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 ───…ということで無事和解し、現在に至る。交渉中は対面に座っていた私達だったが、和解後はお兄様が望んだため、今わたくしはお兄様の脚の間に座って抱き締められている。


 お兄様と夜に自室で…という状況はかなり危険なものにも思えるが、ずっと黙っているがこの部屋にはモカもいるため、そういった心配はない。モカがいなかったらお兄様がどう行動するか、考えただけでも恐ろしい。


 今度、モカに何かプレゼントでもあげようかしら。そう思ったところで、そういえば、エリス様にも百合をプレゼントしようかなと思っていたことを思い出した。そこから、今日昼間言われたことも思い出す。


「お兄様、そういえばエリス様が仰っていたのですけれど」

「…エリス嬢が?なんて?」

「ええ。それが…学園には、恐ろしい獣がいるらしいのです。普段は形を潜めているらしくて、結界もきかないとても恐ろしい生き物だと仰っていまして…お兄様は、ご存じだったのですか?」

「…そうだね。確かに学園には、結界が意味をなさない凶暴な獣がわんさかいる」

「…そうですか。やはり、お兄様はご存じでしたのね。だから今朝も、わたくしが学園に行くのを止めようと…申し訳ありません。わたくし、そのような獣がいるなど全く知らなかったのです。危機感も何もないわたくしをお兄様が学園に行かせたくないと仰るのは当然のことでしたわ」

「……ごめんねフルール。フルールに伝えるべきかとも思ったんだけど、それで怖がらせてはいけないと思ってね」


 眉を下げるお兄様にわたくしは首を横に振る。わたくしはお兄様と違って何の力も持っていない。だからこそ、お兄様は配慮してくださったのだろう。


 …でも、それをお伝えしていただければ恐らくわたくしは学園には行かないと言っていたと思うのに。お兄様も、わたくしの気持ちは無碍にしたくなかったということかしら。


 何か引っかかるものがあったが、お兄様もそこまで鬼ではないのだろうと納得しておく。


 わたくしの気持ちを優先してくださったからこそ、お兄様を安心させなくては。昼間エリス様が仰っていたことを思い出し、わたくしはお兄様を見上げる。


「お兄様、わたくしの気持ちを優先してくださり、ありがとうございました。でも、大丈夫です!獣からは、エリス様が全力でお守りしてくださるようなのです!」

「…エリス嬢が?それは聖女の力でってこと?」

「はい!」


 やはりお兄様は、エリス様が聖女であることをご存じだった。今回はまだエリス様が聖女だとはわたくしからはお伝えしていないのだけれど…きっと、前回の記憶だけではなく、今回のことも既にわたくしが知らないことまで色々知っているのだろう。


 こう見えて、お兄様は色々考えて行動しているから。正直どこまで想定内なのかすら想像がつかない。


「エリス様は仰っていましたわ。エリス様の聖女の力は、わたくしを幸せにするためにあるのだと。特にルで始まりアで終わる獣には注意するようにとまで教えてくださいました」

「…そう、エリス嬢が…ふうん、ルで始まってアで終わる獣ねえ」

「はい。その獣の名前に関しては、ごく一部の者しか名を呼ぶのを許されていないとのことなので、きっととても力のある恐ろしい獣だと思うのです。ですが、お兄様はご存じなのではないですか?」

「うん、ルで始まってアで終わる獣なら、もちろん私も知っているよ。確かに名を呼ぶのはごく一部の者にしか許されていないから、エリス嬢のその言い方は正しい」

「やっぱり…!」


 お兄様がここまで言うのだもの、よっぽど恐ろしい獣なのだわ!それを教えてくださったエリス様には本当に感謝しなくては。


 お兄様はわたくしの髪の毛を優しく撫でる。ああ、そろそろ眠くなってきた。


「…フルール、眠いの?」

「ええ、少し。…お兄様、だから、学園ではエリス様がずっと一緒にいてくださるとのことです。聖女のエリス様がずっと一緒なんですもの。わたくしは大丈夫ですわ。だからお兄様も、どうか安心なさって?」

