第25話 鉄壁
「聞いていた特徴と一致しますね。やっと見つけました」
「でも、あの植物に捉えられているとなると厄介だな」
《白水晶の遺跡》、第10階層にて。
ルクスたちはようやく救出対象の生徒たちを発見する。
が、生徒たちはイビルローズの蔦に捕らえられていた。
「お二人とも、聞こえますか!? 貴方たちを助けに来ました!」
「ぅ……ぁ……」
ロゼッタが二人に呼びかけるが、明確な反応は返ってこない。
入り口にいた生徒たちと同様、いや、それ以上か。
黒の瘴気を吸い込んだためか、意識が朦朧としているらしい。
「ノームのじっちゃん。ここからあの二人に結界を張ることは?」
「駄目じゃ。まずはあの二人とイビルローズを切り離す必要があるじゃろう」
「なるほど、な……」
ノームの返答を受けて、ルクスは眼前の敵を注視する。
――フシュルルル。
イビルローズは長い蔦を威嚇するように振り回しており、近づくことは容易ではなさそうだ。
「となると、まずはあのデカい植物をどうにかしなけりゃならないんだが」
「二人を盾にしていますね……。通常の魔物と違って知能も高そうです」
通常、植物系の魔物は火属性の魔法で対処するのが良いとされている。
ルクスたちなら、《魔弾の射手》や、《氷針の矢雨》による遠距離攻撃で屠ることもできるだろう。
しかし、そんなことをすれば二人の生徒まで巻き込んでしまう恐れがある。
捕らわれた生徒たちを傷つけず、イビルローズ本体だけを攻撃し沈静化させるという結果が求められていた。
加えて、黒の瘴気のこともある。
ダンジョンに入ってから20分以上が経過していることを考えれば、悠長にはしていられない。
「……」
「……」
ルクスとロゼッタは危険を承知でイビルローズとの距離を詰めていく。
接近戦で対応しつつ、隙があれば捕らわれている生徒たちを助け出そうという構えだ。
――キシャアッ!
短い咆哮とともに、ルクスの元へイビルローズの蔦が飛んできた。
横薙ぎに払われたその攻撃を跳躍して躱し、ルクスは一気にイビルローズとの距離を詰める。
が、すぐにまた別の蔦が払われ、ルクスはその進撃を阻まれることとなった。
「くそ……。近づけさせないつもりか」
ルクスは悪態をつきながらイビルローズを睨めつける。
「どうするんじゃ、ルクスよ」
「うん。確かにあの鞭みたいな蔦は厄介だけど、威力はそこまでじゃない。何発か貰う覚悟で近づければ何とかなるかなって」
「そうですね、師匠。少し危険ですが、手段を選んではいられません。多少のダメージは受ける覚悟で――」
ルクスとロゼッタが捨て身の特攻を考えていたところ、次に行動を起こしたのはイビルローズの方だった。
――ギシャアアアアッ!
「なっ――」
甲高い雄叫びとともに、イビルローズは自身の蔦を螺旋状に絡め始めた。
一本一本は細い蔦だったが、それが収束することにより、槍のような形状へと変化していく。
――シャアッ!
そして繰り出された攻撃は先程までとは比べ物にならない破壊力を兼ね備えていた。
地面の石畳をガリガリと削りながら、凄まじい勢いでルクスたちの元へと迫る。
とてもではないが、受けて無事で済む攻撃ではない。
それは完全に虚をついた攻撃で、イビルローズは勝ちを確信していただろう。
が、それを阻んだのはやはりルクスだった。
「《灼熱の炎壁》――!」
ルクスが唱えると、地面から炎の壁が立ち昇る。
それはイビルローズの攻撃に対しては相性抜群だった。
――シャッ!?
束ねられた蔦の先端は、炎の壁に触れた箇所から溶けるように焼け落ちていく。
そして、結果としてルクスたちにイビルローズの攻撃が届くことはなかった。
「さ、さすがです、師匠」
「ふぅ……。やられたかと思ったわい。よく反応したな、ルクスよ」
ロゼッタとノームが感嘆の声を漏らし、ルクスは次の攻撃手段を決める。
「ロゼッタ、ちょっと協力してくれ。俺があの二人を必ず救ってみせる――」





