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今さらですが、主人公はあくまで逆行者であって、転生者ではありません。
転生者はそのうち…。
「……はあ」
椅子に座って状況を整理する。やはり、どう見てもここは現実に見える。でも、先ほどまでの光景も確かに現実だった。だって、17年間それを現実として生きてきたのだから。モカの反応を見ても、どちらも現実と考えた方がいいのだろう。
───そもそも、どうして国滅亡なんて物騒なことになってしまったのか。きっかけは、わたくしが処刑を言い渡されたことにある。
時が戻る前…ややこしいので、以前本で読んだ逆行という言葉を使おう。
逆行前、わたくしことフルール・ロサノワールは、この国の王太子、ルイ・エスポワール・ド・アルカディアの婚約者だった。我が公爵家は大変由緒ある家柄だが、大変残念なことに、父も母もわたくしが生まれたその日に事故で亡くなってしまった。そして更に不幸なことに、ロサノワール家は他に家を継げる人物がいなかった。
なので、執事長が長年公爵代理を務め、わたくしが学園に入学した頃にやっとお兄様が公爵を継いだという…言うなれば、長年名ばかりの権力しか持たない公爵家だった。
だが、そんな公爵家だからこそ使い道があった。王太子とわたくしの年齢が同じだったのだ。
力のありすぎる家柄から妃を迎えても、国内のパワーバランスが崩れてしまう。でも、公爵家でありながら実質何の権力も持たない我が家なら、妃に迎えたところで何の問題もない。わたくしは王家にとって、これ以上ない好物件だった。
「……改めて考えるとそうよね。都合のいい政略結婚だったんだわ。なのに、わたくしったら…」
幼少期に開かれたお茶会でわたくしは初めて王太子と出会い、その後、正式に王家からわたくしを王太子の婚約者にしたいとの通達が届いた。
当然、お茶会なんて形式作りの茶番で、わたくしを婚約者とすることは既に決まっていたのだろう。でも、王子様に見初められたのだと勘違いしたわたくしは、それを聞いて大層喜んだのだ。断れるはずもないお手紙に承諾の返信をするようお兄様と執事長にお願いして。
「わたくしったら、ルイ様に見初められたと勘違いして舞い上がっちゃって…な、なんて愚かだったのかしら!あああ穴を掘って埋まりたいいい…!!!」
思い返すだけで羞恥で死ねる。クッションを膝に叩きつけることで羞恥心を紛らわせるが、可能ならこのまま破って羽で埋もれて鳥になって誰かにわたくしとわからないまま食べられてしまいた…いや、食べられるのは嫌ね。わたくしったら何を言っているのかしら。
とにかく、つい先ほどまでのわたくしはそれに気づけなかった。
まあ、確かにウェーブした真っ白なロングヘアーに深紅の瞳を持ったわたくしは、とんでもない美少女だ。ついでに成長すればするほど胸の膨らみが大きくなって、相反してウエストはくびれにくびれていって…それはもう、誰もが羨む魅惑のスタイルの持ち主になった。だから、類い稀な美貌に類い稀なスタイルを持ったわたくしが王太子に婚約者として選ばれるのは、至極当然に違いない。
そう考えていたものだから、てっきり王太子に見初められたんだって舞い上がってしまって。
「…でも、ルイ様だって悪いのよ。君は僕の初恋だよ、なんて言うんだもの。お世辞にしたってもう少しマシな言葉があるでしょうに」
婚約してから初めての顔合わせで、王太子はわたくしにそう言ったのだ。金髪碧眼の美少年が、微笑みながらそう言うのよ!?そりゃ、どんな少女だって一発で勘違いするでしょうよ!
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