「…本当は、私がずっと守っていてあげたいけど…そうだね。学園内では、エリス嬢を頼るといいかもね。聖女の力は強力だから、守ってもらいなね」

「ふふ…はい」


 …お兄様の体温が気持ちいい。わたくしより高い体温に眠気を誘われ、わたくしの意識は徐々に夢の中に旅立っていく。


「……おやすみフルール。いい夢を」


 意識が途切れる直前、ギュッとお兄様の体温に包まれた気がした。





「…可愛いなあフルールは。本当に可愛い」


 私の腕の中で眠ってしまったフルール。私のことを警戒しているわりにこの辺は無防備だ。私の前で寝顔を晒すのがどういうことなのか、この子は本当にわかっているのだろうか。


 しかも、私に条件をつけるつもりが逆に条件をつけられているし。そういうところもまた可愛い。この子は純粋なのだ。そうなるよう私が育てた。大事に大事に、この子が生まれたその日から今までずっと。


「…私のフルール」


 眠っているフルールに口付ける。唇を舐めて、そのまま口の中まで味わう。こうするのももう何度目だろう?時が戻ったその日から、フルールが眠ったら毎晩このようにしてきた。時々溢れる声が愛おしい。


「…んぅ…」

「……ふふ。さあ、今日もマッサージしようね」


 ふわふわな大きな双丘をマッサージするのも私の毎晩の日課だ。もともと大きくなる素質を持った子だけれど、このおかげで前回よりも更に大きく育ってくれた。今では私の手からも溢れてしまう。


 …はあ。服の上からなのがもどかしい。本当は直に揉みたいのだが…、


「…ノクス様」

「…わかってるよ」


 …お目付役の目が厳しいのだ。流石に幼いフルールを犯すわけにはいかなかったから敢えてそのままでいさせてたけど、そろそろ出ていかせたい気もする。じゃなきゃ眠っているうちに既成事実が作れない。


 まあ、それはもう少し我慢するとして。


「…それにしても、ルで始まってアで終わる獣ねえ」


 全く気づかないのがフルールらしい。獣を純粋に獣だと思っているところが本当に純粋だ。聖女も上手い言い回しをしたものだ。いい感じにフルールが警戒してくれている。私もそう言えばよかった。そうすれば、フルールはきっと学園入学を取りやめただろう。まさか本当に獣で意味が通るとは、さすがの私も思わなかったのだ。


 …ルイ・エスポワール・ド・アルカディア。あれに近づけないために、私がどれだけ苦労したことか。


 できるなら、学園になんて入学させたくなかった。婚約者にならないように根回しをして、顔も合わせないよう徹底してきたと言うのに。


 なのに、よりにもよってあれを運命の王子様と言うなんて。


「ん、んん…」

「…ノクス様、そろそろ」

「はいはい」


 フルールを抱き上げ、そのままベッドに寝かせる。そのまま覆いかぶさってギュッと抱き締め、ひとしきり堪能してからベッドから離れた。


 …聖女の目的はわからない。だが、良くも悪くも聖女が一種の防波堤になるのは間違いないだろう。王太子を警戒しているところから、あちらも王太子をフルールに近づけたくないという思いは同じようだし、なら近くにいてもらった方が利害は一致する。


 だが聖女がフルールに害を及ぼさないとは言えないから、聖女対策のためにも、フルールには自衛の力をつけてもらった方がいいか…。そうなると、必要なのは…。


「…フルールは私が手に入れるから。モカ、くれぐれも余計なことをするな」

「…承知しております」


 考えながら、お目付役に釘を刺すのを忘れない。


 モカが深く礼をしたのを横目で見て、私は静かにフルールの部屋を出た。

知らぬうちに色々されているフルール。

彼女が起きないのはノクスの魔術のせいです。

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