表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の使徒になりました。  作者: KEMURINEKO
第1章 闇の奴隷商人。
8/77

第8話 屋敷と奴隷と。

お読み頂き有り難う御座います。


第8話です。

アン:『ザック♪起きてる?』


ザック:『おはようアン。起きてるよ。』


アンに自分の素性を打ち明けてから2週間ほど経った。


先日アンの部屋の修繕が終わり、段ボールは宿屋の倉庫に置かせて貰っている。


さすがにこれ以上同じ部屋に住む訳にも行かないので、アンはしぶしぶ自分の部屋に戻った。


今日はアンの希望で、部屋を探しに行く事になっている。


アン:『何してんの?ステータス?』


ザック:『うん、使えるスキルや魔法を見てたんだ。』


ザック:『紅茶飲むか?』


アン:『うん、有り難う』


朝食前のティータイムはすっかり日課になっている。


アンは宿屋に居る時間のほとんどを俺の部屋で過ごしているので、アンの部屋は単なる寝室状態だ。


アン:『何か良いのあった?』


ザック:『うん、ワープってのが面白そう。』


アン:『ワープ?』


ザック:『転移魔法なんだけど、一度行った所にしか転移出来ないってデメリットもあるんだ。』


アン:『それを使うと瞬間的に移動出来るの!?』


ザック:うん、闇属性の魔法で、それなりに魔力は使うみたい。』


アン:『て事はかなり上位の魔法なのね・・・。ザックってとことん規格外よね?』


ザック:『元々俺の力じゃ無いけどね。そうだ、朝食を食べたら商人ギルドに行くんだよな?』


アン:『うん、良い物件が有れば良いんだけどね。』


こちらの世界には不動産屋という物が無い。


不動産物件に関する取引は商人ギルドに一任されているそうだ。


ザック:『部屋と一軒家かぁ。一長一短は有るけど、アンとしてはどっちが良い?』


アン:『掃除や手入れは部屋の方が楽だし、いつもザックと一緒に居られるけど・・・。でも一軒家なら荷物とかの心配は要らないしなぁ。』


アンとは風呂やトイレ以外はほぼ一緒に行動している。


自分の部屋に戻った事で一層寂しがり屋になっているみたいだ。


ザック:『さて、朝ごはん食べようか。』



食堂に行くと、ダイソンさんが声を掛けて来た。


ダイソン:『ザックさん、アンさん、おはようございます。』


ザック:『ダイソンさん、おはようございます。』


ふと見ると、いつもとは違う感じの料理が並んでいた。


ザック:『新しいメニューですか?』


ダイソン:『えぇ、実は今度王都の知り合いが泊まりに来るんで、少し変わった料理でも出してやろうかと思いましてね?先日ザックさんから教えて貰ったホイコーローって奴を少しアレンジしてみたんですわ。』


こっちの世界では根野菜が多く葉野菜の種類が少ない。


ホウレン草は有るがキャベツやチンゲン菜は無く、先日ホウレン草とニンジンを使った簡易ホイコーローを作ったのだ。


もちろんオイスターソースと豆板醤は向こうの世界の物だ。


ダイソン:『それで朝から重たいかも知れませんがザックさん達に試して貰おうと思いまして。』


ザック:『そういう事なら喜んで頂きますよ。』


アン:『美味しそうね。』


食べてみると凄く美味しかった。


食感が独特な葉野菜が入っていて、その野菜の風味が良いアクセントになっている。


アン:『美味しい!ダイソンさん、これ美味しいですよ!』


アンは大絶賛だ。


ザック:『この葉野菜の食感と風味が良いですね。何て野菜なんですか?』


ダイソン:『それは【ツキヨミクキナ】って薬草の一種です。普段は刻んでパテに入れたりするんですが、あまり風味にクセが無いんで、そのままちぎって入れてみたんですわ。』


アン:『どんな効果がある薬草なのかしら?』


ダイソン:『これは滋養強壮に効くんですよ。宿屋は冒険者さん達が泊まりに来ますから、こういう薬膳的な料理も良いかと思いましてね。』


ザック:(ダイソンさんは研究熱心だな。)


