死に歩む、光と共に
眩しい。
やけに重く感じるまぶたを開けると、あまりのまぶしさにもう一度目を閉じた。
このまま、もう一度まどろんでいたい。そう、もう一度。
誰かが、右手を握りしめた。
いや、ずっと握られていたのだろう。右手が、温かい。
それが眠りを妨げる。
しょうがなく、目をもう一度開ける。
何度も瞬きをしながら、その手の主を見た。
「ルミ、エール」
いやにかすれた声で、その名を呼んだ。
もう何日も声を出していなかったような、喉が酷く渇いている。
「りーあ……?」
呆然と、彼は声をかけてきた。
目の下に、隈ができていた。頬が、少し痩せたように感じる。
病気……なのは、いつもわたしなのに。
「リーア、ほんとうに?」
「ど、したの?」
声が、うまく出せない。
ただ、ルミエールは瞳を潤ませたかと思うと、ぽろぽろと泣き始めた。
小さい頃から変わらない、泣き虫な彼。
でも、今日はどうしたのだろうかと、起き上がろうとして体が重いことに気付く。
無理矢理起きようとして、ルミエールに止められた。
「よか、よかった。もう、目が覚めないのかと」
両手でわたしの手を握り、まるでわたしが死にかけた時のように--
そうだ、死にかけたのだ。
「……おねえさま、お姉様、は」
分かっていた。それでも、わたしは。
「……」
ルミエールは、何も言わなかった。
「お姉様と、クラージュ様は」
視界が歪む。
「死んだのね」
ぽろぽろと、止めどなく涙が頬を伝って落ちていった。
わたしが目覚めたのは、あの事故から二ヶ月も経った後だったそうだ。
お姉様とクラージュ様の葬儀はすでに終わり、二人は両家の了承の元に同じ墓標の下に眠っている。
事故の怪我と二ヶ月の昏睡で体はガタガタで、何ヶ月もの療養とリハビリを必要とした。
時折、あの夢を思い出す。
夢と言って良いのかわからないが、あの繰り返しを。
わたしは、死にたかった。
誰かに迷惑をかけて生き続けるのが嫌だった。
すぐに体調を崩して何もできない病弱な体が嫌だった。
そんな自分でも、誰かをシアワセニしたいと願った。
そんな、ことを考えて、誰かが傷つくのを見ないふりをした。
その誰かが、居なかったことにして。
でも、もうそれもお終い。
逃げても、どうにもならない。過去を、変えることはできない。
歩いていかないと。
皆と共に。
お姉様とクラージュ様たちが待つ、そこへ。
歩き続けよう。
暗い道でも、あの子はきっと歩いていける。
私は、待とう。待ち続けよう。
「これは、私の代わりに死にたかった妹が、やがて来る死のためにがんばる話だ」
これにて、完結となります。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
後日、外伝としてルミエールの話や、クラージュの妹の話などを何話か投稿したいと思っています。