第20話 銀髪美少女の来訪
朝、まだ陽が昇って間もない時間帯。
――コンコン、と。
ルクスの家の扉が軽やかに叩かれる。
「師匠、おはようございます」
「早くない?」
ルクスが入り口の扉を開くと、そこには一人の少女がいた。
リベルタ学園の生徒会副会長を務めるロゼッタ・シトラスである。
「朝になったら家に来てくれと師匠が言うものですから」
「それにしても早すぎないか? 朝というかまだ早朝だぞ」
まだ寝起きだったルクスは引きつった笑みを浮かべながらも、ロゼッタを中へと招いた。
「お、お邪魔します」
若干緊張した面持ちのロゼッタは、家の中にそろりと足を踏み入れる。
昨日のダンジョン探索に同行できなかった分、今日はルクスがお勧めのダンジョンを紹介してくれるとのことで、ロゼッタはここを訪れていた。
ルクスの家は大樹の根本をくり抜いたような造りになっていて、中は意外にも広い。
本来、リベルタ学園の生徒には学園が管理している宿舎が割り当てられるのだが、ルクスだけは例外で、この大樹の家が住処となっている。
こうなったのはリベルタ学園の学園長の仕業……というよりも計らいなのだが、ルクスとしてはこの家を気に入っていたし、それはロゼッタにとっても幸運なことだった。
なぜなら――。
(師匠がこの家に住んでいるおかげで、こうして気軽に会いに来れる。宿舎じゃこうはいきませんからね。素晴らしいことです)
ということである。
「そういえばこの間ダンジョンで採れた花がこの辺に……。お、あったあった。ロゼッタは座っててくれ。今紅茶を入れるから」
「あ、お構いなく」
「いいからいいから」
ルクスは先日ダンジョンで見つけた植物を取り出し、水を入れたポットを火属性魔法で熱していく。
これで紅茶を入れると旨いんだよなと、ルクスはしばしポットの方へと視線をやっていた。
そんなルクスの背中を、ロゼッタは椅子に座りながら眺めている。
(あ、いい……。何だかこういうの、いいです。まるで師匠と一緒に暮らしているかのようです。というか、学園長に掛け合ったら私もここに住まわせてもらえないでしょうか?)
ロゼッタはそんな飛躍した思考を巡らせながら、うっとりとした笑みを浮かべていた。
***
「それで、師匠。どんなダンジョンに行く予定なんですか? お勧めのダンジョンを紹介してくれるという話でしたが」
ルクスが淹れてくれた紅茶を飲みながら、ロゼッタが今日の予定について切り出す。
ロゼッタとしては正直、ルクスと一緒にダンジョンデートが楽しめればどこでも良いと思っていたのだが……。
「あー。それなんだけどさ、やっぱり止めにしないか?」
「え……」
その言葉に、ロゼッタは危うく手にしていたカップを取り落としそうになる。
「やくそく……」
涙目になり、力なく呟くロゼッタ。
その顔は絶望の色で染まっていて、それを見たルクスが慌てて訂正した。
「あ、違う違う。ダンジョンには一緒に行こうと思うんだけど、別の場所にしないかって話な。ごめん、言葉足らずだった」
「あ……。そ、そういうことですか」
とてつもなく深い安堵の息をついて、ロゼッタはほっと胸を撫で下ろす。
「でも、どうしてです? もっと良い所があるということですか?」
「昨日さ、話をしただろ? 精霊に会ったって。ロゼッタ、前から精霊に会いたがってたしさ、一緒に精霊に会いに行かないかと思ってな。昨日の場所には魔法陣を設置しておいたから転移術式ですぐに行けるし」
「あ、いいですね! 私、精霊さんとお話してみたいです!」
ちなみにロゼッタが精霊に会ってみたいのは、リベルタ学園の女子生徒の間で話題の「精霊に会うと願い事が叶う。例えば好きな人と結ばれる」という噂に起因するのだが、ルクスはそこまでは知らない。
とりあえず行き先は決まったということで、ルクスはパチンと指を鳴らす。
「よし、決まりだな。それじゃ今日は《ノームの洞窟》に――」
「いや、それには及ばんよ」
「え?」
ルクスの言葉を遮って、老人の声が響いた。
すると、風が鳴るような音とともに、ルクスたちの目の前に何かが現れる。
「な、何でノームのじっちゃんがここに!?」
ルクスが思わず叫ぶその先で、土の精霊ノームがぷかぷかと宙に浮いていた。