ザック:『全然アリですよ!これなら他の宿泊客も喜ぶと思います。』


ダイソン:『そう言って貰えると嬉しいです。簡単に手に入る薬草なのでメニューにも載せられますよ。ザックさんから頂いた調味料も、この料理なら使う量も少ないんで当面は持つでしょう。』




美味しい朝食を食べた2人は身仕度をして商人ギルドへ向かった。


ザック:『すいません、物件を探しているんですが。』


サリア:『あれ?ザックさんにアンさん?』


窓口に行くとサリアが声を掛けて来た。


ザック:『あれ?サリアって昼からの仕事じゃ無かったの?』


サリア:『最近リースに何人か職員が移ったので、朝から働ける事になったんです。ザックさん達は物件を探しているんですか?』


アン:『いつまでも宿屋暮らしっていうのもねぇ。』


ザック:『所在証明も欲しいから拠点になる物件を探してるんだ。』


サリア:『そうなんですね。ただ今ですと、一軒家しか空きが無いですね・・・御二人で住むんですよね?』


ザック:『そうなんだけど、一軒家でも構わないよ?俺達が留守にしている時に家の管理を任せる人も住んで貰うから。』


サリア:『それですと・・・今は3軒有りますね。どれもギルド所有の物件ですね。一軒は水汲み場が外で、二軒は屋内に水道があります。』


アン:『なら候補はその二軒よね。』


ザック:『家賃はどくらいするの?』


サリア:『家賃は二軒とも17.500ジルです。前金での支払いで、初回のみ2ヶ月分を支払って頂く事になります。』


ザック:『思ってたよりは安いかな?どんな物件なの?』


サリア:『北エリアの東側にある住宅地にあります。此処で説明しても具体的には分かりづらいと思うので、宜しければこれから見に行ってみますか?』


アン:『そうね。行ってみましょ。』




北エリアのメイン通りは商店街があり、西側と東側で印象の異なる街並みになっている。


東側は住宅街、西側は小さな商店といわゆるアパートが並んでいる。


今回来たのは東側のほぼ中央に位置する一等地だった。



サリア:『こちらになります。』


アン:『え!?ちょっとこれお屋敷じゃない!?』


アンが驚いて声を上げる。


ザック:『こりゃ凄い屋敷だなぁ。』



広く手入れが行き届いた庭、馬車用のエントランスロータリー、そこには絵に描いた様な二階建ての豪邸が有ったのだ。


サリア:『こちらの物件は、以前王都の貴族が所有していたのですが、ギルドに売却されたので現在は空き物件として管理されています。』


アン:『これ掃除や手入れをするだけでも大変よ?』


ザック:『借家って言うからもっとこじんまりしたのを想像してたんだけどなぁ。』


サリア:『現在小さな物件はどれも埋まっていまして、先程お話した二軒の物件はどちらもこの様な邸宅になってしまいます。』


アン:『何で家賃があんなに安いの?私の見立てだと倍はしてもおかしく無いわよ?』


サリア:『先程もお話しましたが、こちらの物件は商人ギルド所有の物件です。アーデンは王都直轄の町ですので領主が居ません。となれば貴族が住んでも利権が得られないので、この町ではこの様な物件を希望される方が居られないという事で家賃が一律になっているんです。』


