1-4・反省会とエゴサーチ
「氷織はこんなに素敵な女の子なのに、ヒロインになれないなんてやっぱりおかしいよ」
今度は「お腹を撫でるといいよ」とでも言いたげな様子でお腹を出してふんぞり返るヒョウ。お腹を優しくさすってやると、ヒョウは満足そうな表情で私を褒め称え始めた。
「月光のごとき銀色の髪も、氷河の青を内包した瞳も、無駄な贅肉と脂肪がない完璧なスタイルもメインヒロインの風格があるのにね」
枕に叩き付けるように大きく尻尾を振りながらヒョウは続ける。
「つまり氷織は可愛い! 綺麗! 素敵! かっこいい!」
ちょっと褒め過ぎだけど変に謙遜するのは違うわよね。ここは尊大な態度でさも当然のように受け止めないと。
「そうよね。私ってヒロインたちに負けないくらい可愛いわよねっ」
赤い頬を隠すように髪を払いながら立ち上がり、スタンドミラーに映る自分の姿を見る。
私のキャラクターデザインを担当したイラストレーターさんにありがとうと伝えたいレベルのビジュアルね。声も涼やかで凛としていて私のイメージにピッタリだし、声優さんにも感謝しないと。
ただしシナリオライターには感謝できない。もしも話ができるなら私を悪役のサブキャラクターにした理由を問い詰めてやりたいくらいだもの。
自分の存在を生み出し、形作った人々(シナリオライターは含まない)への感謝を忘れないのは当然として、容姿や声の可憐さに胡坐を掻かないように、自分を最大限輝かせるメイクの研究もスキンケアも筋トレも欠かさない。
このように私は日々進化し続けているのにシナリオとキャラクター設定からはみ出すこともできず、主人公やヒロインに対する言動が悪すぎるせいでまったく報われていない。心だけしか前に進んでいないのが現状ね。
さっきまで凹んでいてヒョウに褒められて持ち直したのに、結局自分で現実を見てまた凹んでしまった。
鏡を見るのをやめて、またしてもベッドに倒れ込む。
脱力しながら反省会とセットの日課であるエゴサーチを始めた。
今宵も魔法ホを使って現実世界のネットを覗き見る。
魔法ホというのは電気魔法で動くスマホと考えてくれれば主人公たちにはわかりやすいかも。
これではまがく内のキャラクターと電話やメールができるし、現実世界のインターネットやSNSにも接続できる。いったいどんな技術を使っているのやら、それこそ魔法みたいよね。
今日も今日とて現実世界の主人公たちが愛用するSNSで、はまがくの感想やプレイ日記や呟きを探すのは、たったひとりでも私が一番好きだと、メインヒロインになってほしいと望む『誰か』がいるのを信じているから。
けれど目に入るのは『氷織性格悪すぎ』だとか『氷織が出てくるたびに身構えちゃう』だとか『今日も氷織アンチスレはよく伸びるなあ』なんてものばかり。
言葉が駄目ならイラストならどうだと、はまがくの二次創作ファンアートを探しても『氷織ざまあオチ』の漫画やイラストが量産されているだけだった。
「キャラクターがSNSを覗きみるなんて考えたことないの? あなたたちだってSNSで自分が誹謗中傷されたら傷つくわよね。なんでそんな酷いことができるのよ。……って、私は誹謗中傷を直接主人公やヒロインに言っているんだったわ……」
「もういいんだよ。キミは主人公と燎火を傷つけた分だけ傷ついたよ。もう休みなよ」
悲痛な面持ちのまま優しくタオルケットを被せてくれたヒョウに促されて魔法ホの電源を落とす。心を擦りきらせるエゴサーチはこの辺にして明日に備えよう。
明日はいいことあるといいな。
――…………――
「ヒョウ、なにか音がしなかった?」
「いや、聞こえなかったよ。……疲れているんだね。ゆっくりおやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
可哀想な子を見るような目で見られてしまった。
不思議な音が聞こえた気がしたけど、幻聴かしら。
物語の中で望まない役割を押しつけられ続けたストレスが原因でしょうね。
早く治まるといいなと願いつつ、眠りに就いた。




