佐々木桜と消しゴム②
俺の持ち主、佐々木桜は一心不乱に絵を描いている。どんな絵を描いているかは俺からは見えない、まだ一度も消しゴムとしての役割を果たせていないからだ。今は社会の時間だ。絵は一切授業には関係ない。
「ねぇ桜ちゃん、さっきからなんの絵を描いてるの?」隣の席のクラスメートの女の子が、絵が気になったのか質問している。俺も気になる。
「秘密」そう言って持ち主は教えてはくれない。質問をした女の子も「ふーん」と一言だけ呟き、興味は失せたようだ。名も知らぬクラスメートの女の子よ、もっと頑張れ俺は凄く気になるのだ。
教室では先生が黒板に書いた文字を生徒達がノートに写している静かな音が、心地よいBGMになっている。その中で持ち主だけが、抑揚のきいた鉛筆の音を奏でている。やはり周りとは一味違う。もちろん絵を描いているからだ。
持ち主の筆が止まり、じっと見つめている、見つめている先にあるのは俺だ。持ち主の手が俺に近づいてくる、絵もきになるが、そんな事よりも消しゴムとしての役割を果たす事が俺の使命だ。
俺はついに持ち主の手の中に納まるが、持ち主は消しゴムのカバーをゆっくりとずらしていく、何かが違う、俺の真っ白な部分をさらけ出すのはなんか違う。カバーをずらしても何も消せない。上げたり下げたりしても消しゴムとしての役割は果たせない。
「なんかこの感覚、癖になるかも・・・」持ち主は俺の新しい使い方を編み出したのかもしれない。消す事以外にも俺の役割があったのかもしれない。そんな事を思わせる持ち主の呟きに俺は、やっぱり何かが違う、そう思った。