美少女「罰ゲームであなたと付き合うことになったわ」 俺「期間は?」 美少女「10年よ」
「池川 隼人くん。罰ゲームで友達からあなたと付き合えって言われたんだけど、いいよね?」
「罰ゲームってのはハッキリ言っちゃうんだ」
放課後の誰もいない教室で、俺は学年一の美少女と呼ばれている佐伯 千尋さんから罰ゲームでの告白を受けていた。
正直少しだけマジ告白だと期待したけど、現実はそう甘くはない。
「まあ断る理由もないしいいけど」
前に罰ゲームでの告白から本当の恋愛に発展するラノベを読んだことがある。
僅かでも望みがあるなら、それに賭けるのが男ってものだ。
「ありがとう。あなたならそう言ってくれると思ったわ」
「で、期間はどれくらい?」
問題はそこだ。
おそらく一、二週間程度だろう。
その短い間に佐伯さんとの距離をどれだけ詰めれるかが勝負だ。
「10年よ」
「…………ん?」
聞き間違いか?
いや、彼女はハッキリとした口調で言った。
俺の耳が正しければーー
「だから、期間は10年間よ」
うん、やっぱり10年とおっしゃっている。
「…………長すぎじゃね?」
「そう? 一般的な期間だと思うけど」
「本当の恋人同士でも10年付き合ってるのは稀だと思うぞ。それに佐伯さんも25、6歳まで俺と付き合うフリをするなんて嫌だろ?」
「仕方ないでしょう罰ゲームなんだから。ちゃんとやらないと友達に怒られてしまうわ。ただあなたには迷惑をかけてしまうかもしれないし、そこは申し訳ないわ」
迷惑っていうか思いっきり人生に介入してくるレベルなんだけど。
「という訳で、早速一緒に帰りましょう」
佐伯さんは俺の手を恋人繋ぎで握り歩き出すので、引っ張られるような形で俺は後に続く。
この罰ゲームの間に、佐伯さんとの距離をどれだけ詰められるかが勝負だがーー
とりあえず時間はたっぷりありそうだ。
◇
そして、俺の家の前に到着。
「ここがあなたの家ね。これから10年間はよく来ることになると思うから、ご家族にも挨拶しなきゃね」
「まだ母さんは帰ってきてないと思うけど、家にあがる?」
「そうね。あなたの部屋に連れてって?」
俺の部屋に入るや否や、ベッドの下やパソコンの履歴を漁る佐伯さん。
「佐伯さん、何してんの?」
「エッチなものがないかのチェックだけど? あら、このサイトは……」
佐伯さんはどうやら俺のお気に入り登録してあるアダルトサイトを見つけたようだ。
「とりあえずこれは削除しておくから。もう必要ないわ」
あ、消された。
「これから10年間はこういうものを見るのもするのも禁止ね。あ、あと私以外の女の子と仲良くするのもダメよ?」
「えっと……俺たち罰ゲームで付き合ってるんだよね?」
「そうだけど?」
「そこまでしないとダメなのか……」
とりあえず俺は10年間性処理と女友達ができないことが確定した。
「当たり前でしょう、罰ゲームとはいえ付き合ってるんだから」
そう言って佐伯さんはベッドに座っている俺の横に座り
「キス……」
普段はクールな彼女がもじもじしながらそう呟いた。
「え……?」
「だから、池川くんとキス……したい。というかしないとダメ」
「罰ゲームだから……?」
「……そうよ。付き合ってるんだから当然キスくらいしなきゃダメよ」
たかが罰ゲームでそこまでする?
いや、そもそも10年という期間の時点で普通の罰ゲームではなさそうだけど。
佐伯さんはもしかして本当に俺のことを……?
