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取るに足らぬ人生

作者: kazuunnabe

 恥の多い人生を歩いてきました。思えば人の顔色ばかり伺って、言いたいことも、やりたいことも言えない、そんな平凡な人生を送ってきたような気がします。生まれは京都で、育ちは埼玉、取るに足らぬどこにでもある経歴で、ささやかな一戸建てと妻と一匹の犬とごくごく、普通の生活を埼玉の郊外でしております。思えば、自分の欲求を抑えて生きてきたような気がします。喧嘩やひとと衝突することを避け、へらへらとわらい、しかしそれでも必死にいきておりました。後頭部のハゲも気になるようになってきました。そんな男です。


 他人目を気にしないで、自分の思いのまま生きてみたい、そう思うことはよくありました。ちょうどオヤジのように、です。職人がたきでした、オヤジは飲む打つ買うは当たり前の昭和の男でした。よく母親を泣かせておりました。


 最初に覚えてる記憶はたしか、京都の家でしたか、両親が神妙な顔で話してる姿を盗み見しているときです。離婚だとか、そういう話をしているように聞こえました。言っただとか、言わないだとかそういう夫婦の喧嘩になりそうな種が当時は多かったのだと思います。すごく、怖かったのを覚えております。自分の安定した基盤というものが実は豆腐のように脆いものでかろうじて、成り立っているのだ、そう思いました。結局は離婚などせず両親は仲良く、とまでは言えませんが、実に平凡に夫婦としての人生を全うしました。ただ、なぜか私は子供の頃から言い知れぬ不安というものを抱えながら生きてきました。42になった、今でも、です。


 小学校3年のことでしたか、クラスで遠足に行くイベントがありました。近所の山を登るささやかなイベントではありましたが、私は前日からウキウキして、まともに寝ることができませんでした。明日雨が降ったらどうしようだとか、忘れ物がないかを心配して何度も荷物を確認してたと記憶しております。ちょうどプロ野球のシーズンで、巨人ファンの父が白いランニングシャツと短パンでビールを飲んでいたと思います。サッポロの瓶ビールを枝豆やら冷奴などをアテに一杯やってる、そういう姿を見るのがなぜか好きでした。大人になって当然酒を飲むものと思っておりましたが、私は下戸でありまして、なかなか人生わからないものです。でもサッポロの瓶ビールを見ると今でもあの父の背中を思い出すのです。


 さて、遠足ですが、当日は天気も良く、まさに遠足日和といった塩梅でありました。朝までうまく寝付けなかったわけですが、気分が高揚しているせいか、朝から余計なことをずっと喋って父に殴られました。だまれ!といいながらなぐる父のゲンコツはハンマーのように重いものでした。そんなわけでシュンとなりながら家を出ましたが、楽しいイベントであることは変わりありません。学校へ着く頃にはケロッとした態度で、朝のことなどこれ微塵も覚えてない有様でした。仲の良い中川君は弁当にハンバーグを入れてもらったとウキウキしておりました。そこではた!と気づいたのです。持って行くべき弁当を持ってきてないことに、それに気づいたのです。前日、何度もバックの中身を確認したせいで、弁当を玄関に置いてしまったのであります。忘れないように玄関に置いたのが仇となりました。こういうことは私の人生で良くあることなのです。やらなくていい余計なことをすることで、受験も、就職も、すべて失敗しております。


 さて、大事な弁当を忘れたわけですが、なんとも先生に伝えることができません、皆の目もありますが、恥をかいたり注目されるのを誰よりも気にする性格です。お昼の弁当までバレないのであれば、まだ言う必要はないだろう、つまり問題の棚上げというやつですなあ。私の人生ではこういうことが良くありました。

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