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 あれからお兄様はしきりにエリス様とのあーんについて聞いてきた。が、馬車に乗ってもわたくしは一切合切無視した。何故か?怒っていますよアピールをすることにしたからだ。


 表面だけ見れば可もなく不可もなくな無難な対応をしていたお兄様だけれど、忘れてはいけない。玄関から離れてエリス様と向き合った時に見せた、あの冷え冷えとした空気を。エリス様もラスボスを前に冷気を放っていた部分はあるが、大半はお兄様が放っていた。というか、空気で喧嘩を売っていたわ。


 お兄様にとってはわたくしが破滅した元凶のような相手だから警戒心を抱く気持ちはわかるけれど、そんなの知らない。要はわたくしが怒っていますよーアピールをするための大義名分になればいいのだ。だって、何も知らない筈のわたくしにとっては初めて紹介した初めてのお友達に酷い対応をされたのだから、わたくしが怒るには十分な理由でしょう?それに、本当に少し怒っているし。


 そしてそれは、夕飯時になっても続けた。話しかけられても無視、目線も合わせない。それはそれは徹底した。


「…お嬢様がここまでノクス様に怒るなんて初めてですね」


 お風呂に入り、就寝前。今は乾かした髪をモカにブラシで梳かしてもらっている。


 わたくしは紅茶を飲みながら答える。


「だって本当に怒っているもの。わたくしの初めてのお友達なのよ?なのに、あんな冷たい対応をされるなんて…」

「まあノクス様も、たまにはいい刺激だと思います。じゃないとナチュラルにお嬢様の交友関係をぶち壊しそうですし」

「…そうよね。わたくしも思ったわ、それ」


 モカの返答に思わず遠い目になる。本当にやりかねない、あのお兄様なら。しかもしれっとわたくしの知らないところで動いてしまうから、気づいた時には既に遅しよ。それを防ぐためにも今のうちにしっかり態度に示しておかないと、皆に認められる王太子妃という像がどんどん遠ざかってしまう。


 …初日からこれじゃ、先が思いやられるわ。


 カップをソーサーに置く。肘掛けにもたれかかると、はあと溜息をついた。


「ノクス様はお嬢様を心底大事にしていらっしゃいますからね。でも決して、お嬢様の心を無視したいわけじゃないと思いますので、たまには主張することも必要かと」

「…たまには、ね。なんだかそこに含みを感じるのだけれど、気のせいかしら」

「主張しすぎると、逃げられると思って閉じ込めると思います。なので、たまにです」

「………」


 それはないでしょうと笑い飛ばしたいが…あの兄はやる。きっとやる。燃え盛る王国を見下ろしながら恍惚の笑みを浮かべていたお兄様を知っているわたくしにとって、モカの言葉はとても現実味があった。


 モカはそれを知らない筈なのに、流石お兄様の本質をよく理解している。それを知らないわたくしは、きっと面白い冗談としか捉えなかっただろう。だってお兄様は、過保護だけど、狂気的な面は絶対にわたくしに見せなかったから。


 穏やかで優しいお兄様。国が燃やされるまで、わたくしの中のお兄様のイメージはそれだった。


 なのに、まさかわたくしのためなら軽々と国一つを滅ぼせるほどの狂人で、おまけに実の妹に懸想し国が燃えている中で恍惚とした表情でキスしてくるような変態だったなんて…本当、わたくしの衝撃ったらそれはそれは凄かったんだから。共感してくれる相手がいないのが辛い。


「んん…それにしても、さっきマッサージしたばかりなのに、まだ肩の凝りが治っていない気がするわ」

「先ほどは腰や脚を重点的にマッサージしましたからね。肩をお揉みいたしましょうか?お嬢様には肩凝りの原因となる凶器がついていますものね」

「…わたくしも、なりたくてこうなったわけじゃないのよ」


 気づいたら育っていたのだ。恐らく遺伝的なものだろう。


 にしても、なんだか今回は前回よりも大きくなっている気がするのだが、気のせいだろうか。ずっと家の中にいたから太った?でも、その他の部分は変わった感じはしないし…。


 モカに肩を揉んでもらいながら、何故だろうと首を傾げる。その時、部屋の扉がノックされた。


「フルール、私だけど…今ちょっといい?」

「………」


 お兄様だ。今の時間は夜の10時。公爵としてのお仕事も終わり、そろそろ来るのではないかと思っていた。


「…少々お待ちください」


 あれだけ無視し続けたのだから、そろそろ頃合いだろう。そう思って、わたくしはモカが持ってきてくれたショールをさっと羽織った。


「お嬢様」


 さて、お兄様を中に招こう。そう思い立ち上がった時、モカに声をかけられた。わたくしはモカの方を向く。


「?なあに?モカ」

「…今のノクス様は、きっとかなりお嬢様を恋しく思っていらっしゃいます。甘やかしてあげてください」

「ふふ、そうね。わかったわ」


 これ以上無視するのは得策ではない。モカはそう言いたいのだろう。


 モカが扉を開けるために移動する。お風呂でもマッサージ中でも、モカの目線は頸に付けられた真新しい赤い痕に向けられていたのだが…当然わたくしは、その存在すら気づいていないのだった。

個人的にモカも結構好きです。

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