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まとめて更新しました!

1話からお読みください。

 わたくしは素直にベッドから降りた。確かにこの格好では学園どころか部屋の外にも出られない。モカは予備の制服を用意している。


 …ともかく、色々整理してわかったことがある。


 この不可思議な逆行という現象。これは恐らく、いや、十中八九お兄様がやったことで間違いないだろう。状況的にもそうだが、何よりもお兄様は王国一の魔術の使い手。歴代最高の魔術師と言われ、史上最年少で魔術師団の団長を務めていた。


 あのお手軽なギロチン台直送のファスト処刑が実行されたのだって、お兄様が仕事で国外に行っていたというのも大きいのだろう。なぜならお兄様は、唯一の家族であるわたくしをそれはそれは大事にしてくださっていたから。お兄様がいたなら間違いなく反対される。魔術大国であるアルカディア王国では、魔術師団長の権限は絶大だ。というか、ノクス・ロサノワールという存在自体が既に一種の恐怖となっていた。本当、そんなお兄様を持つわたくしをよく処刑しようとしたよなと、我ながら陛下に呆れ返る。


 まあ、そのお兄様のわたくしへの溺愛ぶりには、実は家族愛どころか肉欲まで含まれていると数時間前に知ってしまったのだが。とても…とても由々しき問題だが、それは一旦置いておいて。


 ということは、だ。きっとお兄様もわたくしのように逆行前の記憶を持っていると考えられる。というかわたくしが持っていて逆行を引き起こした張本人が持っていないはずがない。


 なぜ逆行を引き起こしたのか。学園での成績が常に中の下だったわたくしとは違い、常に学年トップをキープしていたお兄様の考えることはわたくしには全くもって図りきれないけれど、わかっているのは、間違いなくお兄様からは逃げた方がいいということ。


 じゃないと、わたくしの貞操が…!危険だって本能が警鐘を鳴らしているの!それはもう、ビンビンに!


 幸い、この時期のお兄様は公爵の引継でとてもお忙しかったはず。加えて魔術師団のお仕事もあるわけだから、わたくしに構う余裕はほとんどないと見ていいわ。


 ───これは、チャンスなのでは?前回は怠けてドレスを買い漁ることばかりに力を入れていたけど、そんなわたくしではきっとまた聖女にやらかして、破滅まで一直線だ。そうじゃなくて、もっと真面目に勉強をして、品行方正、謹厳実直に生きていこう。そうすればきっと、聖女を殺すなんて馬鹿なことはしないはずだし、わたくしを王太子妃に相応しい人物だと認めてくれる人も増えるはず。


 仮に皆に認めてもらえなくても、あの王太子はその努力を認めてくれるはずだ。なぜなら彼は、決して愚かではないから。例え聖女に惹かれ恋をしたとしても、王太子妃になろうと努力している婚約者を無碍にするような人ではない。


 前回だって、聖女を優先していたけれど、決してわたくしを邪険にしたり、陥れようとしたわけではなかった。聖女と一緒にいなければならないと、婚約者であるわたくしに事前に伝えてもくれた。


 …あら?そう考えると、わたくしってそんなに無碍にされていたわけでもなかったのかしら?


 そう思ったが考え直す。いや、本当に誠実な方ならば、聖女に関する重大な秘密事項を話すのならばいざ知らず、学園の案内時くらいは婚約者のわたくしも同伴させたはずだ。未婚の男女が二人きりで親密に話すなど、誠実な方がすることではない。ましてや、想い人と一緒になりたいがために政略結婚で結びついた婚約者を排除するなど言語道断。もしそんな馬鹿王子が存在するのなら、今すぐ自由恋愛ができる平民になるか、自由恋愛が許される世界に転生でもした方がいい。幸い、あの方はそんなことはしなかった。


 だからやっぱり、前回の殿下は政略結婚の婚約者として最低限の礼は尽くせる弁えはあったと考えていい。そんな方なら立派な王妃になろうと努力している婚約者を無碍にはしないはずだ。そして、それを袖にすることもないだろう。


 …そうよ、それだわ。我ながらなんて名案なのかしら!


「ふふふ。ふふふふふふふ」

「どうしましたお嬢様。ついに運命の王子様に気がつきましたか」

「ええ、そうなのモカ!わたくし、やっと気がついたわ…!」

「…マジですか。では、ようやく報われる時がくるのですね」


 ベッドでゴロゴロしたせいでボサボサになった髪を調えるモカが、鏡越しに無表情ながらに涙ぐむ。


 わたくしはふふんと有り余る胸を張った。


「ええ。わたくしの運命の王子様は、ルイ・エスポワール・ド・アルカディア様だわ!わたくし、立派な王太子妃になれるよう、品行方正、謹厳実直に頑張りますわ!」

「………」


 そうすれば、きっと王太子はわたくしを認めてくれる。そしてわたくしが無碍にされることもないのだから、わたくしがつい聖女を殺そうとすることもなくなって、お兄様がつい国を燃やしてしまうこともないはずよ。


 ビバ王太子妃!ビバ平和な未来!!


 完璧な未来予想図に思わずわたくしはガッツポーズをした。そんなわたくしをモカが白けた目で見ていたのだが、輝かしい未来に夢いっぱいのわたくしには見えていない。


 トントン


 そんな時、部屋の扉がノックされた。馬車の準備でもできたのかしらと返事をすると、やって来たのは───、


「おはようフルール。なんだか面白い話をしているね」

「お、お兄様!?」


 ───なんと、つい先ほど逃げようと誓ったばかりの張本人だった。


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