。
(あの習得魔法を書く紙には《火球の礫》としか書かなかったしなぁ。まあ、この程度の魔物なら何とかなるか)
最終的に単純な結論に達したルクスは、スライムに向けて火の玉を射出する。
「《火球の礫》――」
放たれたその魔法の威力は低めだったが、それでも低級の魔物を屠るには十分だった。
火球が着弾すると、スライムは跡形もなく消失する。
「やったね、ルクス君」
「サンキュ。とはいえスライム相手だからな。これくらいならわけないさ」
ルクスは短く息をついて、コランと顔を見合わせた。
そして、そのまま先へ進もうと、後ろにいたシエスタの方を振り返る。
「……」
「シエスタ、どうした? 先に行こうぜ」
「あ、は、はいっ。すみません!」
「……?」
何か考え事でもしていたのだろうか。
シエスタはルクスが声をかけると慌てた感じで返事をする。
ルクスはシエスタの様子を訝しがりながらも、ダンジョンの奥へと進むことにした。
「……」
そんなルクスたちの後ろ姿を見ながら、Fクラスの担任教師オリオールは顎に手をやる。
そして無精髭を擦りながら独り思考を巡らせていた。
(使ってたのは普通の初級魔法だなぁ。別に威力や精度が高いようにも見えない。俺の考えすぎか?)
結局考えても答えは出ず、オリオールは溜息をつくと、他の班の生徒たちの方に視線を向けた。
そして――。
実はこの時、ルクスの実力はある人物たちに露見していた。