ザック:『つまり借り手が居ないから値段を下げないと借りて貰えないって訳か。』


サリア:『どうぞ中も御覧下さい。』


サリアが鍵を開けて扉を開くと、外観以上に圧倒される光景が目に飛び込んで来た。


広い玄関ホール、アーチ階段、10部屋もある寝室、広々としたリビング、使い勝手の良さそうなキッチン等々。


ザック:『借りようとしてる俺が言うのもなんだけど、冒険者が住む家じゃ無いよな・・・。』


アン:『まったくだわ・・・。』


サリア:『こちらの物件は10年以上借りて頂くと相場の半額以下で買い取る事ができます。』


ザック:『10年住めば買い取りもできるのか・・・。でも今はそれを考えないでおいた方が良いな。』


アン:『そうね。ねぇこの屋敷を借りるとして、掃除や手入れはどうする?』


ザック:『どのみち旅に出たりしたら屋敷を管理して貰う人が必要だからなぁ・・・。』


サリア:『それでは奴隷を買われてはどうかと。』


ザック:『奴隷か・・・一応考えてはいたんだよな。』


アン:『どうせ部屋もたくさん有るし良いんじゃない?』


ザック:『ねぇサリア、ちなみに商人ギルドから執事を派遣して貰うとしたら、結構高いのかな?』


サリア:『執事はかなり費用が嵩むと思います。』


アン:『そりゃそうよねぇ。でもザック、何で執事が必要なの?奴隷を買って使用人にするのは分かるんだけど。』


ザック:『俺達が留守にしている時に、屋敷の責任者が居る方が良いだろ?留守中に誰かが訪ねて来ても対応して貰えるし。』


アン:『あぁ、そういう事も考えなきゃ駄目なのね。』


サリア:『・・・ザックさん、奴隷を買われるんですよね?』


ザック:『そのつもりだけどね。』


サリア:『実は奴隷に落とされた執事に心当たりがあるんですが・・・。』




商人ギルドに戻り、サリアが書類を調べ始めた。


サリア:『ありました、ザックさん、これを見て貰えますか?』


それはサリーという奴隷のリストだった。


元伯爵家の執事で、同じ屋敷で働いていた料理人とメイドも一緒に落札されたそうだ。


現在は3人共アーデンの奴隷商で売り出されているのだが、オークションから間もなく10日を向かえるらしい。


サリア:『奴隷にはランクがあります。オークションから10日をむかえるとランクが下がり、奴隷本人の希望する職種の枠では売り出せなくなるんです。そうなれば安い奴隷として本人の意思に関係無く、無条件で買い叩かれる事になってしまいます。』


ザック:『問題は値段かな?3人セットで買うとなると結構な金額になるからね。』


アン:『そうよね。これからあの屋敷に住むとしたら色々お金掛かりそうだし。』


サリア:『ザックさん、その交渉私に任せて頂けませんか?』


ザック:『サリアが交渉するのか?』


サリア:『いいえ、私ではありません。もっと適任の方が居るんです。ちょっとお待ち下さいね。』


そう言うと、サリアは奥で仕事をしていた女性と話をして連れて来た。


サリア:『紹介します。こちらは奴隷商担当のレイティアさんです。』


レイティア:『レイティアと申します。こちらの3名の奴隷を購入されるに当たり、私が交渉させて頂きたく思います。』


ザック:『どうゆう事なのかがまだ理解出来て無いんですが。』


レイティア:『我々ギルドとしては奴隷のランクを下げさせたくはありませんし、奴隷商としてもランクが下がる事で損益が発生してしまいます。そこで今回この3名のオークションでの落札時の金額と照らし合わせて、奴隷商にも損益が無い範囲で安く購入出来る様にサポートをさせて頂きたいのです。』


アン:『そういう事なら頼んでみたら?私達が交渉するより話が早いみたいだし。』


ザック:『確かに俺達が直接交渉するよりは確実に安い金額で買えそうな気がするな。この場合は手数料とかどうなります?』


レイティア:『今回はこちらからお願いしている訳ですし、手数料は結構です。アーデンに所在登録前提の方が購入されるので、交渉も円滑に行えると思います。』


ザック:『分かりました。宜しくお願いします。』


レイティア:『それではこれから奴隷商へ行って来ますので、その間に物件の方の手続きをしては如何でしょうか。』


ザック:『そうさせて頂きます。』



その後物件の手続きが終わり、家賃の支払いと所在登録を済ませた。


サリア:『それでは入居予定が7日後という事ですね?』


ザック:『うん、宿屋に料金を払ってしまってるから、それで頼むよ。』


アン:『ねぇサリア、例えば私達が旅に出る時って家賃を数ヶ月分先に払う事って出来るの?』


サリア:『それは一向に構いませんよ?旅に出るご予定があるのでしたら、出発当日でも構いませんので。』



話が一通り終わった頃にレイティアが戻って来た。


レイティア:『お待たせ致しました。まずは結果から申し上げます。奴隷3名で30.000ジルという結論に至りました。内訳としては1人あたり10.000ジルは最低貰わないと、今までの食費と経費で大幅な損益になるという事です。オークションでの落札価格が3名の平均で約9.000ジルでしたので、総合的に判断すれば妥当な結果だと思います。』


