私、何でも作れます。
その日、ルウの人生は変わった。
ルウ=シスコティウムは名門侯爵家の次女で、母がその命を宿したことが判明した瞬間から魔術の才能を期待されていた。彼女の生家は、代々魔術の力で国に仕え、生計を立て、自らを守る権威としてきたのである。その才能を正しく使ってきたシスコティウム家は国王からの信頼も厚く、長年繁栄を築いてきた。その根幹である魔術の才能分野は多岐にわたり、攻撃に特化した者、病を癒す能力のある者、少し先の未来が視えるものなど、国への忠誠心がなければすぐに傾国させられるだろうと囁かれている。
第18代当主の父、スラック=シスコティウムは植物であるならば自由自在に操ることができる。外部から嫁いできた母を除き、兄姉も抜きん出た能力を持ち、シスコティウム家の血を存分に示してきた。家族皆がルウの誕生とその能力を心待ちにしてきた中、たったのそよ風しか生み出せない彼女が産声をあげたのだ。
この世界では、生を受けた10日後に朝に一枚の紙切れが届く。王侯貴族、商人、平民、出自は関係なしに全ての子供にだ。天から届くのか、地から届くのかは定かではない。どこからともなく現れるのだ。とにかく、そこには自分がどのような魔術を扱えるのかが簡潔に記されている。もちろん、ルゥの元にもその紙は届いた。「そよ風を生む」と書かれた紙が。
魔術の名門シスコティウム家に生まれたルウ。そんな彼女の能力がたかが「そよ風」だったなんて、さぞや虐げられたとお思いのはずだ。
だが。
ルウは。
可愛かったのだ。
生まれながらの美女だったのだ。
ほんのりバラ色のぷくぷくとした頬。ぽってりと艶めいたさくらんぼのような唇。長いまつげに縁どられた栗色の瞳は薄っすらと涙を湛えながら世界を映し出している。顔面偏差値が既にカンスト間近なのだ。可愛さは正義である。魔術が使えようが使えまいが、この子を虐げることなどありえないことだったのだ。また、確かにシスコティウム家において魔術の才能に恵まれないことは極めて珍しいことではあったが、王家より嫁いできた母ミリアムはまったく魔術を扱えなかったため、そういうこともあるだろう、と容易に受け入れられた。
「ルウは神様に愛されすぎて、その可愛さだけでなく、魔術まで使えるようにしていただいたのね。」と母を筆頭に盲目まっしぐらな家族に囲まれながらすくすくと成長した彼女。魔術を使えないことに一抹の寂しさを抱きながらも、両親に愛され、兄弟に愛され、使用人にも愛されたルウは幸せな日々を送っていた。
そんなルウの、17歳最後の晩。一夜にして人生が変わった。




