繰り返しても
暗い。
なにも見えない。
「ごほ、ごほっ……」
咳き込んで、わたしは目を覚ました。
明るい室内。もう、日は高く上がっている。
口元に当てていた手を外す。すると、手のひらに歪な線が三つ赤いインクで描かれていた。いったい、何だろうかと首をかしげる。
そして……
「あ、あれ?! わたし、またやり直してる??」
部屋に置かれた、お姉様のモノだったはずのピンクのドレス。あの日、お姉様とカージュ様が出会ったあのパーティーの日に、また、戻ってる。
「そうだ、わたし……また、失敗したんだ」
少しずつ、記憶がはっきりとしてくる。
わたしは、何度目か忘れてしまったが、お姉様とカージュ様と共に別荘に向かう道の途中、土砂崩れで死んで……それを何度か繰り返している。
何度回避しようとしても、死んでしまう。
「どう、して」
別荘にお姉様達と行かなければいいのに、なぜか毎回行くことになり、毎回死んでしまうのだ。なにを変えても、変わらない。
またあのパーティーが始まる……。
それまで全く知らなかったきらびやかな世界。それも、何度も繰り返せば慣れてくる。
わたしは、何度目か分からないパーティーにいつも通り来ていた。
けれど、これではいつもと同じことになってしまう。なにか、何かを変えなければ。
朝起きてから、準備をして、馬車に乗って、ずっと考えていた。どうすれば未来を変えられるのか。
今まで、やらなかったことをしなければならない。
そう思ったとき、思いついたのはひどいことだった。
「お姉様よりも早く、クラージュ様の落とし物を拾うしかない」
お姉様と、クラージュ様が出逢わなければ死ぬことはなかった。だから、先に私が落とし物を拾えばいい。
「けれど、落とし物って何だったのかしら……」
実は、落とし物を拾った話は聞いたが、それが何だったのかを私は知らない。聞いていないのだ。
クラージュ様が落としそうなモノ……男性だから、服飾も限られてくる……ハンカチなんて無難な物では無い様子だったし。
クラージュ様やお姉様となにかヒントになるような会話をしていないか思い出しながらパーティーを歩き回る。
早く、しなければならない。
時間ばかり過ぎていく。
もう、終わりが近づいている。
このままでは、また同じことを繰り返す。
顔を上げると、近くをなにか探しながらあるくクラージュ様がいた。
きっと、落とし物を捜しているのだ。
「クラージュ様……」
おもわず、ぽつりと名を呼ぶと、彼が顔を上げた。
「すまない、この辺りで古いリボンの髪飾りを見なかったかい?」
「い、いえ……」
そうか、リボンの髪飾りなのか。たまたま得られた情報に思わず心の中で喜びながら、クラージュ様の向こう側でお姉様が何かを持っているところが見えた。
このままでは、いつもとおなじ繰り返しになってしまう。
それは、ダメだ。
「あ、あの。クラージュ・ロウエル様ですよね」
「あぁ。どこかで会ったことがあったかな……?」
「わたし、ロウエル様のことがずっと好きでした。こんなわたしにも優しくて」
ただ、死する運命を変えたかった。
「大切にしてくれて、決めたことをやり遂げるために努力するあなたが。静かに本を読む姿が、努力した証のそのペンだこも、好きで--」
けれど、クラージュ様は私の口を手で塞いだ。
悲しそうに、彼は言う。
「ダメだよ。それを言うべき人は、私じゃないはずだ。それはル----
バチン
------に言うべき言葉だろう?」
わたしは、ただ、しあわせ ほしかった
それだけ、だったのに
暗い
何も見えない
なにも、変われない
わたしは、ただ……
「ごほ、ごほっ……」
咳き込んで、わたしは目を覚ました。
明るい室内。もう、日は高く上がっている。
口元に当てていた手を外す。すると、手のひらに歪な968と言う文字。
それを、見て、何かが壊れそうになる。
今日は、パーティーに行かなければならない。死を、変えるために。
何度目か分からない、いや分からないふりをしているだけだろうか、とにかく、パーティーに行かなければならない。
「お嬢様、どうかされましたか?」
メイドのジュナの声でふと現実に戻る。
ぼうっとしていてはいけない。これから、未来を変えなければならないのだから。
未来は、きっと変えられるのだから。
髪をすき、両手の爪を磨いていく。いつもならやらないことを入念に。
ドレスを纏い、念入りに化粧を施し、髪を結っていく。
なれない作業。けれど、何度も繰り返してきたせいか、不思議と疲れはなかった。
「お嬢様、とってもかわいらしいです。きっと■■■■■様も驚いてしまうでしょう」
「そう、かしら」
いつもと全く違う自分の姿を鏡で見ながら、上の空で答える。
「お嬢様がこうしてパーティーに行かれる って、とても です」
この後のことを考えながら、適当に頷いて聞き流す。
もうすぐ、パーティーへ向かわなくてはならない。
いつも通りの展開が続く。
お姉様と共に馬車に乗って、待ち合わせ場所に向かって、お姉様は■■■■■■私を■■■置いていってしまう。
「さが、さないと」
お姉様とクラージュ様が出逢うきっかけを。
「見つけないと」
また、あの土砂崩れで死んでしまう。
周りの目など気にせず、ただただクラージュ様の落とし物を捜す。リボンの髪飾りを。
一心不乱に。
そして、誰かとぶつかった。
顔を上げる。そこには、お姉様が居た。
「リーア」
お姉様は、なぜここにいるのだろうか。
私の手を取り、お姉様は首を振った。
「もう、やめましょう」
なにを?
「過去は、変えられない。死は、変わらない」
なにを、言っているのだろうか。
未来は、変えられる。
死は、変えられる。
だって、そうじゃないと。
「ねぇ、リーア。私とクラージュの死は、変わらないの」