ザック:『そうですか、交渉お疲れ様でした。俺としても30.000ジルで3名もの奴隷を購入出来るなら非常に良い結果だと思います。それで購入させて頂きたいのですが、その3名との面会と購入手続きに関しては奴隷商に直接伺えば良いんですかね?』


レイティア:『はい、すでに先方には購入の意志がある場合、購入者が直接伺う事を伝えておりますので。』


アン:『そういう事なら行きましょ。』


ザック:『色々と有り難う御座いました。サリア、物件関係の手続きはもう全部終わったかな?』


サリア:『はい、こちらの手続きは全て完了致しました。後は入居前日に鍵を取りに来て頂ければ結構です。』



その後昼食を取ってから奴隷商へ向かった。


受付嬢:『いらっしゃいませ。本日はどの様なご用件で?』


ザック:『先程商人ギルドで交渉して頂いた件で伺ったんですが。』


受付嬢:『あぁ、3名の件ですね。ご購入頂けるという事で宜しいのでしょうか?』


ザック:『えぇ、そのつもりで参ったのですが、その3名との面会をさせて頂けますでしょうか?』


受付嬢:『畏まりました。こちらへどうぞ。』


2人が通されたのは応接室だった。


受付嬢:『こちらで少々お待ち下さい。』


そう言うと職員は紅茶を置いて去って行った。


アン:『私、奴隷商って初めて来たけど、思ったよりちゃんとしたお店みたいね?』


ザック:『俺だって初めて来たよ。』


アン:『それより私、まさかザックの奴隷と間違えられて無いよね?』


ザック:『大丈夫だろ?奴隷って何か目印的な物って有るんじゃないのか?』


アン:『確か・・・首の後ろに奴隷の紋章を魔法で付けられるって聞いた事があるわね。』


ザック:『なら・・・もしかしたら・・・。』


アン:『やっぱり勘違いされてるかも・・・。ま、別に良いけど。』


程無くして職員らしい女性が入って来た。


セデス:『お待たせ致しました。今回担当させて頂きますセデスと申します。交渉の内容は商人ギルドの方で聞いておられると思います。』


ザック:『はい、3名を30.000ジルでお譲り頂けると聞いております。』


セデス:『それでこちらから幾つか質問させて頂いても宜しいでしょうか?』


ザック:『構いませんよ。』


セデス:『まず今回ご購入頂く3名に関しての用途の確認なんですが。』


ザック:『今回商人ギルドから屋敷を借りる事になりまして、俺達が冒険者として暮らす上で屋敷の管理や掃除等を任せるつもりです。』


セデス:『内容は本人達の希望通りという訳ですね。次に性行為に関する内容なのですが、本人達は了承しております。続いて生活環境に関して、食事と休息を十分与えられるかどうかを聞かせて下さい。』


それを聞いてザックは強い口調で声を荒げた。


ザック:『先に誤解の無い様、明確にさせておきたい事があります!俺達は貴族では有りませんし、奴隷に対しても主従関係によくある行為を強要するつもりは全くありません!あくまでも生活をする上での仲間として考えております!もし本人が望むのであれば、将来的に奴隷の身分から解放し復権を与えようとも考えています!』


アンの表情も不快感をあらわにしていた。


セデス:『た、大変失礼致しました。定例の業務とはいえ、お客様の気分を害してしまった事にお詫び致します。部屋の外で聞いている3名も、お客様の御言葉にさぞ心が晴れた事でしょう。本来我々としても、お客様の様な方に購入して頂く事を望んでおります。しかしながら、奴隷という身分である以上、不当な扱いを受ける者が数多くおりますので、敢えて質問をさせて頂いた事をお許し下さい。』


