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賢木学園シリーズ

ハッピーエンドじゃ終わらない

作者: 村崎ユーキ

勢いで書きました。


ラブとコメディなので、ラブコメをタグに入れました。

どうぞ、よろしくお願いします。

 7月。もうすぐ夏休みの今日このごろ。


 この時期となると太陽は迷惑なほどに元気を出してくれている。夏の太陽だ。

 屋外に出れば、湿気が全身にまとわりつく。強い日差しは逃がさないとばかりに、アスファルトに照り返して全身を射るようだ。

 逃げ場はクーラーの効いた屋内にしか無い。


 窓の向こうには衣替えした半そでのワイシャツを着る生徒たちがちらほら。

 校舎から校門へと伸びる石畳の道では女子生徒は皆日焼けが気になるようで手やハンカチで顔を隠して歩いていた。


「いやになっちゃうなぁ……」

 罰ゲームみたいな屋外の様子に、あたしは溜め息まじりに言葉を吐き出していた。




 今はテスト一週間前。学校の決まりで部活は活動停止。

 いつもはこの時間になると校内ダッシュをするテニス部や野球部の部員たちが廊下を通り過ぎるのだが、今日はもちろん現れない。



 あたし――田ノ浦 朱里(たのうら あかり)は今、いつもは来ることがめったに無い図書館に来ていた。

 勉強のため~とか言ってホームルームが終わってすぐに教室から逃げるように来たのだ。で、それから時計は回ってもう7時前。あと30分くらいで下校時刻だ。


 ……なんて時間の浪費をしてしまったんだ。


 あたしは机にひじを突いて窓の向こうをぼーっと眺めた。

 周りでは真面目に勉強をしている生徒が何人もいた。


 この生徒のうち、何人が普段から図書室を使っている生徒なんだろう。


 ほとんどがあたしのように、にわか図書室ユーザーなんだろう。あたしの両肘の間に転がっているのは、数ページやっただけのほとんどが空欄の数学の問題集。


 図書館にいて何をしたか……。

 図書委員の友人が見たら怒るんじゃないだろうか。



『そもそも図書室は自習室じゃない! 本を読むところなのよ!』


 テスト前ともなると、そんな主張しはじめる女友達の表情が浮かぶ。

 

 ごめんなさい。あたしは寝てました。横で猛勉強してる子を尻目に寝ていたんです!


 もともと勉強する気があってきたわけじゃない。テスト勉強なんて毎回一夜漬けのあたしが! するわけない!



 教室にいたくなった。あいつと顔を合わせたくなかった。

 一緒に帰りたくなかった。


 だからわざとこうやって、こんな古い紙の臭いのする図書館に来て居残ってたんだ。




 なんか、こういうのって逃げてるだけだよね。

 ごめん……桐原!!


 桐原 勇斗(きりはら ゆうと)


 あたしのクラスのちょっと目立った存在。

 顔は物凄い格好いいとかそういうのではないけど、すごく性格が良くて頭も良い。なんだか年相応じゃないことまで、何でも知ってて物知り。先生も一目置いてるような存在。


 皆、あいつのことを信頼してて……。とにかく、すごい人気者。



 そんな男子が昨日あたしに言った一言。


「朱里。理由なんて、今はうまく言えないけど、俺と付き合ってほしいんだ!」



 あたしは返す言葉が無かった。

 そこまで仲良く付き合ってきたわけでもない彼。なのに、突然そんな告白されて、あたしはわけが分からなかった。どうしていいか分からず、あたしはすぐに逃げた。


 急に恐くなって逃げ出した。

 後ろで彼があたしをとめる声を必死に出していたというのに。


 それからと言うもの、あたしは彼と顔を合わせないように気をつけていた。

 わかんないんだ。好きなのか嫌いなのか…………。



「あ……」


 下校時刻になり、図書館を追い出されたあたしは気づいた。

 気づいてしまった。


「電子辞書教室に置き忘れたんだった……!!」


 アレが無いとホントでやばい! 明日の英語で当たる可能性大だというのに予習もしないと英語の先生にキツイ事言われちゃうよ!!

「取りに戻るしかないかぁ……!」

 あたしは拳をぐっと握り締めた。



 既に暗くなった空。

 ほとんどの教室の電気が消えた教室。



 ―――怖い……。


 しょうがない……しょうがないんだけど!


