第7話 特訓と告白と。
お読み頂き有り難う御座います。
第7話です。
紅茶の香りがする。
アンが入れてくれた様だ。
身体を起こし背伸びをする。
アン:『あ、起きた?ザックも紅茶飲む?』
ザック:『おはようアン、俺はコーヒーにするよ。』
アン:『あぁ、昨日届いたアレね?』
カップにインスタントコーヒーを入れてお湯を注いで、角砂糖2個とポーションミルクを入れてかき混ぜる。
アン:『それって美味しいの?』
ザック:『一口飲んで見る?』
アンはコーヒーを一口すするとホッとした顔をした。
アン:『独特な風味ね?でも嫌いじゃ無いわ。』
ザック:『向こうで暮らしてた頃は毎朝飲んでいたんだ。』
アン:『そうなんだ。でも私は紅茶の方が好きかも。』
ザック:『そっか、結構好みが分かれるんだよな。』
別に今日の予定を忘れた訳では無い。
宿の朝食を食べてから出発するので、日の出まではのんびり・・・したかったのだが。
≪失礼します!≫
ザック:(来た・・・。)
アン:(来た・・・。)
ザック:『どうぞ。』
≪おはようございます!今日は宜しくお願いします!≫
ザック:『声がデカい!まだ夜明け前だそ?』
アン:『他のお客さんに迷惑じゃない!』
≪・・・すいません。≫
ザック:『とにかく座れよ、アン、紅茶頼める?』
アン:『うん。』
ザック:『昨夜は眠れたか?』
リサ:『はい、とても。』
エミリア:『気持ち良かったです。』
アン:『貴女達ザックに感謝しなさいよ?宿代と食事代はザックが出してくれたんだからね?』
≪はい、感謝しています。≫
ザック:『宿で朝食を食べたら森に行く。俺とアンは好きな様に動いて戦うから、2人はそれに合わせて動いてくれ。』
リサ:『あのう、前衛と後衛のバランスとかはどうしますか?』
ザック:『今回俺はロングソードで前衛に回る、リサは俺のサポートと撹乱。アンは弓で牽制してから遊撃に回る。エミリアはその合間を縫って攻撃魔法を叩き込め。』
(エミリアにはあえて難しい事をやらせた方が良いからな。)
エミリア:『それですと呪文を唱えるタイミングが難しくないですか?』
ザック:『今回は君達に複雑な状況での連携に慣れて貰う必要がある。当然ミスは覚悟しているから、他のメンバーの動きを把握してくれ。それと今日の討伐報酬は4人で等分する。ドロップアイテムが出たら君らの物にしてもらって構わない。』
エミリア:『え!?等分で良いんですか!?ドロップアイテムも!?』
ザック:『あぁ構わない。それと森までの道中で倒す低級は君達だけに任せる。その報酬も君達の物だ。良い条件だろ?』
リサが申し訳無さそうに口を開く。
リサ:『あのぅ・・・それではザック様とアン様の利益が少ないのでは?』
ザック:『仕方無い、ネタバラしをするか・・・。今回俺達が臨時のパーティー募集をしたのは君達の為なんだ。』
≪えぇ~!?≫
アン:『あっ!ザック!それを言ったら駄目じゃない!』
ザック:『良いんだよ。それで君達が自分達で生活が出来る様に、今日はみっちり特訓をさせてもらう。何処かのパーティーに入ったり2人で討伐したりする時に、ちゃんと連携を取って君達だけでも中級の魔物を倒せる様になってもらう。』
リサ:『あの、私達2人だけで中級を倒すのはさすがに危険過ぎます。エミリアは回復魔法を使えますが、森の中で魔力が尽きたら死んでしまいますよ。』
エミリアも続ける。
エミリア:『中級の魔物を相手にするなら、最低でも3人は必要だと思います。魔法属性の違う魔物が居たら攻撃も弱くなってしまいますし・・・。』
ザック:『考え過ぎだ。実際俺とアンはギルドに登録して初めて討伐に行った時にコボルトを倒している。』
≪コ、コボルト!?≫
アン:『本当よ。私達は牽制・攻撃・撹乱・攻撃っていう風に、少ない人数でも連携を取る事で中級を倒せる事を知ったわ。ま、戦闘中にザックがその都度指示してくれた事が勝因だったと思うけどね。』
ザック:『戦闘中はお互いに声を掛け合って、仲間の位置と動きを把握するんだ。自分が無理な時は相手に任せて、互いにフォローしながら戦う様にするんだよ。思うに君達はそれをやっていなかったんじゃないか?』
