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1話

 


 異世界。


 現実とはかけはなれた世界、そこに今自分は佇んでいる。


 会社から帰宅してシャワーを浴び、濡れた髪をタオルで拭きながら日課の如くPCを立ち上げたら、なぜか部屋ごと異世界転移していたのが今から一時間ほど前の事である。


 異世界転移した場所は夜の森の中。


 部屋の電気もPCの電源も落ちないで起動しているが、元いた世界との接触を試みたサイトの閲覧やメールの受送信は不可能。


 その代わりメッセージが一通、PC画面に送られてきた。


 ──────────────


 拝啓 時下ますますのご清栄のことと

 お慶び申し上げます。


 この度は

 夜更けに異世界へと同意もなく

 ご案内をさせて頂きました事

 深くお詫び致します。


 まず初めにお知らせさせて頂きますが

 サンジョウ サトリ様を元の世界に

 ご帰還させる方法はございます。


 これでご安心いただけたと思いますので

 ご帰還される為にも

 これからこちらのPC画面に送らせて頂きます

 ミッションを全てクリアして頂きたく存じます。


 とはいえ、異世界転移されたばかりですので

 本日はごゆっくりお過ごしください。


 それではまた明日

 ご連絡させて頂きます。


 敬具




 ──追伸──

 森の中は安全です。


 衣食に必要なものは部屋を出て

 正面にある社にてご用意させていただきます。

 是非ご利用くださいませ。


 ──────────────


 強制連行確定……である。


 めっちゃ丁寧な文章だが、犯罪自覚した犯行声明文である。


 最初は訳が分からなかったが、窓の外にお生い茂る木々に慌てた。

 ベタだが夢かとも思い机の上にあるカッターで左手の人差し指を少し突っついてみたら痛かったので、夢ではないらしい。

 窓を開けるとマンションの三階にあるはずの1LDKの俺の部屋が地面にお生い茂る草むらの上にあった。

 バス、トイレ、キッチン付きの異世界転移とかいたせり尽くせりと言うべきか……いや、問題はそこじゃない。


 メッセージには衣食に関しては部屋の前にある社を利用しろとあるが、この状況で部屋から出るか出ないか、判断に困る。

 とりあえずキッチンに向かい冷蔵庫の中をチェック。

 見た感じ三日分の食料はある。IHヒーターも使えるし水道の水も綺麗で飲むのに問題は無さそうだが、水は一度沸騰させた方が懸命だろう。

 戸棚を開けるとインスタントカレーが五個とカップラーメンが七個あり、米びつには半分くらい白米が残っている。これでさらに四日は凌げるだろう。

 そして塩。買い置きの五百グラムが一袋と食卓塩が一個。

 人間、塩と水があれば生き永らえる。とはいえ、正直そういう事態は遠慮したい。


「森は安全……か……」


 そもそもこのメッセージが嘘ならば生きる道は無いと言って過言では無い。


 外に出るか?────だが、足は動かない。


「とりあえず、飯にするか」


 腹が減っては戦ができぬ……とりあえず冷蔵庫の扉を開けた。




 ✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖✖



 腹も膨れたので、再びPC画面と向かい合う。


 異世界なのに日本語で書かれているメッセージ。


 そもそも書き出しからして『拝啓』と、和文体である。


「もしかしたら相手は、同じ日本人である可能性が……?」


 とはいえ、ここは異世界。目に見えている全てが実際の事とは異なる場合があるとも考えられる。

 例えばこのメッセージにしろ本当に日本語で書かれているとはか限らない。もし相手が何らかの方法で日本語翻訳機のような能力を使っていたならば、話は色々と変わってくるが。


「しかし、なんだってこんな事に……」


 本当に意味不明である。

 なにより何故自分なのか……

 計画性がある以上、そこには理由が必ず存在する。


「とはいえPCは現代には繋がらないし、かと言ってこの異世界人に知り合いなどいない」


 ボヤきながらPC脇に置いている眼鏡ケースを手に取り、黒縁眼鏡を取り出す。

 昼間はコンタクトレンズだが、夜は眼鏡というスタイルなのは、幼少の頃から眼鏡を利用していたので、眼鏡の方がリラックスできるのである。


「そういえば小学校に入学してすぐの頃、黒縁眼鏡のせいで虐められたことがあったなぁ」


 虐められた事対しては今もまだ、心の奥底にこびりついた感情を精算しきれたわけではないし、相手を快く思うような事はないにせよ、仕返しなどは考えはしない。

 勿論、いい大人になったという事もあるが、運良く自分には『正義の味方』が現れたのだ……それも二人も……二人なのはその『正義の味方』が双子の兄弟だったからなのだが、小学生だってのに文武両道を絵に書いた様な双子で、子供たちだけでなく教師や保護者達大人も顔負けのその行動理念は、瞬く間に校内から虐めや依怙贔屓などといった『必然悪』は消え去っていた。


「どうせ召喚するなら、ああいう双子のような人間の方が適材適所だろうに」


 そんな事を思いながら、溜息をひとつつく。

 元の世界に帰る方法はある。

 そのためには指定されたミッションをクリアする必要がある。

 必要なものは部屋を出た正面にあるという『社』に行けば用意される。


 …………


 いきなり殺されたりしなかっただけも、運がいいといえば運がいい。

 ライトノベルなどであるよくある展開とは些か勝手が違うが、結果だけを見れば概ね同じと言えるのではなかろうか?

 まぁライトノベルの異世界ものみたいに、いきなり神様が現れてチート能力を授けてくれる展開ではないが、命の保証が『一応は』ある……という意味では同じだろう。


 あのPCに送られてきた文章に、どれだけの信憑性があるかは定かではないが……


「とりあえず、寝るか……」


 今はこれ以上考えてもどうにもならないと割り切り、電気を消してベッドへと潜り込んだ。




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