第11話 八大精霊ダンジョン攻略へ
「ルクス君、これからダンジョン攻略に行くの?」
「ああ。明日は学校が休みだからな。今日はこの後ガッツリ潜ろうと思って」
放課後――。
ルクスは廊下を歩きながらコランと会話していた。
珍しく昼休みも教室で過ごし、しっかりと昼食を摂ったルクスだったが、それにはわけがある。
目標としてきた、《ノームの洞窟》200階層への挑戦――。
今日はそんな節目の攻略を予定していたからである。
既に197層まで攻略していたため、残るは198、199、200の3階層。
それをルクスは今日で一気に攻略するつもりでいた。
「どのダンジョンに行くの?」
「ええと、ちょっと《ノームの洞窟》に」
「ノッ……!?」
ルクスの答えを受けたコランが変な声を出して固まる。
そしてキョロキョロと辺りを見回し、近くに誰もいないことを確認した。
「の、《ノームの洞窟》って、八大精霊が住まうとされる最難関ダンジョンの一つだよね?」
「んー、でも精霊なんて見たことないけどな」
「もしかして、いつもルクス君が昼休みや放課後にいなくなるのって……」
「そうなんだ。最近はそこの探索が楽しくて」
「はぁ……。ほんと、ルクス君って凄い人だったんだね」
呆れと畏敬の念が入り混じった溜息を漏らすコラン。
コランが今言ったように、八大精霊ダンジョンというのは、このリベルタ学園でも最難関とされている場所である。
出現する魔物強敵揃いで数も多い。
だからこそ、そこに潜るのが楽しいなどというルクスの発言は異常だった。
「それで、どのくらいの階層なの?」
「あー」
「5階層とか? も、もしかして8とか9まで行っちゃってたり?」
「内緒ということで」
ダンジョンの階層は最大で10、というのがこの世界での常識である。
コランにしてみれば、まさかルクスが197という馬鹿げた階層まで到達しているとは思わない。
話すとまた驚かれそうなので、ルクスは笑ってごまかすことにした。
「あ」
と、進む先にいた人物を見てルクスが声を漏らす。
そこにはリベルタ学園副生徒会長、ロゼッタが立っていた。
「ししょ……コホン。ルクスさん、ちょっとよろしいですか? ご友人の方、すみませんがちょっとこの人をお借りしますね」
「お、おい」
ロゼッタはコランに向けて一礼すると、ルクスの服の袖を掴んで歩きだす。
そして、階段下の人目につかないところまでやって来て振り返った。
「すみません師匠。突然お呼びして」
「どうしたんだ、ロゼッタ。また一緒にダンジョンに行きたいとか?」
「いえ、そうしたいのはとっても、すごく、すごーく山々なんですが。実はこの後生徒会の公務が入ってしまって……」
「あ、そうなのか」
「残念ながら……」
「律儀だなぁ。そんなことわざわざ伝えに来なくても――」
「ハァ……。あの生徒会長、よりにもよって今日仕事を振らなくていいのに」
「聞いてる?」
どうやら同行できないのがよほど残念らしい。
ロゼッタは曇った表情で深い溜息をついている。
そんなロゼッタを不憫に思い、ルクスはある提案をすることにした。
「まあ、そんなに落ち込むなよ。この前お勧めのダンジョン見つけたからさ。明日の休日とかで一緒に行こうぜ」
「行きますっ!」
「声でっか」
「や、約束ですよ師匠。絶対、絶対ですよ!」
「わ、分かった分かった」
ロゼッタは興奮した様子でルクスに詰め寄る。
どうやら彼女の中で先程のルクスの言葉は「明日デートに行こう」と同義だったらしい。
「これで仕事も頑張れます!」と言い残し、ロゼッタは去っていった。
「ルクス君、もういいの?」
「ああ。どうやら簡単な報告をしに来ただけだったらしい」
コランの元まで戻り、ルクスはやれやれと頭を掻く。
と、ルクスが向き直ると、コランは呆然とした様子だった。
「どした? コラン」
「いや……。あれ、ロゼッタ副生徒会長だよね? あの学園トップクラスの実力って言われてる。ルクス君、知り合いだったの?」
「ん、まあ、そんなところかな」
「ハハ……。なんかもう、あんまり驚かないや」
そう言って、コランは乾いた笑いを漏らしたのだった。
***
「それじゃあ、行くか」
コランと別れた後で。
以前ロゼッタと来た際に記録しておいた転移術式を使い、ルクスは《ノームの洞窟》197階層までやって来ていた。
「よっし。今日こそ目標の200階層を攻略してみせるぞ!」
意気揚々と岩壁に囲まれた洞窟の中を進むルクス。
そうして、ルクスの八大精霊ダンジョン攻略が始まろうとしていた。





