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転生勇者の黒歴史(17~18)

             17


 シレンは、自分の足元を見つめながら、髪の間に両手の指を入れ、ぐしゃぐしゃとかきむしっていた。

 頭を下げているため、床につきそうな程垂れ下がった白銀プラチナの長髪が、乱れていく。

『どういうことだ?』と、シレンは考える。

 三年前、シレンがこの世界に転生されたのと同じ時期に、マルコは突然、笠置詩恋の生活を夢で見るようになったのだという。

 マルコからすれば異世界の夢である。

 転生後のシレンの夢ならば、想像が偶然似ているという可能性もないとは言い切れない。

 何かで見知ったか聞き知ったが忘れている内容を、夢で見ている可能性もある。

 だが、スダマサピくん関連の一連の自虐ネタの知識は、偶然の一致では説明がつかなかった。

 転生以前、笠置詩恋は、自分がラジオネーム『恋に恋するポエマー』である事実を徹底的に隠していた。家族にも家族以外の誰にも知られていないという自信がある。

 家族は、ラジオ局から、よく詩恋宛に封筒なり品物が届くため、詩恋のラジオ職人化に、うすうす気がついてはいたかも知れないけれど、ラジオネームまでは知らないはずだ。

 もし、知っている相手がいるとすれば、ラジオネーム『恋に恋するポエマー』こと本名『笠置詩恋』に対して、投稿採用の賞品発送を行っていた、ラジオ局の人間だけだ。

 もちろん、異世界のマルコとの接点はありえない。

 第一、マルコは、ラジオネームとは何であるかを知らなかった。

 より高い可能性は、笠置詩恋の魂を、転生勇者シレンとして、この世界へ転生させた力と、マルコが、転生前の転生勇者の日常生活の夢を見る能力の間には、何らかの関連があるというものだ。

 転生召還の力が、笠置詩恋の魂に干渉したように、マルコの夢にも干渉している。

 もしくは、マルコが、無意識に、笠置詩恋の転生召還に干渉している。

 マルコは、村人Aのはずだ。

 違うのか?

 もしかして、召還師?


               18


「シレン、ねぇ、シレン」

 繰り返し、マルコがシレンの名前を呼んでいた。

 シレンは、羞恥心に耐えかねて下を向いたまま、自分の考えに没頭してしまい、呼ばれていることに気づかなかった。

 うずくまってしまったシレンの邪魔をしないよう、マルコは、しばらく根気強く待っていたようだ。でなければ、会話中に、会話を忘れるほど深く、思考に没頭してしまうことはないだろう。

 けれども、結局、我慢しきれなくなって、マルコは、シレンに声をかけた。

 シレンは、顔を上げた。

 子犬のようにキラキラとした瞳で、シレンの顔を見上げているマルコと目が合った。

「もう、行っていい?」

 と、マルコが問う。

オフィーリアを早く説得したいのだ。待ちきれなさが、うずうずと、マルコの全身から溢れていた。

 同じ十五歳であるのに、エリスと比べて、マルコは言動や振る舞いに幼さが目立つ。

 マオック村という田舎で、スレずに育ったため、マルコは子どもの純粋さを保っていた。このぐらいの年頃では、女の子のほうが、圧倒的に大人である。

 シレンは、マルコのわかりやすい態度に笑ってしまった。

「あはははは」と、思わず、大声が出てしまう。

 マルコが、結構な、びっくり顔になる。

「何だ?」

「シレンも笑えるんだ。いつも怖い顔ばかりしているから、笑えないのかと思ってた」

「人からチヤホヤとされる経験が無かったからな。こっちの世界に来て、急にチヤホヤされるようになったが、どう対応したらいいかわからないでいるうちに、無愛想がトレードマークになってしまった」

「シレン、美人なんだから、笑ったほうがいいよ」

 臆面も無く言うマルコに、シレンは赤面した。

 こちらの世界の自分が、以前の自分より圧倒的に美人になっている自覚はあったが、面と向かって美人とほめられるのは、二つの世界を通して、生まれて初めてだ。

 丸三年間、ほぼ、ツンとした無表情で生きてきたのに、今日一日で感情の振れ幅が物凄い。

 シレンは、照れ隠しに、犬にボールを投げてでもやる時のように、マルコに言った。

「よし。行け、マルコ」

「やったあ」

 と、マルコは立ち上がると、部屋を飛び出した。

「かあちゃん、シレンが僕も王都に連れてってくれるってぇ!」

 話が違う。

「待てい!」

 シレンは、慌てて後を追った。

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