リサ:『私達は出発前に打ち合わせをして、その段取りのままやっていました。最初に攻撃パターンを決めて置けば、戦闘中はスムーズに戦えると思ってたんです。』
エミリア:『私の様な魔法使いは事前に味方の動きが分からないと強い攻撃魔法を使えません。それに中級の魔物では初級の攻撃魔法が通じるか不安なので使えなかったんです。』
エミリアの発言にザックが反論した。
ザック:『初級の攻撃魔法でトドメをさそうとすればそうなるよ。でも牽制したり撹乱させたりするなら問題無いだろ?もし魔物を倒せる威力の無い魔法しか使えないのなら、敵の注意を引き付けたり、撹乱させる様なサポートに徹すれば良い。ダメージを与える事だけがパーティーの仕事じゃ無いんだ。』
(彼女達は敵を倒す事だけに執着してパーティーの意味を理解していなかったんだな。)
アン:『上手く連携さえ取れれば、魔物をその場に釘付けにする事が出来るわ。それだけでもかなり戦い易くなるはずよ。』
ザック:『そういう事だ。とにかく今日はさっき俺が言った事を踏まえて討伐に当たってもらう。良いな?』
≪はい!≫
食堂で朝食を取る。
食堂でザック達の話を聞いていたダイソンさんが、気を利かせて4人分の弁当を渡してくれた。
全員でお礼を言って出発した。
エミリア:『ザック様、今日は何処の森へ行くんですか?』
ザック:『今日は北の森へ向かう。最近中級の魔物が活発になっているらしいから、良い特訓になるだろう。』
リサ:『北の森ですか!?あそこは複数の魔物が出るという話ですよ!?』
ザック:『だからだよ。メインの魔物を君達でやってくれ、露払いは俺がやるから。』
北の門から平原に出ると低級の魔物が次々に出て来た。
それらを2人は容易く倒している。
確かに経験値がそこそこ高いのだろう、腕前としては動きに無駄はあるが悪くは無い。
ザック:『今から俺とアンの2人で低級を狩るから、ちょっと休みながら見ててくれ。アン、いけるか?』
アン:『良いわよ。』
アンが魔物に弓で牽制し、ザックが側面から背後に回り込む。
ザックが後方から斬り付けると、アンがすかさず側面へ走って回り込み矢を放つ。
魔物が矢に気を取られると、すかさずザックは側面から急所に剣を突き刺す。
すると魔物はそのまま倒れた。
ザック:『俺達だとこんな感じだ。』
アン:『これが基本的な感じね。』
リサとエミリアは呆気にとられていた。
リサ:(え!?この人達本当にブロンズなの!?)
エミリア:(凄い・・・こんな簡単に倒すなんて・・・。)
ザック:『今の動きを覚えてくれとは言わないけど、感覚として覚えてくれれば良いよ。』
2人の様子を見かねてアンが口を開く。
アン:『あぁ、ザックのはあまり参考にならないと思うわよ。この人のスキルはノワール判定だから。』
≪えぇ!?ノワール!?≫
目を見開いてリサが口を開く。
リサ:『それじゃあ私達の参考になんてなる訳無いじゃないですか!』
エミリアも続ける。
エミリア:『お強い訳ですよ!もしかしてアン様も!?』
アン:『いや、私は正真正銘ブロンズよ。』
ザック:『アン、何で言っちゃうんだよ。ハードル上げちゃったじゃんか。』
アン:『だってさすがにあれは駄目でしょ。動きが違い過ぎるじゃない。』
ザック:『あれでも2割程度のスピードだったんだぜ?・・・分かったよ。じゃあ次はのんびり狩るから。』
リサ・エミリア:((2割って・・・。))
次に現れたのは結構大型の低級だった。
アン:『ザック?分かってるわよね?』
ザック:『分かってるよ、それじゃあ牽制してくれ。』
アンが矢を放つのと同時にザックが魔物の正面に走る。
アンが横に走り魔物の側面に矢を放つ。
魔物が向きを変えアンに向き合うと、ザックが側面に回り込み斬り付ける。
魔物が身体をひねってザックに向き合うとアンが更に矢を撃ち込む。
ザックが距離を取り、アンが元の位置に走る。
魔物がザックとの距離を縮めるとアンが矢を放つ。