「えぇい! 頑張れ、あたし!!」


 図書館を背にして左側に建つ校舎。手前から1年棟、2年棟、3年棟。


 2年のあたしはちょうど1、3年に挟まれ、日当たりの悪い2年棟へと向かった。

「暗い……怖いよ!!」

 が、上を見ると

「あれ……?」

 何故かあたしの教室の明かりがついている。


 「誰かいるのかな」

 妙な好奇心にかきたてられ、恐怖心はどこへやら。足は軽く、教室へと向かう心も弾む。階段を駆け上り、3階の教室へ……。電気の消えた廊下を照らすドア窓の光がまぶしい。

 あたしは静かにドアを開けた。



「あ……!!」

 教室の中では一人の男子生徒が机に向かってコツコツと勉強をしていた。

 あたしに気がついていない様子ではあったけど……

「き、桐原」

 あたしは思わず奴の名前を呼んでしまった。

「あ。何だ、お前まだ残ってたのか!」

 当然、気付かれる。顔を上げて視線をこちらへ向けた桐原は、驚きと呆れが入り混じった複雑な表情をしていた。


 そうだった、こいつはテスト前になると決まって教室に残って誰よりも遅くまで勉強していく奴だったんだ。あたしが馬鹿だった。



「何つったってるんだよ。忘れ物でも取りにきたんだろ? あ~、図書館で勉強してた……とか聞いたけど、どうせほとんど寝てたんだろうな、お前のことだから」


 シャーペンをカチカチやりながら皮肉っぽくいう。ムカつく! こういう奴だったんだ!!

 コイツのことで悩んで、少しドキドキしてしまっていた自分が馬鹿みたい。

 なんだか気恥ずかしくなって、頬が熱くなってくる。


「う……うるさいわね!! お邪魔だろうからすぐに帰りますよ!!」

 あたしは自分の机の上に置いてある電子辞書を手にするとさっさとドアのほうへ向かった。

「おい、ちょっと待てよ!!」

 見れば、桐原は机の上に広げていた勉強道具をカバンに慌てて突っ込んであたしのほうへ走ってくる。うわっっ……こいつ一緒に帰る気!?

 

 当然、あたしはダッシュして奴から逃げた。

 マラソン大会学内2位の脚力をなめんなよ!


「おい朱里、話を聞けってば!!」


 既に奴の声も遠くから聞こえる。




「え!?」


 ふと、耳の側を通過しながら何かが空を切って通り過ぎる音が聞こえた……。



 さらに、次の瞬間



「アウチ!!」


 後頭部に何かにぶつかったらしい。

 その衝撃に、あたしの身体は廊下に倒れこむ。


「いったぁ……」


『何か』が直撃した後頭部をさすりながら起き上がり

 目の前に転がっているにっくき『何か』をみると、それは……


「なんじゃ、こりゃぁ!!!」



 嘘でしょ! しゅしゅしゅしゅ……手榴弾?


 ドラマや映画でしか見たことも無い、こぶし大のゴツゴツとした表面の物体がそこにあった。

 何故こんなものがこんなところに!?!? 

 え? おもちゃ? おもちゃだよね??


 あたしは半分頭がおかしくなったんじゃないかと無駄にキョロキョロと周りを見回していた。そして、ハッとして手に持っているものに意識を戻す。



「ばばばっばばばば爆発………爆発する!!!」


 あたしは猛ダッシュでもときた道を引き返した。


「きッ桐原ぁぁぁ!! 手榴弾、パイナップル爆弾が落ちてる! やばいやばいやばいよーーー!!!!」

 桐原に恥ずかしげもなく抱きついてしまった。だが、あたしが慌てて恐ろしいことを言っているのに桐原はさらりと「お前は、出●か!」とツッコミを入れてから続けて言った。


「ごめんごめん、やっぱり当たったか」


 って、お前が投げつけたんかい!!




「ありゃぁ、火薬が入ってないから爆発しないぜ。大丈夫大丈夫。本物はこっちだしな!」


 何やらそれっぽいものをカバンから取り出す桐原。

 なんでこんなモンを持っているんだ、貴様!

