第36話 学園に向かう朝
「それじゃ、ドライアド捜しは私とノームで行ってくるから」
「ちぇー。俺も一緒に行きたいんだけどなぁ」
「ほっほ。昨日も話したがドライアドは人見知りな性格じゃからな。まずは儂とウンディーネで会いに行くのが無難じゃろう」
朝になって。
ルクスと精霊たちはそんなやり取りを交わす。
昨日の話で決まったのは、黒の瘴気の一件について調べるために木の精霊ドライアドに会うこと。
新しい精霊に会ってみたいルクスとしてみれば是非とも同行したかったのだが、ノームたちによるとドライアドは大人しい性格で、人間がいると姿を現してくれない可能性が高いらしい。
そのため、まずは精霊であるノームとウンディーネだけで捜索に出かけることになっていた。
「ま、あの子の性格上、住処の外には出ないと思うしすぐに見つかると思うわ。何か分かったらちゃんと教えるから、それまではいつも通り学園に通っていなさい」
「仕方ないか……。ノームのじっちゃん、任せたぜ」
「うむ、任された」
ルクスは言葉を交わし、宙を飛びながら去っていくノームとウンディーネの姿を見送った。
「それじゃ、俺たちはいつも通り学園に向かいますか。ってロゼッタ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。ちょっと寝不足なだけで」
立ったままフラフラとしているロゼッタを心配し、ルクスは声をかける。
昨晩、ロゼッタはルクスのベッドの上で悶々とする時間を過ごし、眠りにつけたのは外が明るくなり始めた頃だった。
普段の学園での凛然とした振る舞いは欠片もなく、ロゼッタはおぼつかない足取りで歩き始める。
そうして二人で学園に向かう道を歩いていたところ、ルクスは見知った顔を見つけた。
「コランじゃないか。こんな所で何をしてるんだ?」
「あ、おはよう、ルクス君」
そこにいたのはルクスと同じFクラスのコランだった。
コランは丸い背中を更に丸め、地面を覗き込んでいたようだ。
見ると手には小さい石がいくつか握られており、どうやら趣味の鉱石採取をしていたらしい。
「へぇ、こんな道端でも鉱石って手に入るのか」
「うん。この辺りには元々岩場があって、それを開拓して道が造られているからね。ちょっと掘ればこうやって石が見つけられ――」
興奮気味に解説していたコランだったが、ルクスの後ろにいる人物を見つけて膠着する。
「おはようございます、コランさん。《白水晶の遺跡》の一件ではお世話になりました」
「あ、えと、おはようございます。じゃなくて、何でルクス君とロゼッタさんが朝から一緒に? もしかして、家から一緒に登校して……」
コランは浮かんだ思考を口にするが、すぐにある結論に達したらしい。
それは誤解というものだったが。
「あ、はは……。ごめんルクス君。僕は先に行くね。また学園で!」
「え? ああ、うん」
コランは慌てて踵を返すと、学園の校舎がある方へと走って行ってしまった。
「何だったんだろう。慌てた感じだったけど」
「そ、そうですね。何だったんでしょうね」
コランが慌てて去っていった理由に何となく察しがつくロゼッタだったが、口には出さずに相槌を打つ。
そして、そんな誤解も悪くはないかと思いながら赤面するのだった。
***
「よぅ、ルクス」
「あ、おはようございます、オリオール先生」
ルクスがロゼッタと別れ自分の教室に向かうと、そこで担任教師であるオリオールと出くわした。
いつものボサボサ髪で覇気のない様子は相変わらずだったが、何故かオリオールは挨拶を交わした後でルクスのことをじっと見つめている。
「……」
「オリオール先生? どうかしました?」
「ん? ああいや、何でもない」
「……?」
「さ、とっとと教室に入れ。また授業中に寝るなよ」
オリオールの反応がどこか妙だったものの、ルクスは自分の教室――Fクラスの生徒たちが集まる場所へと入っていった。
その背中を見ながら、オリオールはボサボサの髪を搔きながら溜息を漏らす。
「やっぱり、なーんか気になるんだよなアイツ」
その呟きは小さいもので、誰かに聞こえるようなことはなかった。
●あとがき
さて、久々の学園パートです。
次話以降もぜひご期待くださいませ!





