第1話 少年と、ダンジョン攻略学園
【ノームの洞窟:???階層】
「昼休み、あと30分か。よっし、頑張るぞ」
とある洞窟ダンジョン、その地下空間にて。
黒髪の少年――ルクス・ペンデュラムは懐中時計を仕舞いながら呟いた。
「できればメシも確保したいところだけど……お、いい具合の奴がいるな」
目の前に現れた巨大な黒竜を見て、ルクスは恐れおののくどころか舌なめずりする。
コイツは前足が美味いんだよなと。
そんな緊張感の無いことを考えながら、ルクスは右手を掲げる。
――グルガァッ!!!
黒竜の方もルクスに気づいたのか、短く咆哮すると凄まじい勢いで迫ってきた。
そしてその勢いのまま、ルクスにかぶりつこうと鋭い牙を覗かせる。
ルクスは武器すら持たず丸腰の状態だったが、そんなことは関係なかった。
「白の魔弾よ、貫け――」
――ガルグァ!?
黒竜は手を、足を、そして胴体を、ルクスが放った「白い何か」に貫かれる。
それは白い閃光が走ったようであり、一瞬、しかし確かに暗い洞窟内を照らす光となった。
「ごっつぁんです」
ルクスが合掌しながら呟く。
その先で、黒竜は地面に倒れ動かなくなっていた。
「よし。それじゃあ少し頂戴して、と」
倒れた黒竜の前足から少量の肉を剥ぎ取ると、ルクスは人差し指から小さな炎を放出する。
ブスブスと炙り、一口。
「うん、美味い! やっぱりブラックドラゴンの肉はいいな。学園の購買でも売ってほしいくらいだ」
ルクスは満足げに言って、洞窟ダンジョンの更に先へと進む。
その傍らには、数多くの魔物が山となり積み重なっていた。
***
「ルクス……、ルクス・ペンデュラム。起きろー」
午後になって――。
ルクスは自分の机をコンコンと叩かれ、まどろみから覚める。
顔を上げると、そこにはボサボサ髪の中年男性が立っていた。
「あ、オリオール先生。おはようございます」
「おはようじゃないぞ、ルクス。もう午後の授業だっつの」
その声で、ルクスと同じ部屋の中にいた数人からクスクスと笑い声が漏れる。
「今はダンジョン基本学の時間だ。ちゃんと聞けよー」
オリオールと呼ばれた中年の教師はボサボサの髪を更に掻き乱し、教壇へと戻っていく。
冴えない中年教師という風ではあるが、どこか飄々としていて、ルクスはそれがあまり嫌いではなかった。
授業は退屈だったが……。
「そんじゃ、授業再開すんぞー。このリベルタ学園の広い敷地内には、『ダンジョン』と呼ばれる迷宮が数多く存在してるってみんな知ってんな? 卒業までに数多くのダンジョンを攻略することがお前ら生徒の目指すことで――」
部屋の中にいたのは男女混合の十名ほど。
その約十名の少年、少女に向け、オリオールは話し始める。
――王立リベルタ学園。
それが今、ルクスのいる場所の名前だ。
世界に数多く存在するダンジョンという名の迷宮。
それらを攻略するための教育と実践を行い、優秀な人材を育成、輩出するための学園である。
何故、ダンジョンを攻略することが優秀な人材の育成に繋がるのか?
それは、各ダンジョンを攻略した際にもたらされる「恩恵」にある。
「ダンジョンを攻略することは、お前ら生徒にとってもメリットのある話なわけだが……。それは何故か? じゃあ、シエスタ。答えてくれ」
「は、ははは、はいっ! えっと、ダンジョンを攻略した者は、魔法を習得できるから、です」
「おっけー。今シエスタが答えてくれた通りだ。実際にどういう現象が起こるかは省くが、ダンジョンを踏破することでお前らは新しい魔法を習得できる。色んな魔法が使えればそれだけ将来就く職にも困らないってわけだ。あと、できるだけ要職に就いてくれた方が学園としても鼻が高い」
「せんせぇ~、それ教師が言って良いんですか~?」
一人の女子生徒がオリオールを茶化すと、クラスの中から笑いが起こる。
「まあ、事実だし……。とにかく、習得できる魔法はダンジョンの等級が上がるほど強力かつ便利なものが多く――って、これも基本だな」
オリオールはクラスにいる全員を見渡しながら言葉を続けた
「で、この学園ではどれだけ高難易度なダンジョンを攻略できる生徒かでAからFにクラス分けしてるってわけだ。今はFクラスのお前らも、上のクラスを目指して頑張るんだぞー」
語られる内容が既知のものだったため、ルクスはあくびを噛み殺して窓の外を見やる。
そこには広大な土地があり、洞窟や森林などのダンジョンが数多く存在していた。
ルクスにとっては退屈な授業より、ダンジョンに潜ることの方がよっぽど魅力的だ。
早く放課後にならないかと、窓の外の景色に思いを馳せていたところ、オリオールから声をかけられる。
「おーい、ルクス。ちゃんと聞けっつったろ」
ルクスが教壇に視線を戻すと、オリオールが溜息をついていた。
「ったく。そんなんじゃいつまで経っても上のクラスには上がれねぇぞ」
「はは……。すみません」
(俺はクラスの昇格なんて興味ないんだけどな……。ただ、ダンジョンに潜っていられれば、それで――)
ルクスはそんなことを考えたが、口に出したら怒られそうなのでヘラヘラと笑ってごまかすことにする。
「それでだ、ダンジョンに潜む魔物はダンジョンの等級が上がるほど凶悪になる。例えば《ノームの洞窟》っていう高難易度ダンジョンの深い階層には、ブラックドラゴンみたいな化け物がいるってのが有名な話だな。お前らもゆくゆくはそういう魔物を倒せるように――」
「先生―、ブラックドラゴンなんて私たちFクラスの生徒に倒せるわけないじゃないですか」
「そうそう。あんなの倒せる奴がいたら大ニュースになってますよ」
「最強格のドラゴンを相手にできるなんて、国の魔法師団とかも放っておかないんじゃない?」
「それどころか、世間的にも英雄扱いだろ」
オリオールの言葉に生徒たちが反応し、クラスはまた笑いに包まれて。
ルクスはそんなやり取りを聞きながら、窓の外に視線を戻していた。
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▼タイトル
元社畜の転生おっさん、異世界でラスボスを撃破したので念願の異世界観光へ出かけます
~自由気ままなスローライフのはずが、世界を救ってくれた勇者だと正体バレして英雄扱いされてる模様~
https://ncode.syosetu.com/n4235jk/
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