魔物がアンに向き直ると同時にザックが走り込んで、魔物の首元を目掛けて剣を突き刺す。
ザックはすぐに剣を引き抜き距離を取る。
アンが魔物の頭に矢を撃ち込む。
すかさずザックが走り込んで魔物の喉に剣を突き刺すと、魔物が倒れた。
ザック:『これなら参考になったろう。交互に攻撃を繰り返して、魔物に反撃する隙を与えない戦術だ。』
アン:『普通のブロンズならこんな感じだと思うわ。弓士と魔法使いは攻撃手順が似てるから参考になったんじゃない?』
リサ:(私達と戦い方がまるで違う。目線と動きだけで仲間と会話しているみたい・・・。)
エミリア:(確かにこれなら魔法も使えそう。私が左右に動く事でおとりになれるならリサの負担も少なくなる。)
ザック:『じゃあ次の魔物からまた2人に頼む。今の動きを参考にしてやってみてくれ。』
アン:『焦らず声を掛けながらやってみて。』
≪はい!≫
その後、低級を10体ほど駆らせたが、徐々に連携が出来て来た。
ザック:『どうだ?少しはコツを掴めたか?』
リサ:『はい、これなら大型の魔物とも戦えそうです。』
エミリア:『今までよりも楽に倒せます。魔物の動きを確認しながら攻撃するのにはまだ慣れて居ませんが。』
ザック『よし、ではこれから森へ入るぞ。周囲に気を配りながらゆっくり進むからな。複数の魔物が出ても慌てるなよ。』
≪はい!≫
森に入ると魔物意外に普通の動物も居る。
その動きに敏感になりながら森の中を進んで行く。
ザック:『アン、エルフって森の中で近くに居る魔物とか分かるってのは本当なの?』
アン:『分かるわよ?今この辺には動物しか居ないわね。』
ザック:『なら一番近い魔物の方に向かってくれ。』
アン:『分かったわ。』
森の中を進んでいると、アンが突然立ち止まった。
アン:『この先に中級と低級が居るわ。数は・・・中級が1に低級が3ね。どうする?』
ザック:『行こう。低級は俺が面倒を見るから、アンは2人のフォローを頼む。』
アン:『分かったわ。』
現れたのは中級のワーウルフと低級が3体だった。
ザック:『みんな、段取りは解ってるな?行くぞ!』
アンが中級に牽制して中級を誘き寄せる。
ザックは迂回して低級に斬り掛かると他の低級に次々に突っ込む。
アンとエミリアが中級を誘い、低級から引き離す。
リサは中級の背後に回り込む。
エミリアが火炎魔法で注意を引くと、背後からリサが斬り付ける。
リサはすぐに魔物の側面に回ると更に斬り付ける。
中級がリサに向き直るとエミリアが火炎魔法を放って注意を反らすとリサは距離を取りつつ反対側面から斬り掛かる。
中級がリサに飛び掛かるとエミリアとアンが同時に攻撃して、リサは距離を取る。
中級は再びエミリアに向き直るとリサが走り込んで首に剣を突き刺す。
ザックは低級2体を火炎魔法で片付け、最後の1体を剣で斬り棄てる。
リサが突き刺した剣を抜くと中級が倒れた。
ザック:『みんな無事か?』
全員怪我は無い様だ。
ザック:『アン、そっちはどうだった?』
アン:『私はほとんど手を出して無いわ。彼女達を誉めてあげて。』
ザック:『良くやったな。』
リサ:『エミリアとアン様のアシストに救われました。少し突っ込み過ぎたみたいです。』
エミリア:『リサの攻撃で魔物の動きが止まったので、うまく攻撃を当てる事が出来ました。』
ザック:『今回は上手く行ったが、魔物によっては攻撃をくらっても突っ込んで来る奴もいるから気を付けろよ。』
≪はい!≫
その後、中級を3体倒した後で、アンに安全な場所を探してもらい昼食を取る。
ザック:『少しは中級の動きに慣れて来たか?』
エミリア:『魔物によっては動きが早いので呪文が間に合わない事は時々ありますけど、呪文を省略出来る初級魔法を中心に使えば注意を反らせます。』
リサ:『中級でも連携を密にして戦えば2人でも行けそうです。でもやっぱり私のスピードをもっと上げたいですね。』
アン:『中級相手に4回目でこれなら上出来よ。最後の2体なんて私は何もしなかったんだから。』
リサとエミリアの顔が明るくなる。