ザック:『俺も少し感情的になってしまった様です。ご無礼を致しました。』


セデス:『それでは3名を紹介させて頂きましょう。入りなさい!』


セデスが声を掛けると3名の若い女性が入って来た。


セデス:『左からサリー・ジーナ・フェルテです。順番に自己紹介を。』


サリー:『はじまして主様。サリーと申します。年齢は16才、御覧の通り犬人属で御座います。以前は伯爵家の執事を勤めさせて頂きました。今後は主様の手足となって御奉仕させて頂きたく思います。末永く宜しくお願い申し上げます。』


ザック:『そんなに固くならなくても良いよ。宜しくね、サリー。』


ジーナ:『同じく伯爵家で料理人として支えておりましたハーフエルフのジーナと申します。年齢は15才。料理だけでは無く、主様がご満足頂ける様、如何様にでもお申し付け頂ければ御奉仕させて頂きたく思います。』


ザック:『まぁもっと気を楽にしてくれて良いから。宜しくね、ジーナ。』


フェルテ:『同じく以前は伯爵家で伯爵夫人付きのメイドをしておりました猫人属のフェルテと申します。年齢は15才で御座います。今後は誠心誠意、文字通り私の身も心も全て主様に捧げ御奉仕させて頂きたく思います。』


ザック:『いや、そこまで全力で頑張らなくても大丈夫だからな。宜しくね、フェルテ。』


セデス:『全員先程の話を聞いていましたね?こちらのお客様は貴女方の希望を尊重して下さるそうです。』


サリー:『はい、先程のあまりにも勿体無き御言葉に、私共3名は感動し涙を流してしまいました。私共は主様に生涯を捧げ、この度受けたご恩を微力ながら返させて頂きたく存じます。』


見れば3人共涙を流していた。


例え偶然とはいえ、今日ザックが買わなければ、明日にはランクが下がり、低俗奴隷として今より更に安く売られていたそうだ。


真っ当な仕事ををさせても貰えず、ただの欲望の道具として売られる所だったのだ。


その時初めて、ザックは商人ギルドがあれほど積極的に購入を勧めた事の意味を理解した。


セデス:『30.000ジル、確かに頂戴致しました。書類上の手続きも完了しました。』


アン:『ねぇザック、3人を宿屋に連れて行くのよね?』


ザック:『あぁ、だから引っ越しまでは討伐はお休みだ。急遽決まっちゃったからな。』


アン:『一応色々説明が必要だから良いんじゃない?』


セデス:『彼女達の準備が整った様です。』


3名の奴隷を連れて奴隷商を後にする。


帰り際、セデスが改めて礼を言って来た。


セデス:『彼女達を救って頂き感謝します。私も1人の女性として、彼女達が低俗奴隷になるのはとても辛かったのです。』


ザック:『御心配無く。彼女達が生きる喜びを感じられる様に努力します。』




奴隷商から歩いて宿屋に向かう途中、アンに頼んで彼女達と下着を買いに行かせた。


ザックは先に宿屋に戻り、メリアとダイソンに奴隷を購入した事を伝え宿泊代を1週間分支払う。


本来なら3人分になるが、ザックが泊まっている2階はザックとアンの部屋の他にシングルが1部屋、その他はツインルームなので宿代的には2部屋分の支払いとなった。


ダイソンの提案で今夜分の夕食をサービスしてくれた。


ダイソンは若い頃に幼馴染の女性が奴隷に落ちた経験があるそうだ。


ザックが奴隷を買った経緯と奴隷達が今日買われなければ低俗落ちになっていた事を聞いたダイソンが同情していたのだ。


アン:『ザック、支払い終わった?』


ザック:『今済ませたよ。それと君達、こちらが宿の主人ダイソンさんとメリアだ。君達の購入を記念して、今夜の君達の分の食事代をサービスしてくれたからお礼を言ってくれ。』


