第30話 【SIDE:ロゼッタ】昼食の誘い
「ロゼッタさん、学園新聞見たよ!」
「わたしもわたしも!」
「すごいよねぇ。助けられた人たちはロゼッタさんのこと、命の恩人だって言ってたらしいよ」
休み明けのリベルタ学園、Aクラスの教室にて。
ロゼッタが朝、自分の席に着くとあっという間にクラスメイトの輪ができた。
昨日発行された学園新聞を目にした者たちである。
「ありがとうございます皆さん。でも、あれは私だけの力ではなくて……」
ロゼッタはそのように返すが、クラスメイトたちは謙遜としか受け取らなかったようだ。
逆に羨望のまなざしが強くなり、ロゼッタは胸の内で溜息をついた。
(はぁ……。実際は全部師匠のおかげなんですけどね。師匠の凄さを伝えられないのはもどかしいことです)
とはいえ純粋な称賛を無碍にしないのも人の良さだろう。
ロゼッタはクラスメイトの反応を聞き流すわけではなく、微笑みを浮かべながら受け答えしていた。
そして、午前の授業が終わり昼休みになって。
ロゼッタはルクスの元へ行こうと、階段を登っていた。
「あ、ロゼッタさん」
と、ロゼッタは階段の踊り場で二人の男子生徒から声をかけられる。
襟章の色は赤。
Bクラスの生徒たちである。
「ロゼッタさん、学園新聞見ましたよ!」
「オレも見たぜ!」
どうやらこの生徒たちも一昨日のロゼッタの活躍を知っているクチらしい。
とはいえ、新聞の内容は真実とは程遠いものなのだが。
男子生徒たちはそうとは知らず、デレデレとした顔を浮かべながらロゼッタのことを褒めちぎっていく。
「ロゼッタさんはやっぱさすがですね! あのダンジョン、魔物が何匹も出てたって聞くし。あ、その時のこと詳しく聞かせてくれません?」
「それならこの後メシでも一緒にどう? 学園トップのロゼッタさんから魔法のコツとか色々と聞いてみたいなぁ」
話しかける口実だとでも思ったのか、それともあわよくばお近づきになりたいとでも思ったのか。
クラスメイトたちの時とはまた異なり、男子生徒二人の言葉の端々からは下心が見え隠れしていた。
その様子に、ロゼッタはクラスメイトたちに囲まれていた時よりも深い溜息をついた。
(またこういう人たちですか……)
言わずもがな、ロゼッタは人気がある。
銀細工を溶かしたかのような銀髪はそれだけで目を惹き、容姿端麗なその見目は女子が羨むほどだ。
だからというべきなのか、こうして食事に誘われることが少なくなかった。
ロゼッタは微笑みを崩さず、やんわりと断ろうとした。
が――。
「そういえば、何だっけ? ロゼッタさんに付いていったFクラスの生徒がいるって話。無謀もいいところだよなぁ」
「……」
「ホントだよな。Fクラスの奴は弱いんだから大人しくしとけってんだ」
「……」
「ダンジョン内には強い魔物もたくさん出てたんだろ? そんな中に入ってよく無事だったよな、ソイツ。ま、ロゼッタさんが一緒だったからだろうけど」
「……」
「ハハハ。大方、ロゼッタさんに付いていったら自分もヒーローになれるって思っちゃったんじゃねえの? まったく、ロゼッタさんからしたらいい迷惑――」
そこまで言葉を吐いた男子生徒たちが、突然凍りつく。
それまで微笑を浮かべていたロゼッタが鬼の形相に変わっていたからだ。
ロゼッタは氷塊を飛ばしたくなる気持ちを抑え、努めて冷静に、しかし冷ややかな声で男子生徒たちに向けて声を放った。
「貴方たち」
「「は、はいっ!」」
「何故知りもしない相手のことをそこまで馬鹿にできるのですか? 真実も知らずに彼を馬鹿にする権利が、どこにあるというのですか?」
「あ、ええと……」
「彼には私からお願いをして救出に同行してもらったのです。彼がいなければ取り残された生徒たちの救出は絶対に不可能でした。そんな彼のことを悪く言うようなら、許しませんよ」
「「す、すいませんでしたぁ!」」
ロゼッタの静かな威圧感に押され、男子生徒たちは平謝りした後、そそくさと逃げ出していった。
「ふぅ……」
ロゼッタは頭を振って、階段を登っていく。
そして最上階まで登ると、そこには目的の人物がいた。
「お、ロゼッタ」
「あ、師匠。奇遇ですね」
ルクスは幸いにも一人のようで、そのことにロゼッタは顔を綻ばせる。
先程の男子生徒たちに向けていた迫力はどこへやらだ。
「師匠はその、これからお昼ですか?」
「ああ。朝ダンジョンに潜ったらいい肉が手に入ってな。今日は天気も良いし、裏の丘で食おうかと。もし良かったらロゼッタも一緒に行――」
「はいっ! ぜひっ!」
「早い!?」
ロゼッタはルクスが困惑するほどの即答で返す。
その顔は満面の笑みだった。





