第3話 ルクスを知る少女
「ろ、ロゼッタ。来たのか」
「はい、来ました」
ダンジョン《ノームの洞窟》の入り口付近にて。
ルクスを追いかけてきたのは、リベルタ学園副生徒会長、ロゼッタ・シトラスだった。
ロゼッタはルクスの元までやって来ると、その印象的な銀髪を耳にかけて微笑む。
「ロゼッタ。さっきの不良くんは、どした?」
「ああ、アレですか。アレは他の生徒会の人間に引き渡してきたのでご安心を」
「アレ呼ばわりですか……」
「まったく。師匠に喧嘩を売るとは良い度胸ですよ、あの害虫」
「害虫に進化した!?」
先程ルクスに絡んでいた不良生徒のことを思い出し、ロゼッタは苦い顔を浮かべる。
苦い顔というより敵意剥き出しの表情と言った方が正しいかもしれないが。
「あ、すみません。ちょっと言葉遣いが乱暴になってしまいました」
「ちょっと……?」
ルクスは思わず指摘を入れ、相変わらずだなと深く嘆息した。
ロゼッタ・シトラス――。
数々の高難易度ダンジョンを攻略し、学園でトップクラスの実力を持つ少女。
優秀な人材が多く集まるリベルタ学園の中でも副生徒会長という大役を務めるエリート中のエリート。
誰にでも敬語で別け隔てなく話しかける、男女問わずの人気者。
彼女の学園内での評価はそんなところか。
しかし、それはロゼッタという少女のほんの一部分でしかない。
(やっぱり、学園内での雰囲気と違うよな……)
ルクスとロゼッタの出会いはおよそ半年前まで遡る。
それはあるダンジョンでの出来事で、その時のことを一言で語るのは難しい。
しかし、その時の一件がきっかけとなり、ロゼッタはルクスの実力を知ることになったのだ。
そしてそれ以降、ロゼッタはルクスと二人の時は彼のことを師匠と呼ぶようになる。
「でも、ああいうのはやっぱり良くないことです」
「ああいうの、とは?」
「師匠のことをFクラスの生徒だからって見下すことです。いや、誰に対してでも、クラスの上下で人を見ることは許せません」
「ああ……」
ロゼッタは怒りの表情を浮かべ呟く。
所属や立場で人を判断することはしてはならない。
常日頃からロゼッタが言っていることだ。
残念ながらリベルタ学園では先程のように、上位クラスが下のクラスの生徒を見下すことが少なくない。
ロゼッタが生徒会にいるのは、そういった問題を是正したいからという想いもあった。
(そういう正義感が強いところがあるよな、ロゼッタは。ほんと、立派だよ)
「と、今はダンジョンの探索ですね。今日はどの辺りまで行くんです、師匠?」
「あ、やっぱり一緒に行く流れなのね……」
「はい。師匠からはまだまだ学ぶことがたくさんありますから。ぜひお供させてください」
そんなやり取りを交わし、ルクスはロゼッタと共に《ノームの洞窟》のダンジョン攻略へと乗り出すことになった。
***
ルクス・ペンデュラム。
リベルタ学園の中でも最底辺のFクラスに所属する男子生徒。
特に目立った才は無く、攻略経験があるのも初級のダンジョンばかり。
交友関係はぼっち気味。同じFクラスの中でも特に人気者というわけではない。
それが、学園内における彼の一般的な評価だった。
しかし――。
「さすがです、師匠」
ダンジョン攻略に同行していたロゼッタが、目の当たりにした状況にただ一言呟く。
その視線の先には、巨大な竜の魔物を一撃で仕留めたルクスの姿があった。