3人は各々に丁寧に感謝の言葉を述べた。


その後ザックの部屋に全員を集める。


ザック:『とりあえず君達はそこに掛けてくれ。アン、みんなに紅茶を煎れてもらえるかな。』


アン:『ちょっと待っててね。』


ザック:『さて、では始めに誤解の無い様に言っておくが、今日君達を買う事になったのは単なる偶然だ。今日は商人ギルドで借家を借りに行ったんだ。ところが想像以上の豪邸だったんで、使用人の他に執事が急遽必要となった。そこで商人ギルドに相談したらサリーを買う事を勧められた。使用人は元々奴隷を買う予定になっていたんだが、偶然君達3人が同じ奴隷商に売りに出されてた訳だ。』


サリー:『どの様な経緯であったとしても、主様が私達を絶望の淵から救って下さった事は事実に御座います。私達はその偶然を運命と受け取っております。例え今日他の主様が私達を買って下さったとしても、主様ほどに私達を人として見ては頂け無いと理解もしております。』


ザック:『・・・。』


ジーナ:『私達は明日には低俗落ちとなり、己の意に反して恥ずかしめを受ける絶望の淵に有りました。奴隷商にて主様が口にされた御言葉に、私達は歓喜に震え涙しました。これほどの幸運を与えて下さった主様が例え偶然と申され様とも、私達は運命と思い生涯お慕い申し上げます。』


ザック:『・・・・・・。』


フェルテ:『例え偶然であったとしても、私達は主様の元に身を寄せる事を許された幸運に感謝せずにはいられません。これほどまでに心のお優しい主様はそうは居られません。下女よりも下の奴隷という卑しき身分の私達にこれほどのまでの・・・。』


ザック:『ストップ、ストーップ!もうそういうのは良いから!君達普段からそんなに堅苦しい話し方してんの!?もっと普通に話そうよ。あと俺の事は主様とかじゃ無くてザックで良いから!』


アン:『そうよ、さすがにそこまで賛美されたら誰でも退くわよ?貴女達が不幸な境遇でザックに救われたっていうのはもうわかったから。』


ザック:『君達は俺の事を救世主か何かと勘違いしているみたいだけど、俺は君達を奴隷商から買った1人の客だってだけで人助けをしたつもりは無いんだよ。俺は引っ越し先の家の管理を任せる人材が欲しかっただけ!わかったか?』


サリー:『分かりました。ではこれからはザック様とお呼び致します。2人も宜しいですね?』


≪畏まりました。≫


ザック:『では改めて自己紹介をさせてもらうね。俺はザック、ザック・エルベスタだ。さっき紅茶を煎れてくれたのは俺のパートナーのアン、見ての通りエルフ属だ。俺達2人はこの町アーデンのギルド所属の冒険者でギルドランクはブロンズだ。他にも説明する事は色々有るが、それは追々な。新居に移るまでの7日間はこの宿屋に寝泊まりして貰う。朝夕の食事は1階の食堂で全員で食べる。新居に移るまでは特に身の回り世話は必要無いから、俺達の生活習慣に慣れる様にしてくれ。』


サリー:『しかし私達はザック様の奴隷で使用人に御座います。主の御世話役の私達が主と同じ食事や生活をする訳には・・・。』


ザック:『ねぇサリー、俺は奴隷商でも言ったはずだ。君達は一緒に生活をして行く仲間だって。俺は君達にただの奴隷や下女としての生活を望んではいないんだよ。君達がどうしても俺やアンの世話をしたいならしても良い。俺は君達が働くなら給金を払う。君達が人として生きる事が俺の望みだ。これは俺の主としての命令でもある。一緒に同じ食事をして、一緒に寛いで一緒に笑う。君達が今まで支えた主とは違うかも知れないけど、これが君達の今の主なんだ。俺達と一緒に生きて欲しい。良いかな?』


そう言うと3人はその場に泣き崩れた。


大声で泣いた。


今の今まで自分達に掛かっていたリミッターが外れたのだ。


伯爵家という格式の高い家に支えていた彼女達は自我というものを封印していたに違いない。


更に奴隷に落とされ、低俗落ちという恐怖から解放された彼女達はザックに対しても捨てられる恐怖と伯爵家に支えていた頃の心の抑圧を少なからず持っていたはずだ。


普通なら奴隷は人としての幸せは許されない。


だが目の前に居る自分の主はそれを望んでくれた。


その時彼女達は自分の中に封印された女性の感情を強く感じたのだ。


その光景をアンは目を潤ませて微笑み、ザックはホッとした顔で見ていた。


ザック:(彼女達は泣く事も大声で笑う事も、今まで一切許されなかったんだろうな。今は気が済むまで泣かせてやるか。)