ザック:『今日の目標はあと中級を6体。合計10体を倒したら町に戻るぞ。』
その後の2人は目覚ましいほどの成長を見せた。
途中エミリアの魔力が底をついたのでボルトから貰った魔力薬を飲ませた。
リサが最後の中級にトドメを刺す。
2人は肩で息をしながらヘタり込んだ。
ザック:『良くやったな。』
労いの言葉を掛けると、2人に回復魔法を掛けた。
するとエミリアが驚いて口を開く。
エミリア:『え!?なんで!?ザック様は回復魔法も使えるんですか!?』
2人がキョトンとしてしまった。
ザック:『出来ればこれは他の冒険者には内緒にしてくれ。』
帰りは街道に迂回をして町に戻る。
彼女達は中級10体低級40体を倒した事になる。
その内低級8体は俺とアンが倒したのだが、これだけやれれば自分達で食べて行けるだろう。
ザック:『どうだ?これで2人でも中級を倒せる事が分かったろ?』
エミリア:『はい、これなら2人でも森へ行けそうです。』
リサ:『動きの感覚も何とか掴めた気がします。』
アン:『でも過信したらだめよ?動きの読めない魔物だって居るんだから。山に居る魔物なんて数体で来て、こっちを撹乱させるのも居るみたいよ?』
ザック:『面倒臭いなそいつ。』
町に戻るとギルドへ向かう。
ザック:『シルビアさん、お疲れ様です。』
シルビア:『ザックさん、皆さんで森へ?』
ザック:『はい、鑑定をお願いしようと思って。』
シルビア:『畏まりました、ではこちらへ。』
トータルで48.800ジルになった。
ザック:『はいこれ、君達の討伐報酬ね。』
リサ:『あの、こんなに貰って宜しいのですか?』
ザック:『だってそういう約束だったろ?』
エミリア:『私達を訓練して頂いたのに報酬までこんなに貰う訳には・・・。』
アン:『何言ってるのよ?貴女達、今晩の食費も無かったんでしょ?これだけ有れば部屋か借家を借りられるんじゃない?』
ザック:『そうだな。せっかく2人共可愛いのに、風呂にも入れず野宿なんかしてたら男も寄り付かなくなるしな。』
≪っ!!・・・。≫
ザック:『ん?どうした?。』
2人がモジモジしている。
アン:『ザックが可愛いって言ったからでしょ?』
2人が恥ずかしそうにして口を開く。
リサ:『ちゃんと部屋を借りて、お風呂に入って綺麗にします。わ、私で宜しければ、その・・・いつでも御相手致しますので・・・経験は有りませんが!。』
エミリア:『わ、私も、経験は無いですけど!』
ザック:『なななな、何言ってんだお前ら!!そんな意味で言ったんじゃ無ぇよ!!』
アン:『はいはい、それじゃあ貴女達、これからは自分達で頑張りなさい。』
ザック:『臨時パーティーはこれにて解散だ。あとは2人で何とかしろよ?』
≪色々有り難う御座いました!≫
宿屋に戻る。
ザック:『何かドっと疲れたな・・・。』
アン:『ザック、あの2人とパーティー続けてたらウハウハなハーレムだったんじゃないの?』
ザック:『アンみたいな娘が沢山居れば最高のハーレムなんだけどな?』
アン:『・・・ザックは、私が良いの?』
ザック:(やべぇ・・・抱きつきてぇ・・・。)
ザック:『さぁ・・・どうだろうね?』
アン:『ズ~ル~イ~!!』
アンが両手でザックの胸をポカポカ叩く。
たまらずそっと抱き寄せる。
(っ!!)
ザック:『アン、今日は本当にお疲れ様。』
アン:『うん・・・頑張った・・・最高のご褒美貰っちゃった・・・。』
ザックはアンの気持ちを理解している。
今は全部を受け止める事は出来ないが、彼女を少しでも安心させたいと思っていた。
交代で風呂に入り、2人で食堂に行く。
食事の前にダイソンへ弁当の礼を言いテーブルに着く。
アン:『そう言えば、あの2人って今晩は他の宿屋に泊まったのかしら?』
ザック:『多分そうじゃ無いかな?』
アン:『ねぇザック、部屋とか借家を借りようとは思わないの?』
ザック:『う~ん、部屋か・・・。』
(これからこの町を拠点にして、色んな町に行くなら必要かな?まぁあと一月はこの宿屋に代金払ってるから、探すにしてもまだしばらくは良いかな?)
