2-10・おめでとう! プルポロンは プルルポポンに しんかした!
「……有友さんでしたよね。えっと、私はプルポロンを進化させたいので、どの子でもいいので一時的に貸してくれると助かります」
「了解。じゃあ雫ちゃんがまだ持ってない子教えてよ。魔法図鑑埋めるの協力するし」
「いいんですか。それじゃあ……」
ふたりは互いのゲーム画面を覗き込みながら通信交換を始めた。
通信をしながらもコモルモンについて語り合っているみたいだけれど、私にはふたりが話している内容はさっぱりだった。
主人公はふたりのやりとりを見守りながら、崩してしまった漫画と文庫本の塔を積み上げ直している。きっと一冊だって重ねる順番を間違えないのでしょうね。
正しい順番なんて私にはわからないし、崩した本を元に戻すなんて悪役らしくないし、そっとしておこう。
しばらくすると「プルルオーン!」という鳴き声が雫のゲーム機から聞こえてきた。
「うぇーい! 雫ちゃんのプルポロンおめでとさんくすぅ!」
「もうプルポロンじゃなくて進化後のプルルポポンです。間違えないでくださいアホ友さん」
「アホ友じゃないよ。有友だよ。まっ、アホだけどな!」
アホな有友をガン無視して主人公に駆け寄ってゲーム画面を見せる雫は嬉しそう。
「主人公さん見てください。これがプルポロンの進化系ですよ」
「かっこいいいし、とても強そうだね。よかったね、雫」
「はい! これでこの先も、この子と一緒に戦えます」
「プルルポポンは雨降らしの魔法からの水魔法のコンボが半端ないし、風魔法のコモルモン、たとえばボフーバードとかと組ませると超強い。敵として出てくると涙ちょちょぎれるし、味方にいるとゴリゴリ頼もしいよな」
無視されても懲りずに絡みにいく有友。メンタルの強さだけは尊敬できるわね。
「そんなの常識ですよ。だから進化させたんですけど」
「なんか雫ちゃん慣れると口悪くない? ちっさい氷織かよ。だが悪くない。ウィヒヒ」
そうして誰からともなく笑い出してしまった。
ふと見上げた窓の外はすっかり藍色で、夕食の時間が近いことを告げている。
雨漏りは火魔法と風魔法の使い手たちが力を合わせればすぐに乾かせるだろうし、そろそろ有友を帰らせたほうがいいかもしれない。
「用が済んだなら制服の洗濯魔法を頼みにいくわよ」
「オイラがやっとくからいいのに」
「見張ってないとなにするかわからないから私もお店まで行くわ。ほら早くして」
「へーい」と名残惜しそうに立ち上がり、帰り支度を始める有友。
私は有友の着替えの入った鞄しか持ってきていないし、すぐに出られる状態だった。
主人公は私たちの支度が済んだのを確認すると、窓を開けて外の様子を窺い始めた。
「夕食が近いから入口には食堂に向かう生徒が集まりそうだね」
食堂に向かうには寮の入口の前を通る必要がある。
行きと同じようにはいかないわね。
それなら、と主人公は提案した。
「窓から出れば安全かもしれない。大丈夫、僕の風魔法で洗濯魔法の店まで運ぶよ」
「頼むぜ主人公」
主人公が風魔法を編み上げる間、有友は雫に別れを告げる。
「また通信交換したい時はオイラのこといつでも呼んでくれよな」
「機会があればよろしくお願いします。……今日はありがとうございました。有友さんも、氷織さんも」
そっぽを向きながら言われるお礼なんていらないわ、なんて皮肉は控えておこう。主人公以外の人と関わることを避けていた雫がここまで頑張ったのだもの。
「僕からもふたりにお礼を言わせてほしい。本当にありがとう」
詠唱が終わったのか、私と有友の足元にふわりと風が纏いつく。
そろそろお別れの時間ね。
「どういたしましてだぜ。それじゃあ主人公、雫ちゃん。バイバイ!」
「……さようなら」
挨拶を終えて窓に足を掛けると、主人公が魔法で編んだ風に乗って私たちは雫の部屋を後にした。




