第17話 八大精霊ノームとの邂逅
「な、何だ?」
「何だとは何じゃ。お主こそ、何者じゃ?」
《ノームの洞窟》の200階層。その最奥部にて――。
ルクスの目の前に姿を現したのは、小人の老人だった。
老人は白く長い髭を生やし、ふわふわと宙に浮いている。
頭には先の尖った帽子を被っており、大きさはルクスの顔と同じくらいしかない。
そこからして普通の生物でないことは明らかだったが、ルクスはその外見に見覚えがあった。
(確かこれ、教本にあった……)
「えっと。もしかして、精霊ノーム?」
ルクスはリベルタ学園の教本に描かれていた絵図を思い出し、問いかける。
「いかにも。儂はノームじゃが?」
「やっぱり! やっと会えたっ!」
ずっと探し続けていた精霊と会えたことで、ルクスは思わず声を上げた。
精霊ノーム――。
八大精霊の中でも土の属性を司るとされる存在である。
その姿を見たことのある者はいないとされているはずなのに、なぜ学園の教本に描かれていた見た目と一致しているのか。
ルクスはそこに引っかかりを覚えたが、それよりも今は歓喜の方が勝っていた。
ノームの小さい手を掴んで、そのままブンブンと振り回す。
「やっぱり精霊はいたんだ! すげぇ!」
「お、おい、お主! 一旦落ち着け! 落ち着くんじゃ!」
「あ、ごめん」
振り回されていたノームが声を上げ、ルクスはパッと手を離す。
「ふぅ。腕がちぎれるかと思ったわい」
「ははは。本当に会えたもんだから、つい嬉しくって。しかも喋れるみたいだし」
「で? お主はいったい何者なんじゃ?」
「俺はルクス・ペンデュラム! よろしくな、ノームのじっちゃん!」
「じっちゃ……。はぁ、まあいいわい」
ノームは宙に浮いたままで溜息をつき、呆れたようにルクスを見つめた。
「それで、ルクスとやら。お主、どうやってここに来た?」
「どうやって、って言われても。普通に上から?」
「上? 地上ということか?」
「そうそう」
ルクスが告げると、ノームは何かを考え込むようにして髭を擦る。
ノームは何やら難しい顔をしていたが、一方でルクスは、精霊っていうわりには人間とあまり変わらない感じなんだなと、密かな感激を覚えていた。
「ふぅむ。こりゃあ驚いた。見たところ普通の人間のようじゃが、まさかこんな深い場所にまで潜ってくる者がおるとはの」
「精霊を見つけたかったからな。こうして会えて嬉しいよ。話してみたかったし」
「しかし、途中の魔物はどうしたんじゃ? 特にここと、この上の階層にはかなり強い魔物がいたはずだが? 上手く抜けてきたのか?」
「ああ。あの壁と骨が動くやつか。アイツらならぶっ倒してきたぞ」
「ぶっ倒してきた、だと? た、確かに奴らの気配が感じられん。待て、そういえばルクスよ。お主、よく見たら一人ではないか。他の人間はどうした?」
「他の人間? 俺は一人で来たんだけど」
「一人……。一人であれらの魔物を討ち倒してきたというのか?」
「うん」
ルクスが言って、にかっと笑う。
対してノームは一瞬きょとんとした顔を浮かべ、そしてプルプルと肩を震わせ始めた。
「く、くく……」
「ノームのじっちゃん?」
「くはっはっはっは! まさかあの魔物どもを討ち倒す人間がおるとはな! しかも一人でだと? こいつは面白い!」
大口を開けて笑い出したノームに、今度はルクスが困惑した顔を浮かべる。
そんなルクスの反応が面白かったのか、ますますノームは笑い声を上げていた。





