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1-19・青空に咲く大輪の花

「燎火、落ち着いてよく考えるんだ。茨の悪魔はみんなを触手で捕らえている」

「だからあいつを思いっきり燃やしちゃえばいいんだよね!」


 主人公が冷静でよかった。ここで燎火を止めないとバッドエンドに直行するのよね。

 燎火は仲良くなりやすいけど、ふとした選択のミスが命取りになりやすいキャラクター。

 つまり、好感度がマックスでも最後の選択肢を間違えるような主人公では失格ということね。


「フルパワーで茨の悪魔を燃やしたら、やつの触手に捕らえられているみんなごと灰になるぞ」


 はまがくトラウマバッドエンドでも随一の後味の悪さを誇る『あたしが……みんなを燃やしちゃったの……? エンド』を未然に防ぐことができてよかったわ。


 ようやく自分がしようとしていたことを理解した燎火は愛を叫んだ。


「うああ! 止めてくれてありがとう主人公大好き! この戦いが終わったら恋愛的な意味で付き合ってくれるかな!」

「ああ、もちろんだ!」


 茨の悪魔もとい燎火ルートのラスボスをガン無視して交際の約束をしているけれど「それ死亡フラグだよね」とこの場にいる誰もが声に出せずとも思ったでしょうね。


 あーあ、私を見守ってくれている『誰か』が代わりにツッコミんでくれたらいいのに。

 駄目ね。いもしない『誰か』のことを考えるのが止められないくらい魔力を吸われてしまったわ。ふたりの声に集中しないと。


「燎火、捕わられたみんなを燃やさずに、茨の悪魔だけを燃やす魔法を編み上げるんだ」


 最適解ともいえる主人公の提案に燎火の右手の炎は揺らぎ、消えかけてしまう。


「無理だよ。そんな繊細な魔法のコントロールなんてできないよ」


 遅刻する度に学校の壁や窓ガラスを破壊してきた燎火は魔術のコントロールが致命的だ。

 否、致命的だった。


 燎火の右手を主人公の左手が支える。


「無理じゃない。燎火はずっと魔法の特訓をしてきたじゃないか。おまえの頑張りは無駄じゃない、絶対に力になっているよ」


 燻りかけた炎をもう一度、燃え上がらせるように彼は伝える。


「それに燎火、言っていただろ。『俺と一緒なら魔法がうまく使える』って、『俺が隣にいて支えてくれたら安心するし力が湧いてくる』って」

「……そう、だったよね。そうだよね!」


 いつだって燎火の隣には主人公がいたし、主人公の隣には燎火がいた。

 主人公はどうして燎火をヒロインに選んだのか。いつから彼女を好きになったのか。それは彼にしかわからない。

 それでも彼と彼女の時間を、恋を育む姿を私は見てきた。

 はまがくはクリアまでにかかる総プレイ時間は数時間ほどだけれど、実時間とは関係なしにふたりは絆を深めてきたのだもの。


 だから燎火はもう平気ね。

 自信を取り戻し、笑顔を見せる燎火。

 けれど笑顔は長続きしなかった。

 視線をあちこちに泳がせて、唇を尖らせて、もじもじとしている。


「でもね、最後の一押しがあると、もっと頑張れるかなって。こう、主人公から直に魔力をもらえれば……ん……っ」


 贅沢なお願いを言い終える前に燎火の唇は主人公の唇で塞がれた。

 補助魔法は対象に接触するのが最大の魔力供給になるなんて設定、本当にご都合主義よね。

 眠り姫は王子様のキスで目覚めるのがお約束なら、このファイヤーなお姫様も王子様のキスで最大火力・最緻密な魔法を繰り出せるわね。


「頑張れ、燎火。おまえならできる!」

「うん!」


 主人公の声援はマッチの小さな火となり、導火線を伝い、燎火の最大の魔法へと着火する。

 打ち上げ三秒前。


「茶番は終わりか? ならば我もおまえとの契約を今こそ果たそう、おまえの未来を、命を、残らず搾り取ってやる!」


 打ち上げ二秒前。

 茨の悪魔はすべての触手を燎火と主人公に向けて伸ばす。


「そんな攻撃、あたしたちには届かないよ!」


 打ち上げ一秒前。

 詠唱を唱える燎火の体から炎が立ち昇り、彼女に触れようとする触手を端から燃やしていく。


「よいのか? おまえの大切な者たちごと我を燃やす気か?」


 打ち上げ、開始。


「絶対にそんなことにはならない!」

「つべこべ言わずさっさとおまえだけ燃えろおおぉおぉおぉ!」


 ふたりの魔法は想いを乗せて茨の悪魔を焼き払う。その葉も茎も花も根も、灰さえも残さずに燃やし尽くす。

 やがて茨の悪魔は極大の炎の塊となって空へと上がっていった。

 まるでロケットの打ち上げを見ているような光景なのに、ひゅうううぅう、どどーん! と乾いた音が響いたから笑ってしまったじゃない。

 それは真夏の夜空にはふさわしいけれど、朝の時間にはふさわしくない花火の音。

 茨の悪魔は青空に咲く大輪の花となって消滅した。

 やがて周囲は残響と共に目を開けていられないほどの光に包まれた。

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