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 と、見事に勘違いをしたわたくしは王太子の婚約者としてそれはそれは堂々と振る舞ってきた。まあ…ちょっと我儘だったと認めるわ。


 その自信が崩れたのが学園に入学して二年生になった時。一つ下に聖女だという平民の女が、特待生として入学してきたのだ。


 この国───アルカディア王国は、女神が創ったと言われている。王族はその末裔で、唯一光の魔術を使える聖女は女神の生まれ変わり。だから、聖女の存在は絶対。例え卑しい生まれだったとしても、聖女とわかった瞬間に王族の保護を受け大切に扱われる。だから、


『フルール。この子が聖女のエリス嬢だよ。学園のこと、聖女のことを教えるために、僕は暫くエリス嬢と行動を共にすることになる。フルールも、エリス嬢が困っていたら助けてあげてくれ』

『ロサノワール様、初めまして。エリスです。よろしくお願いします!』

『…ロサノワール公爵家のフルールです。よろしくお願いいたしますわ、エリス様』


 王太子からこう言われてしまっては、わたくしも頷くしかなかった。


 エリスは王太子とどんどん親しくなっていった。最初は程よい距離感を保っていたけれど…あの目は、明らかに恋する女の目だった。全身全霊で、王太子のことが好きだと訴えていた。


 王太子だって、満更でもなさそうな顔をしていて。その場所はわたくしの場所でしょう?どうしてわたくしがいながら、そんな目をあの子に向けるの?


 だから、聖女にいじわるをしてあげた。と言っても、最初はちょっと足を引っ掛けたり、ぶつかったりといったものだった。こんなの、貴族の女の世界では日常茶飯事。これで生き残れないようじゃ社交界ではやっていけない。


 でも、平民の聖女にはやり返すなんて発想はなかったみたいで、ただ耐えるだけだった。これで懲りれば…と思ったけど、その姿が王太子には酷く健気なものに見えたのか、より一緒にいるようになった。そして、わたくしにも忠告してきた。


『フルール、やりすぎだ。エリスは貴族社会のやり取りに慣れていないんだよ。君よりエリスと一緒にいる時間のが長いことには、申し訳なく思うけれど…』

『………』


 いつの間にか、聖女のことをエリスと呼び捨てにしていたことを知った。しかも、わたくしより優先している自覚もあるらしい。


『…そうですか。それでもなお、ルイ様はエリス様を優先されるのですね』

『200年ぶりの聖女だ。王族として、僕は丁重にもてなさなければならない。フルールならわかってくれるだろう?』

『…ええ、もちろんですわ。聖女は女神様の生まれ変わり。大切にもてなさなければなりませんものね』


 ───わたくしが何をしたって、所詮は名ばかりのただの公爵令嬢。その場所はいずれ、聖女にとって変わられるのね。


 わたくしは、王太子の言葉でそれを理解した。初恋だって言ったのに。だからわたくしは、厳しい王妃教育も頑張って…まあ、わたくしなりに受けてきたのに。


 許せなかった。今まで大切に扱ってきたのに、急にその他大勢のように扱われるのが。暗に、おまえはそこまで大事ではないと言われることが。


 学園内でも徐々に噂になっていった。やがて聖女が王妃になるというのが暗黙の了解となり、わたくしの周りにいた令嬢は皆聖女に媚び諂うようになった。


 いったい、わたくしが何をしたというのか。どうしてわたくしがこんな扱いをされなければならないのか。


 ───殺してやる。わたくしを苔にした報い、たんと受けるがいいわ。


 モカに頼んで暴漢たちを雇ったわたくしは、聖女を殺すよう依頼した。が、結果は惨敗。聖女の魔術に男たちは悉くやられてしまったのだ。


「…聖女の殺害は重罪。未遂でもそうよ。だから、当然処刑を言い渡された。…今となってはそうなることくらいわかりきっているのに、どうしてあんなことをしようと思ったのかしら」


 別に、王太子のことなんて好きでも何でもなかったのに。

あと少し続きます!

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