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またまたブクマが増えていて感激しております…。
ありがとうございますm(_ _)m
馬車に乗る際、お兄様はモカの同乗を拒否してわたくしと二人だけで乗り込んだ。確かに王国一の天才魔術師であるお兄様がいれば、護衛的な意味ではこれほど心強い人はいないのだが…。
「…で、誰が運命の王子様だって?」
そう思ったのも束の間、お兄様が馬車に乗りドアが閉まった瞬間、わたくしはお兄様に後ろから抱き締められていた。先ほどまでよりは明らかに低い声で耳元で囁かれ、今度は心臓が凍りそうになる。
ご、誤魔化せなかった…!てっきり、話を逸らせたかと思っていたのに…!
今からでもどうにかして誤魔化さなくては。わたくしは、顔が引き攣らないよう必死に笑顔を保つ。
「な、なんのことです?空耳じゃありませんこと?」
「さっき言ってたでしょう?運命の王子様が現れたって。誰?いつの間にそんな人と出会っていたの?お兄様にも、フルールの運命の王子様を教えてほしいなあ」
「だ、だから、わたくしにはなんのことだか…っ」
後ろから抱き締められ、逃げられないよう片手で頬を撫でられる。
一見女性のような中性的な美貌のお兄様でも、その掌は男性のもの。大きく筋張っていて、それにかかればわたくしの顔なんて簡単に固定できる。やろうと思えば首を締めてぽっきり、なんてことも可能だろう。
そう考えるとゾッとした。わたくし、今お兄様に命を握られているも同然だ。
というか、やっぱり、どう考えてもお兄様も逆行してきているでしょう!逆行前のお兄様、どう考えてもこんなに怖くなかったですもの。触れ合いだって、兄妹間のごくごく普通のものでしたし、こんな、こんな恐怖だってあの最期意外味わったことないわ!
フルール・ロサノワール。逆行して僅か数時間、早くもラスボスに捕まりそうです。こ、こういう時は…っ、
「…そんなに震えないで?お兄様は別に、怒ってるわけじゃないんだよ?」
「で、でも、だってお兄様…なんだか怖いですわ。わたくし、何か…ううっ」
秘技・泣き落としですわ…!
「ああっ、ごめんねフルール!違うんだ、怖がらせるつもりはなかったんだよ…!」
「ご、ごめんなさい。わたくし、こんな、泣くつもりじゃなくて…ひっく」
「ふ、フルール。ど、どうすれば許してくれる?本当にごめんね?ああっ、くそ、どうすれば…っ」
泣き落としはお兄様には十分有効だったようで、さっきまでのすぐにでも一人殺せそうなオーラはどこへやら、泣き出したわたくしをどうしようとオロオロしている。
…ふふ、やはり女の涙に男は弱いのね。え?涙で落とすなんて卑怯だって?男を涙で落として何が悪いの?落とす必要があるなら嘘泣きであろうと泣いて落とすのが賢い女のやり方ではなくて?
使える武器は最大限に使わなければ。じゃないと、宝の持ち腐れってやつでしょう?
「ぐすっ…お兄様、もう怒っていません…?」
「うん、怒ってないよ。もともとフルールに怒っていたわけじゃないんだ。ただ、あの王太子にどうしても腹が立って…」
「?殿下にですか…?」
「うん。さっきフルールが、その…運命の王子様は王太子殿下だって言ってたから。いつの間に殿下は、私の可愛いフルールに手を出したんだって思ってね」
「そうだったんですか…」
うん、ばっちりあの宣言を聞いていらっしゃったんですね。それなのに知らないフリをして、わざとわたくしから聞き出そうとしていたんですか。わかっていたけど、なんて鬼畜なお兄様なのかしら…。
隣でしゅんと項垂れている姿はまるで犬のようで罪悪感を抱かされるが、この人はつい数時間前、王国を滅ぼした張本人なのよ。わたくしは騙されないわ。
「でもお兄様、おかしなことを仰いますのね。いつの間にも何も、王太子殿下はわたくしの…」
婚約者でいらっしゃいますのに。
そう言おうとした瞬間気づいた。違う。わたくし、王太子どころか婚約者なんてまだいないわ…!?
逆行前の記憶が強かったから、そのままで認識していたけれど。この身体は当然わたくしが逆行する以前も生きてきたわけで。
その中で、わたくしは以前とは全然違う生活を送っていた。お茶会には出ず、ずっと公爵邸で過ごす日々。だから知っている同年代の方なんておらず、当然王太子とも出会っていない。だから、王太子を婚約者にって喜んだ記憶どころかそんな話をされた記憶すらない…!
愕然とした。えっ、これじゃあ王太子妃なんて目指せないじゃないの…!
逆行前と逆行後の人生が違っていたパターン。
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