佐々木桜と消しゴム④
今は休憩時間だ。クラスメートの男の子が消しゴム落としで盛り上がっている。消しゴム落としとは、机の四隅に消しゴムを配置し、順番に指で弾いて相手の消しゴムを落とし、最後の一つになるまで続ける、勝者はたった一人の消しゴムのみ。まさにバトルロワイヤルだ。
持ち主は、消しゴム落としをじっと見つめている。感情は読み取れないが、どことなく気になっている様に感じる。
「アレの何が楽しいんだろう」隣の席のクラスメートの女の子がそう呟くと、持ち主はスッと視線を俺に向けた。まさか消しゴム落としに参加したいのだろうか。
消しゴムとしての機能を正しく使ってもらいたいのが本音だが、消しゴム落としに参加したいのであれば、持ち主の為、俺は全力で勝ちに行く。当然だが、動ける機能など備わっていない。勝手に消しゴムが動けば、唯のホラー現象だ、消しゴム落としどころではない。
持ち主が席を立つ瞬間、隣の席の女の子の言葉に持ち主の動きが止まった。「ほんと男子って子供よね、桜ちゃんもそう思わない?」
持ち主は腕を組み、目を瞑り、しばし無言の後「やってみれば以外と楽しいかも」そう返したのだ。「桜ちゃんってあんな遊びに興味あるの?」持ち主は微動だにしない、熟考しているのだろうか。「消しゴム一つであれだけ楽しめるのって凄い事じゃない?」隣の席の女の子は首を傾げ、眉間に皺をよせながら、次の言葉を考えている。
流石持ち主だ、消しゴムの価値を上げ、男の子の評価も落とさない、素晴らしい言葉だ。俺もその意見には賛成だ。俺のやる気も最高潮だ。隣の席の女の子はまだ考えがまとまっていない様子だが、持ち主は席を立ちあがる。
「桜ちゃんも消しゴム落としするの?」席を立つ持ち主に向かって疑問を投げかける隣の席の女の子。「ん?なんで?興味ないしやらない」「え?やらないの?」「うんトイレに行ってくる」一連の会話の後、持ち主は教室を出て行った。女の子は持ち主の背を呆然と見つめている。
「今って参加する感じだったよね・・・」隣の席の女の子の呟きに、激しく同意したい。しかし簡単に思考を読ませないなんて、流石持ち主だ。
しかし、俺のやる気は空回りし、悶々とした感情はどうやって処理すればいいのか。俺はそう思った。