 カラッとした邪気のない笑顔が、さらにあたしの恐怖を誘う。


「ちなみに、こういうものも持ってるんだぜ」


 そして、得意げに彼が懐から取り出したものは、さらに黒くて重厚でキラキラしたもの。


「け……拳銃!? 嘘! なになになになにーーーーー????」


 あたしは思わず、桐原から離れ、「銃刀法違反……」と言いながら一歩身をひいた。

 目が見開き、彼の持つ黒くて重たそうな物体に目が釘付けになった。


「信じてない? 証拠見せようか?」


 すると、桐原は銃口におもむろに黒い筒状のものを付ける。

「その黒い筒って……」

「ん? サプレッサーってヤツ。サイレンサーって言ったほうが分かる? ほら、音立てたら問題あるし。最近色々と物騒じゃん?」

 まだ冷静さが残ったあたしの脳が「物騒なのはお前だろ。」と、唇を動かす。


「じゃ、撃ちまーす。」

 馬鹿みたいに無邪気で楽しそうな声が、あたしと桐原だけの廊下に響く。

 桐原は、廊下の向こう側、ずっと遠くにある(誰かが置いていったんであろう)缶に狙いを定め……


 軽やかに引き金を引いた。



 どうやら命中したらしく、小さな衝撃音と共に渇いた音が暗い廊下に響く。

「当たったの……?」

「ようだねぇ」


 あたしはさらにもう一歩、身を引いた。足が震える。その震えは徐々に上へと広がり、口の中で歯がカタカタと音を立てだした。

 あたしは、目の前にいるクラスメイトであるはずの男に恐る恐る尋ねる。

「桐原。あんた、いったい……何者?」


「僕は……、実は23歳、キャリア組の刑事。実はとある一件でこの高校に潜入捜査中なんだ」

「は? はぁ??」



 いきなりの言葉の羅列にあたしは混乱する。

 こいつは電波系なのか??というか、例え刑事でも手榴弾は持ち歩かないだろ!!

 そんな風にキレのあるツッコミも、あまりの展開に言葉が出ない。


「で、どうしてもホシと接触するために協力者が必要なんだ」

 桐原はいきなり真剣な顔になりあたしの両手を握り締めて言った。

「犯人捜査に付き合ってくれ!! 協力してくれ!!」

「……って、そういう『付き合う』かよ!!」

 あたしは俯いて、拳をギュッと握り締めた。


「付き合ってくれるか、朱里」

 俯いたあたしの両肩に、桐原が両手を優しく置いた。


 その瞬間



 鈍い音が廊下に響く。

 そして、響かせたのはあたし。

 あたしは握り締めた右手で、桐原のみぞおちを思い切り突いたのだ。



「ぐうっっ……ふぐぅっ」


 あたしの頭のすぐ上から、小さな呻き声と、こみ上げる何かを我慢する音がした。

 両肩に置かれた手は、ずるずると崩れ落ちる身体につられてパタリとおちる。


 床の上に転がった桐原は腹を抱えるような姿勢になって、苦しみもだえている。

 彼はえずきそうになるのを抑えつつ「そ……の、“突き合い”じゃ、ない……」と口から泡と一緒に言葉を吐き出していた。



 それを様々な感情を抱えつつ見下ろしながら、あたしは「さよなら」とだけ桐原に言ってやった。その言葉とともに、つい数分前まで芽生えかけていた甘酸っぱい思いも吐き出していた。


 あたしは、すっきりとした気持ちで満たされ、彼に背を向けて歩き出す。


「その脚力、攻撃力……す、素晴らしい。絶対に、僕の捜査に必要だ……っっ」



 背後から耳に届く彼の言葉を聞き流しながら、あたしは顔色一つ変えずに学校を後にしたのだった。



 翌日、学校へ登校すると何故か2年棟が半壊していた。



 あたしは一番桐原を怪しんだが、彼はそ知らぬ顔で登校している。

 何をやったんだ、お前は。


 一応尋ねてみれば、彼曰く、

「昨日、あの後いきなりホシが現れてさ。ガンガン撃ちまくったんだが、奴も光線銃で応戦してきやがって、思わず投げちゃったよ」

 との事。たぶん、コイツ狂ってる。



 あまりにも明るく言うものだから現実味に欠ける。


 どう見ても、どう考えても、この男の頭のネジが数十本飛んでいるとしか思えない!

 むしろ、何かの薬でも摂取してラリって妄言を発しているだけなんじゃないかとさえ思える。



 それ以前に、お前は本当に何者だ!!


「なぁ、頼むから協力してよ!!」

「ふざけんな! 絶対、いやだぁってーの!!」






―完―

だいぶ前に原型を書いていたのですが、その後に似たような設定(設定だけです)ドラマがあることを知り焦りました。(童顔の刑事が高校に潜入する的なモノ)

真似はしていませんが、何かアレだったらすみません。


内容とはあまり関係ありませんが、桐原が探しているホシはMAD Alienのヤマダとヨシダだったという設定もあります。

書いてて楽しかったです。


ご拝読ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 ラブ…かと思いきや、コメで終わる。 良い肩透かしでした! 前作も読ませていただきました。 このシリーズ、楽しみに待ちます!
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