それは終わりと始まりの兆候
「・・知らない天井「馬鹿なこと言ってないで早く顔洗ってきなさい」はーい。」
柘榴は毎朝の日課として部屋から追い立ててくるお手伝いさんに押されて洗面所に向かった。
最近入れ換えられた真新しい内装にまるで引っ越したかのような錯覚を覚える。
「冷たっ。」
刺すような痛みを感じるほど冷たい水が眠気を拭い去る。
軽く髪も整えてぱちんと留め具を着ける。
食卓に向かうといかにもな日本食の朝御飯が鎮座している。
「「いただきます。」」
朝御飯を食べながら今日の予定を脳裏に呼び出す。
学校で授業を終えたら町唯一の葬式場に行かないといけない。
「喪服とか数珠とかはちゃんと準備しておくから、まっすぐ帰ってくるだよ。」
「はーい。」
半分食べ終えた辺りで玄関から声が聞こえる。
「き~た~よ~!」
友達だ。
「やば、今日待ち合わせ早いんだった!ごめん、ごちそうさま!」
大急ぎで部屋に駆け戻って鞄に荷物を詰め込む。
全力で着替えて家を飛び出る。
「柘榴ちゃん、そんなに息切れてどうしたの?」
「ーーーん、何でもない。」
「そ?じゃあ、行こっか。」
私たちが通う高校は影間町第一高校。
第一なんて付いてるけど影間町唯一の高校なので、同じ町の人はみんなここに集まる。
今日は普段より町が静かだ。
大体いつも登校中に二、三は事故を目撃する。
影間町は全国一事故が多いことで名を馳せる町だ。
「今日は静かだね。」
「うん。今日はおばあちゃんのお葬式だから事故もきっと静かにしてるんだよ。」
おばあちゃん、別に血縁関係がある訳じゃないけど町中の人からそう言われてた。
私と同姓同名だけど家系図には無かった。
今年で百歳って表向きにはなってるけど、私はほんとは三百だったって知ってる。
たぶん他の人も知ってる。なんで隠されてるのかは知らない。
この町が地図上に存在しないことまではこの時の私は知らなかった。