第16話 200層の最奥部にあったもの
【ノームの洞窟:200階層】
「ヒリヒリするな……」
《ノームの洞窟》の200層の回廊。
先の戦闘でルクスが放った凍結魔法により、そこは氷で覆われた空間と化していた。
「やっぱりあの魔法は出力のコントロールが難しいな。俺、氷系の魔法はそんなに得意じゃないしなぁ。この分だと普段使いはまだ厳しいか」
ルクスの右腕は赤く腫れ上がっており、軽度の凍傷を負っていた。
先程使用した《絶対零度の息吹》の余波によるものである。
八大精霊のダンジョンで習得するような魔法は高威力なものも多いが、その分扱いが難しいのだ。
だからこそ、《魔弾の射手》や《念操作魔法》などの上級魔法を当たり前のように使いこなしているルクスは異常と言えるのだが……。
こんな風にならなければもう少し楽ができるんだけどなと、ルクスはボヤきながら氷の回廊を進んでいく。
「でも、あそこであの魔法を思いついたのはロゼッタのおかげだな。帰ったらお礼を言おう」
そうして笑みを浮かべるルクス。
今、ルクスが200層での死闘を制しながらも前に進んでいるのは、二つの目的があったからだ。
一つは、ダンジョン攻略の恩恵として授けられる魔法の習得。
基本的にダンジョンは節目となる階層、例えば5階層や10階層の攻略時に新たな魔法を習得できることが多い。
ルクスが発見した10層より先の階層についてもそれは一緒だった。
だから、ルクスはこの200層にも魔法を習得するための場所――「魔法陣」があると睨んでいた。
そして、ルクスが進むもう一つの理由は、精霊の発見である。
ルクスが今いる《ノームの洞窟》を含め、「八大精霊ダンジョンには精霊が住んでいる」という噂がリベルタ学園にはあった。
未だ精霊を発見した者はおらず、精霊を見つけることで大きな力を授かるだの、願い事が叶うだのといった噂だけが一人歩きしている状態だ。
ただ、ルクスが精霊を探しているのは噂の真偽を確かめるためでも、発見した際の恩恵を受けたいからでもない。
単に、精霊を見つけたらどんな奴なのか話をしてみたい、という純粋な好奇心からである。
「この先にいると良いんだけどなぁ」
そうしてルクスが呟き、歩くこと数分。
「お?」
回廊の先に見えたのは巨大な扉だった。
「お、これはいかにも精霊がいそうな……。いや、待てよ? 中に入ったらまた別の魔物がいるとか?」
ルクスは独り言を呟き、慎重に扉を開ける。
中に魔物がいるような様子はなかったが、ルクスとしては先程の例もあるため警戒しながら足を踏み入れた。
恐らくここが200階層の最奥部なのだろう。
円形の部屋に、高い天井。
そしてどことなく感じる静謐な雰囲気に、ルクスは思わず息を呑んだ。
「お、あれは――」
部屋の中心部まで来たルクスが部屋の奥にあるものを発見する。
それは淡く発光する魔法陣だった。
所々に複雑難解な紋様が刻まれ、土色に輝くその様は、このダンジョンの性質を表すかのようだった。
魔法陣自体は、ルクスもこれまで何度か目にしてきたことのある代物である。
しかし、この200層の最奥部にあった魔法陣は、明らかに他のものと異なっていた。
「い、今までで一番デカいな……」
そう。
そこにあった魔法陣は、どのダンジョンで見つけてきたものよりも巨大だったのだ。
どのような魔法が習得できるのか。
自然と期待感が高まり、ルクスはその魔法陣の上に足を踏み入れようとした。
と、その時。
――何者じゃ?
「え?」
不意に背後から響いた声に驚き、ルクスは振り返る。
そこには、長い髭を生やした小型の老人がいて、ふわふわと宙に浮いていたのだった。





