第26話 共闘と救出
「師匠、何か策が?」
「ああ。方法はシンプルだけどな」
イビルローズの猛攻を凌いだ後で、ルクスはロゼッタと言葉を交わす。
先程の《灼熱の炎壁》で幾ばくかのダメージは与えたものの、イビルローズはまだ健在だ。
蔦で捕らえられた生徒二人もそのままで、イビルローズとの交戦を開始してから5分ほどが経過していることを考えれば猶予は少ないだろう。
だからこそ、ルクスは次の一手で決着をつけようと決めていた。
「俺が突っ込むから、ロゼッタはアイツを《氷針の矢雨》で攻撃してほしい」
「え? でも、そんなことをしたら師匠や捕らわれている生徒たちも巻き込んで……」
ロゼッタの反応はもっともである。
確かにロゼッタの氷魔法は威力十分だろうが、イビルローズに捕らえられている二人ごと撃ち抜いてしまう可能性があるためだ。
「大丈夫。きっといけるさ」
しかし、ルクスは笑ってロゼッタに告げた。
困惑の表情を浮かべたロゼッタに対し、ルクスは思いついた案を説明していく。
「――という感じで、ロゼッタは俺が合図したら魔法を打ち込んでくれ」
「な、なるほど。確かにそれならいけるかもしれません」
「しかし、タイミングはシビアじゃぞ、ルクスよ。それに、イビルローズもじっとしてはおるまい」
「大丈夫だって、ノームのじっちゃん。絶対に成功させっから。……と、それよりも時間がヤバいな。頼んだぞ、ロゼッタ」
ルクスは言い残し、単身イビルローズに向けて疾駆する。
――キシャア!
ダメージは受けていたものの、イビルローズも黙ってはいない。
そして、学習能力があったようだ。
単に蔦を払っただけでは《灼熱の炎壁》の餌食になると考えたのか、近くにあった岩盤を掴んで飛ばしてきた。
(こいつを躱せば……!)
ルクスは自身の体に向けて《一陣の旋風》を使用し、大きく跳躍してみせた。
以前コランを助けた時と同じ方法である。
そして一気に捕らえられた二人まで接近すると、ロゼッタに向けて命じた。
「今だ、ロゼッタ!」
「《氷針の矢雨》――!」
ルクスの指示を受けたロゼッタは氷魔法を発動。
すると、無数の氷刃が出現し、イビルローズの上空から降り注ぐ。
そのままではイビルローズのみならず、二人の生徒にも直撃してしまうだろう。
しかし、魔法を発動させたロゼッタには確信があった。
その場には、自分が絶対の信頼を置くルクスがいたからだ。
氷の刃が上空から着弾するまでには、1秒とかからない。
が、その僅かな間にルクスは魔法を発動させていた。
「《灼熱の炎壁》――」
自身と、捕らわれた二人の生徒を護る炎の壁。
ルクスが局所的に発動させたそれは、降り注ぐ氷の刃を溶かし、結果としてイビルローズがいる範囲のみに攻撃を集中させることに成功した。
――ギシャアアアア!?
何発かの氷刃に撃ち抜かれ、明らかにイビルローズの動きが鈍る。
空中に身を投げ出していたルクスを残った蔦で襲うが、以前ほどの速さは無く、それを見逃すルクスではなかった。
「師匠! 決めてくださいっ!」
「オーケー」
蔦で捕らえた二人を盾にする余裕もなく、無防備な姿を晒すことになったイビルローズ。
そこに向けて、ルクスは手をかざす。
「《業火の抱擁》――」
現れたのは螺旋状に渦巻く炎の柱だった。
それはイビルローズに絡みつくようにして立ち昇り、凄まじい火力で焼き尽くしていく。
そして、イビルローズは断末魔の声すら上げることができず、一瞬にして塵と化すこととなった。
「やった! やりました師匠!」
「まったく、無茶するわい」
駆けつけてきたロゼッタが歓声を上げ、ノームがすぐさま二人の生徒に黒の瘴気を無効化する結界を張る。
「ふぅ、何とかなったな」
生徒二人の無事を確認し、ルクスは大きく息をついたのだった。





