1話
部活終わり、幼馴染の杏果と駄弁りながら帰宅していた。
「ねぇ、雄二は今年のインターハイも優勝できそう?」
俺は加藤雄二、東京在住の高校三年生である。一年生の時に剣道で全国準優勝、二年生の時、圧倒的な強さで優勝を掻っ攫った。もちろん今年も優勝候補筆頭といわれているが現在は調子を落としている。
いや、調子を落としているという表現は少し間違っている。
精神的には問題ないのだがここ数ヶ月体から溢れ出る力感に振り回されている状況だ。
考えて欲しい、物心ついてからずっと手に収まってた竹刀の重みがなくなった。もちろんゼロではないが限りなく重さを感じない。
色々な技はあるが基本は竹刀をしならせて打つもの、感覚が狂っているため急遽修正中だ。
腕力だけではない、脚力も強くなり、踏み出しの速度にも大きな誤差が生じている。
車で言うとフレームや車重量が変わってないのにステアリングが急に軽くなったり、馬力が増えて振り回されてるイメージだ。
少しだけなら長年培ってきた経験で数週間で修正出来るものの、これが日々変わっていく。
しかも日を追うごとに上がり幅が増えている。剣道は心技体の全てが揃ってないと試合には勝てない、というか審判の旗が上がらない。
(本人は気付いていないが正直なんでもありの戦いであれば警視庁の猛者などの大人を含めて圧倒出来るほどの力を有している。)
「んー分からん。いいとこまではいけるだろうけど優勝となると正直読めん」
身体能力は抜群に上がっているが体に違和感を感じたまま、勝てるほどの甘い競技でもないのは事実だ。
「それよか杏果はいいのか?俺なんかと帰って」
そう、杏果はもう一人の幼馴染である新一と今年の春から付き合い出したのだ。
「いいの!あんた忙しくて全然話せなかったじゃん」
こちらは遠慮して距離を空けていたが物心がついた時からの幼馴染は納得してなかったようだ。
(・・・進展のない雄二に嫉妬して貰いたくて新一と付き合うかもって言ったら両手放しで祝福されて、引くに引けなくて新一にお願いして付き合ったテイにしてもらってるのに、コイツは更に距離まで取るようになりやがって!私の事何も想ってないんかい)ボソ
「ん?ボソボソ言ってないではっきり言えよ、キャラに合ってねーぞ」
「あんたの中の私のキャラについて話し合う必要があるわね」
こんな軽口を叩いてはいるが杏果は客観的にみても美少女だ。活発な雰囲気で地毛が茶色がかっており校則を気にして目立たない様、ショートカットにしているが整った目鼻立ちと合間って健康的な美少女になっている。
学校ではお姉様と慕う女子後輩も多く、男も10人すれ違えば9人が振り返り、1人がハァハァしてしまう人が出る程の色香を放っている。
対して俺は、目だけはハッキリパッチリしてるが身長は173センチとフツー、剣道を長年やってるおかげで筋肉を纏ってはいるが一般的なアスリートに比べて細身体型だ。
師範の厳しい指導のおかげで姿勢をキチンと普段からしてるおかげで授業態度は良いと勘違いしてもらっているが勉強嫌いが祟って姿勢良く妄想ばかりしてるために成績は並よりちょい下である。
杏果からはいつもやれば出来るのにやらない子扱いを受けている。
運動は何時間でも集中出来るが勉強には活かせずテストの時も一夜漬けを試みて掃除ばかり進んで満足して寝てしまうタイプだ。
たまにお小遣いを減らすぞと脅しを親からかけられた時のみ寝ないで頑張って上位の下の方に食い込むのだが、それでも掃除はしてしまうのは不思議だ。
「おまえら付き合ってるのにイチャイチャしてる感じしねーし、大丈夫なのか??
まぁ目の前でイチャつかれてもキモいだけだけど」
「おいこら、キモいってなんだ!次言ったら蹴るぞ!」
と言われる前にケツを蹴られた。
「てめぇ、もう蹴ってんじゃねぇか!この男女が!」
「黙れ!このポンコツ朴念仁!
あんただけだよ、わたしにこんな雑な対応してくるのわ」
そう幼少の頃から可愛かった杏果は、中学生に上がる頃から綺麗さを増し、明るい性格もあってクラスカーストのトップに存在する。
「すまん、好きな子いじめちゃうタイプなんだわ」
と冗談めかして言うと
「バカ」と一言だけ言って俯いてしまった。
付き合ってる彼氏もいるし、いつもの冗談風に言ったつもりだがこういう系の冗談にはめっぽう弱くて、面白くてつい言ってしまう。
しばらくニヤニヤしながらリアクションを待ってると今度は腹パンを貰ってしまった。
「おまっ!みぞおちは汚ねーぞ」
と屈んで腹を摩ってるとプンプンしながら先に帰ってしまった。
「はぁ、相変わらず良く分かんねーやつ」
と独り言をいいながらふと見上げると真っ赤な月が出でいた。
何故か悪寒がして杏果に追いつくべく、走り始めた。
処女作です。
更新遅めです。