彼女達が泣き止むまで待ってから全員で食堂に行った。


食堂ではダイソンが特別に、全員が座れる大きなテーブルを用意してくれていた。


そこでは全員が同じ食事を同じテーブルを囲んで食べた。


その後彼女達の部屋の鍵を預り、ザックの部屋に戻った。


ザック:『えっと、こっちがサリーの部屋の鍵で、こっちがジーナとフェルテの部屋の鍵。これは君達で管理する事。あと君達にこれを渡しておくよ。』


ザックが彼女達に手渡したのは現金である。


普通なら奴隷は主から物を買い与えられる。


だがザックは現金を彼女達に渡す事によって人としての当たり前の生活を習慣付けたかったのだ。


ザック:『このお金は君達が自分の為に遣う事。君達自身の為にだよ!変に気を使って俺の物やアンの物を買わない事!町で食べたい物があったら食べても良いし、服が欲しかったら買っても良い。』


そう言うと3人は受け取れないと言ったが強引に受け取らせた。


3人は申し訳無さそうな顔をしていたが、その内使ってくれるだろう。


3人をいったん部屋に戻し、アンと語り合った。


アン:『お疲れ様、ザック。』


ザック:『ねぇアン、俺って今日頑張ったよね?』


アン:『うん、凄い頑張った。でもあの子達完全にザック崇拝者よね。』


ザック:『そりゃ人生に絶望しかけてた子が救われたらあぁなるわなぁ。』


アン:『それでザックは将来的にあの子達を解放するつもりなの?』


ザック:『落ち着いたらね。アンだってそうするだろ?』


アン:『あの3人ならそうするわね。行き場の無い子だったら逆に私の元に置いた方が良いと思うけど、彼女達はちゃんとした実績があるしね。』


ザック:『アンならそう言うと思ったよ。』


そう言うとアンを優しく抱き締めた。


ザック:『アン、本当にお疲れ様。』




サリーの部屋


サリー:(主様・・・ザック様・・・。奴隷に落とされたあの日。私はすでに人ではなくなったはずなのに。ただでさえ獣人属として生を受けてから自分の生まれを呪ったというのに。どうしてあのお方は・・・。明日目が覚めてまたあの場所に居たら・・・嫌、嫌、低俗落ちは嫌!怖い!ザック様!本当に私はザック様に救って頂けたのですか!?・・・眠るの・・・怖いよぉ・・・。ザック様・・・私の唯一の主様・・・私の真の主様・・・)


サリーは今日の事が現実である事を必死に祈り気を失う様に眠りに落ちた。




ジーナ・フェルテの部屋


フェルテ:『ジーナさん、私達・・・本当に救われたのですね。』


ジーナ:『・・・フェルテさん、私はどうしたら良いのか解りません。あのお方は神です。私にとっての神なのです。私はあのお方が望むなら、それこそどの様な恥ずかしめも喜んで受けるでしょう。おかしな話ですね、奴隷に落ちて初めて誠の主に巡り会えるなんて。』


フェルテ:『私も同じ思いです。ザック様の居られる所こそが私の安住の地なのです。もしザック様の命を狙う物が居たなら、喜んで盾となります。その身に受けた痛みを喜びと感じる事でしょう。』


ジーナ:『私はザック様が奴隷から解放すると仰ってもお断りするつもりです。私の生涯を捧げたいのです。愛されなくとも虐げられようとも、私の命が尽きようとも。』


フェルテ:『共に捧げましょう、私達の全てを。そして祈りましょう、目が覚めたらまたザック様のお側に居る事を。』


ジーナもフェルテも同じ思いだった。


今この時、2人はザックの奴隷になれた事への喜びを噛み締める様に、そして目が覚めたらまたこの喜びを感じられる様に眠りについた。

お読み頂き有り難う御座いました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