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第2話 ルクスと銀髪の美少女


「よっし、放課後だ!」


 授業の終了を知らせる鐘が鳴って、ルクスはそそくさと教室を抜け出す。


 お目当ては日課にしているダンジョン探索だ。


 昼休みでは時間が限られているため、少しの探索をすることしかできないが、放課後となれば時間はたっぷりある。


(とりあえず昼の続きで《ノームの洞窟》の探索だ。できれば新エリアまで行きたいし、新種の魔物とかとも戦ってみたい。う~ん、楽しみだ!)


 このルクスという少年は、ダンジョンが好きだった。


 ――ダンジョンで出会うことのできる非日常的な景色を見た時の感動。

 ――新しい魔物、強い魔物との戦闘で味わえる緊張感。

 ――レア鉱石や植物など、珍しいダンジョン資源を発見した時の喜び。

 ――ダンジョンを踏破し、新しい魔法を習得した時の達成感。などなど。


 そういった、ダンジョンに潜ることでしか経験できない数々が、ルクスは好きなのだ。


 世間的には、やれ高難易度ダンジョンを踏破できた者は周りから称賛を受けるだの、将来の職に困らないだのと言われている。


 ある高難易度ダンジョンを初踏破した者が、王家直属の魔法師団のエースとしてスカウトされ、どこぞの公爵令嬢と婚約を結んだなんて眉唾ものの話もあるくらいだ。


 が、ルクスはそういう俗世的なことに興味がない。


 むしろ周りからの注目を浴びることでダンジョン探索の時間が減ってしまうことの方が嫌だった。


 この学園に入学したのも、ダンジョンに潜る許可が生徒には与えられているため。


 そうでなければダンジョン探索許可が下りる職に就く必要があるのだが、残念ながら今年でまだ16歳のルクスが就ける職にそういったものはない。


 人目を盗めばという条件付きにはなるが、朝や昼休み、放課後の時間を使って自由気ままにダンジョン探索ができるという今の環境が、ルクスにとってはかけがえのないものなのだ。


 だから今日も今日とて、ルクスはダンジョンへと向かう。


 ルクスがウキウキしながら外に出たところ、校舎裏で男子生徒に肩をぶつけられた。


「痛ってぇな。おいテメェ、ちょっと待て」

「え?」

「テメェ、邪魔なんだよ。ちゃんと避けろや」

「いや、そっちからぶつかって……」

「あァン? おいおい、ド底辺のF組がB組のオレに意見すんのか?」


 見るからにガラの悪そうな輩で、ルクスはなるほどと溜息をつく。


 要するにこの不良生徒はF組であるルクスを見て、因縁をつけてきたのだろう。


 底辺クラスに所属している生徒を上級クラスの生徒が見下したり、憂さ晴らしの道具にするのはよくあることだ。

 よくあることなのだが、早くダンジョンに向かいたかったルクスとしては迷惑千万極まりない。


「へっ。ちょうどムシャクシャしてたところだ。わからせてやんよ!」

「お、おいっ」


 校舎裏で人目につかないという状況が後押ししたのだろう。

 ガラの悪い不良生徒はいきなりルクスに対して殴りかかってきた。


(参ったな……)


 ルクスが心の内で思ったそれは、攻撃を仕掛けられたことに対してではなく、どうすれば事を早く処理できるかという問題に対してだった。


 不良生徒の拳をひらりと躱しつつ、ルクスは思考する。


 攻撃を仕掛けられて、躱して。


 そんな行為が何度か続き、不良生徒は苛立ちを覚えたようだ。


「テメェ! のらりくらりと!」

「む……」


 自分より下の、それも最底辺のF組の生徒にあしらわれていることが癪に障ったのだろう。


 不良生徒は右手を掲げ、土塊(つちくれ)を出現させた。

 初歩的な攻撃魔法の一種である。


 通常、生徒相手に攻撃魔法を使用することは校則で厳禁とされているのだが、頭に血が上った不良生徒はお構いなしに土の塊を射出しようとする。


(まったく。どうするかな……)


 ルクスは男子生徒の頭上をチラリと見やり、ある魔法を使用した。


「これでも喰らいやが――」


 土の(つぶて)を打とうとしていた不良生徒の言葉が不意に途切れる。


 原因は、頭部に降ってきた煉瓦(れんが)だった。


「が、はっ……」


 突如として襲われた衝撃に、不良生徒はガクリと膝をつく。


「あー、校舎の壁が崩れてきたのか。この校舎、だいぶ老朽化してるからなぁ。大丈夫か?」


 わざとらしく言って、ルクスは煉瓦が落ちてきた方向を見やる。


「こ、の……。マグレ野郎が……!」


 煉瓦の落下はルクスの魔法によるものだったが、不良生徒にとっては偶然としか思えなかったのだろう。


 諦め悪く土の礫を打とうとして、そこで声がかかった。


「何事ですか?」


 声の主は校舎の陰から現れた銀髪の少女だった。


「なっ……。ろ、ロゼッタ副生徒会長……」

「……」


 ロゼッタと呼ばれた銀髪少女は、隙のない所作で歩み寄ってくる。


 容姿端麗、と評するのが適切だろうか。


 銀細工を細く溶かしたような透き通った髪に、白く透き通った肌。

 着用しているのが規定の学生服でなければ、妖精と見紛(みまが)う者もいたかもしれない。


 それほどまでに見る者を惹きつける、圧倒的な存在感だった。


「貴方、生徒に向けて攻撃魔法を使おうとしましたね」

「あ、いや、違……」

「弁明は無用です。私がこの目ではっきりと見ましたから」

「あ、う……」


 不良生徒は先程までとは打って変わって、従順な態度を見せる。


 それもそのはず。


 数々の高難易度ダンジョンを攻略し、学園でトップクラスの実力を持つ美少女。

 入学早々に最高峰のAクラスに転入するという異例のスピード昇級を決め、その容姿も相まって、憧れる生徒は数え切れぬほど。


 それが彼女、ロゼッタ・シトラスだった。


「事情を聴取しますので、生徒会室までご同行願います」


 ロゼッタは淡々と要件を述べ、不良生徒を連行しようとする。


「よし。生徒会の人が来たなら後は任せられるな。それじゃ、俺はこれで!」

「あ、ちょっ――」


 ルクスはそう言い残し、これ幸いとその場を去る。


 ロゼッタが引き留めようとするが聞く耳持たずで、ルクスはすぐに校舎の角を曲がっていった。


   ***


「それじゃ、改めて今日のダンジョン攻略、行きますか」


 昼休みと同じ洞窟ダンジョンまでやって来たルクスは、パチンと手を叩いて攻略に乗り出そうとする。


 と――。


「師匠ー!」

「げっ……」


 振り返ると、ルクスの元にブンブンと手を振りながら駆けてくる人物が一人。


「師匠! 私を置いて行かないでください!」


 先程までのクールな雰囲気はどこへやら。


 顔を綻ばせながら駆け寄ってきたのは、リベルタ学園副生徒会長――ロゼッタ・シトラスだった。



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元社畜の転生おっさん、異世界でラスボスを撃破したので念願の異世界観光へ出かけます ~自由気ままなスローライフのはずが、世界を救ってくれた勇者だと正体バレして英雄扱いされてる模様~





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