「わかった……。でも本当に嫌だったら言ってくれ」
「うん……」
そして俺は、佐伯さんの薄い唇にキスをした。
「あ……んんっ……ん……」
佐伯さんは体をびくつかせながらも、俺の頭に手を回して離さないようにしてくる。
俺も彼女の背中に腕を回す。
華奢な体だが、とても柔らかい。
彼女の長い黒髪が俺の手に触れる。
そして、彼女の顔が視界全体を覆う。
とろけるような甘い香りが口全体に広がる。
彼女の俺に対する気持ちが伝わってきたように感じた。
「ん……あ……ぷはぁ……」
佐伯さんはようやく顔を離し、真っ赤になりながらも俺を見つめて
「こ……これから10年間……毎日しないとダメだからね?」
そう囁くのだった。
その後母さんが帰ってきて佐伯さんを紹介することに。
「え……もしかしてちーちゃん? 久しぶり! またこっちに戻ってきたのね」
「え? 母さん知ってんの?」
「10年くらい前までうちの近所に住んでた千尋ちゃんよね? というか、あんたも昔はよく遊んでたじゃない」
「あー、何となく覚えているような……」
丁度10年くらい前、よくうちに遊びに来ていた女の子。
でも彼女は遠くに引っ越してしまって名前も顔もすっかり忘れてしまった子。
それがまさか佐伯さんだったなんて。
『ねえ隼人くん、ちーと恋人になってよ』
『うん、いいよ』
なんてやりとりをしてたっけ、そういえば。
じゃあ佐伯さんはそれをずっと覚えていてこんなことを……?
「ふふ、まさか本当に恋人同士になるなんてね」
「ち、違いますお母さん! 私は罰ゲームで……今日から10年間池川くんと付き合うことになっただけです! 短い間ですけど息子さんとは誠心誠意向き合うのでよろしくお願いします!」
母さんは一瞬驚いた顔をするがすぐに微笑む。
「なるほどね。隼人、千尋ちゃんの罰ゲームにあんたも最後まで付き合ってあげなさいね」
「……わかってるよ」
その後佐伯さんを駅まで送り届ける。
「ねえ佐伯さん、俺10年前のことすっかり忘れてた。ごめん」
「別にいいわ……。その分これから、愛してくれれば……」
「そうだね……」
「ま、まあ罰ゲームだけどね! 本当の恋人同士みたいにしなきゃダメだから! だから真剣に愛してよ?」
「もちろん、じゃないと佐伯さんも友達に怒られるからね」
「そうよ。じゃあ……ん」
佐伯さんは俺を見上げて目を瞑る。
俺は彼女の唇に再びキスをした。
「んちゅ……んあっ……」
彼女は先ほどよりも強く俺を抱きしめてきた。
そして、別れが名残惜しいかのような長いキス。
「んん……あ……はぁ……はぁ……死んじゃうかと思ったよ……」
「大分長くて息できなかったからね」
「そうじゃなくて……幸せすぎて……あ! い、いや! 罰ゲームだから本当は嫌だよ!?」
「そうだよね」
佐伯さんはめちゃくちゃ動揺しながら訂正する。
身振り手振りしていて、可愛らしい。
「今日は初日だから2回でいいけど……明日から毎日最低10回はキスしろって言われてるから……付き合ってよね」
「それは大変だね、でも罰ゲームならしょうがないか」
「うん……じゃあ改めて、これから10年間よろしくね……?」
◇
次の日からの佐伯さんとの日常。
一緒に待ち合わせ仲良く登校したり
佐伯さんがお弁当を作ってきてくれたり
休日にはデートに行ったりと、そんな日々が続いた。
もちろん毎日10回以上のキスは欠かさない。
俺と何かする度に、彼女は罰ゲームだから仕方なくやっていると言う。
俺はそんな彼女が愛おしくてたまらなく思っていた。
「ねえ池川くん、こんなに楽しい日々を送っていたら10年なんてあっという間に過ぎてしまうと思わない?」
罰ゲームから1ヶ月後の俺の部屋。
ベッドに横になり、佐伯さんが俺に抱きつきながらそんな言葉を囁く。
「そうだね、だからその短い間にたくさん思い出を作ろう。この10年で100年分くらい佐伯さんを愛してみせるよ」
「なら私は1000年分愛しちゃうから」
「やっぱり佐伯さんには敵わないな」
「当たり前よ。あなたが私を愛する以上に私があなたを愛するって罰ゲームで決まったの」
「ん……ちゅ……」
そして佐伯さんからの、今日もう何回目かも覚えていないキスをして、そのまま時間が過ぎ去っていった。
◇10年後
あの罰ゲームの告白から丁度10年が経過した。
26歳となった俺は母校の高校教師となり、忙しい日々を過ごしていた。
そして今日も仕事を終えて、マンションへと帰宅する。
「ただいまー」
俺の声に反応して、今日も彼女は玄関へとかけてくる。
「おかえりなさい、隼人。ご飯できてるよ」
「ああ、ただいま千尋。いつもありがとう」
千尋は大学進学を機に罰ゲームで俺と同棲することになったらしく、それ以来ずっと二人で暮らしている。
彼女も保育士として忙しい日々を送りながらも、毎日献身的に俺を支えてくれる。
「うん、付き合ってるんだからご飯作るのは当たり前だよ。でもその前に……」
「わかってるよ」
俺は千尋を優しく抱き寄せて、10年間一度も欠かしていないキスをする。
「んん……あん……んっ……はぁ……」
10年経っても相変わらずキスをする時に声が出てしまう千尋。
本当に愛おしい。
そして二人で仲良くご飯を食べて、ソファーで寛ぐ。
「ねえ隼人……実は今年は付き合った記念日のプレゼント、用意してないんだ……」
千尋は毎年、罰ゲームで付き合った記念日に罰ゲームでプレゼントを用意してくれている。
だから俺も毎年千尋へプレゼントを渡している。
「そっか、まあ何となくそんな気がしてた」
千尋は俺の手を握る。
彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいる。
「今日で罰ゲームが終わっちゃうから……隼人と恋人じゃなくなっちゃうから……そんな日を祝えないよ……」
彼女の手は、少し震えている。
「私さ、最初に隼人と恋人同士になったすぐ後に引っ越しちゃったから……だからその10年後、高校生になって戻ってきて隼人と再会したとき凄く嬉しくて……隼人との空白だった10年間を取り戻したくて……」
「だから期間は10年なんて言ったんだよね」
「うん……本当は普通に付き合いたかったけど……罰ゲームって強制力を持たせないと、隼人に捨てられちゃうんじゃないかと思って……それに初恋は実らないって聞いたし……」
千尋は本当に、何て健気な彼女なんだろう。
「だからね、今まで罰ゲームとか言ってたのは全部嘘なんだ……全部やらされていた訳じゃなくて、私の本当の気持ち……」
正直それは初日から気づいていたけど。
「でも、それも今日で終わり……隼人はこれからどうしたい……?」
千尋は潤んだ大きな瞳で俺を見つめる。
「うん……もう俺たち恋人はやめよう」
「あ……そ、そうだよね……10年間ずっと迷惑だったよね……ひっぐ……ごめんね……私のわがままに付き合わせて……」
「恋人はやめて、これからは婚約者っていう関係はどうかな?」
「……え?」
俺は千尋と繋いだ手とは反対の手でポケットからある物を取り出す。
「これって……」
「……婚約指輪。10年記念のプレゼントで用意してたんだ」
「え? 本当に……?」
「うん、罰ゲームでもなんでもないよ。俺の本当の気持ち。千尋、結婚しよう。期間は一生だけど、いいよね?」
「うん……! もちろんいいよ……! いいに決まってるよ……!」
千尋の震えの止まった白い薬指に指輪をはめる。
「この10年間、千尋のことを迷惑だなんて思ったこと一度もないよ。むしろ10年があっという間に感じるくらい幸せすぎだった」
「私も……人生全てを隼人に捧げてもいいくらい、あなたを愛していた……そしてこれからもずっと、それは変わらないよ……!」
これから先、限られた時間の中で今まで以上に千尋を愛したいし、愛されたい。
そして二人で、いや家族で幸せな日々を送っていきたい。
「ん……あっ……」
千尋と唇を重ねる。
千尋からも俺と同じ気持ちが伝わってきたように感じた。
お読みいただきありがとうございました。