ザック:『借りるのは良いとして、留守にする事が多いから管理を委せる人が必要かもね。』
アン:『そうよね。この先ずっとこの町の周辺ばかりを討伐するのもねぇ・・・。ねぇザック、部屋を借りたら旅に出てみない?』
ザック:『旅かぁ、それは構わないけど、行きたい所でもあるの?』
アン:『王都クレアよ。』
ザック:『王都まではどのくらい掛かるの?』
アン:『そうねぇ、大体10日かしら?』
ザック:『結構あるね。その間に宿屋のある町は結構あるの?』
アン:『後半は多いみたいだけど隣のランスから先は少ないみたい。確かランスから王都まで馬車が出てたはずだけど・・・。』
アーデンの北西に位置するランスは、西南大陸で2番目の規模を誇る。
アーデンもランスからの移民が作った町で、町の構造もランスの町を模した形で作られた。
ザック:『そうなると、とりあえずはランスに行く事からだな。』
部屋に戻り紅茶を2人で飲む。
どうやらアンは頭の中が旅の事でいっぱいな様だ。
ザック:『アンはアーデンまでどうやって来たの?』
アン:『私は村を出た後、近くの町からランスに行く荷馬車に乗せて貰ったの。ランスのギルドに所属している冒険者が乗っていたから結構安全に来れたわ。』
ザック:『そうなんだ。アンが居た村にも一度行ってみたいな。』
アン:『そうね、見てもらいたいな。でも普通に森の中にあるエルフの集落よ?私はむしろザックの住んでた町が見たいわ。あの箱に入ってる様な物が、他にももっとたくさん有るんでしょ?』
ザック:『そ、そうだね。』
(どうする?本当の事を話すべきかな?でも本当の事を知ったらアンは今までと同じ様に接してくれるだろうか・・・。)
ザック:『アン、ちょっと真面目な話があるんだ。』
部屋に戻って話をする事にした。
アン:『なに?どうしたの?あらたまって。』
スマホを出して日本の町を検索し、写真を画面に出した。
ザック:『これを見て欲しいんだ。』
アン:『これって昨日届いた魔道具?』
ザック:『ここに映っている風景が見える?』
アン:『これ風景なんだ。ずいぶん変わった町ね。』
ザック:『・・・これが俺の故郷だ。』
アン:『ここが・・・ザックの故郷。』
ザック:『本当はこれ魔道具じゃ無いんだ。多分神器だと思う。』
アン:『・・・神器!?どういう事?何でザックに神器が送られて来るの?』
ザック:『これから順に説明するよ。』
ザックはアンに自分の事を全て話した。
異世界で事故に会って死んだ事、神様からの使徒としてこの世界に転生した事、自分の能力が神様から与えられた事、神託が降りて使命を果たしている事、送られて来た物が自分が居た世界の物だという事だ。
初めは冗談だと思って聞いていたアンは、次第に話の内容と自分が体験した事が合致している事に気付き、それが真実である事を認めざるを経ないのであった。
『信じられないと思うだろうけど全て事実だ。俺はもう向こうの世界には帰れない。向こうで俺は死んで居るんだ。』
『・・・ザックは・・・どうしたいの?』
『俺はもうこの世界の人間だ。神様が俺にこの世界で生きる事を許してくれたんだ。だから俺はこの世界で生きて死んで行く。本当はこんな事をこっちの世界の人に話してはいけないんだと思う。でもこれ以上アンを騙す様な事は出来ない!・・・こんな俺とでも一緒にパートナーとして生きてくれるかな?』
アン:『ゴメンね・・・。』
ザック:『・・・。』
アン:『・・・ゴメンね。辛かったよね・・・ずっと一人て抱えて生きてたんだよね。なのに私は貴方に甘えてばっかりで・・・。』
アンは泣いていた。
ザックが自分の素性を隠していた事に怒るのでは無く、ザックが背負った運命を知った今、彼が抱えていたものを気付かずに甘えていた自分を責めたのだ。
ザック:『何でアンが自分を責めるの?おかしいよ?俺がアンを騙していたのに、何でアンが泣く必要があるの?』
アン:『だって、だって、私ザックに貰ってばっかりで、何にもしてあげられなくって、それで、それで・・・』
ザック:『そんな事無い!俺はアンにいっぱい貰ってる!優しさも!楽しさも!安らぎも!俺一人だけだったらこんなにこの世界を好きになれなかった!・・・アンが居るからこの世界を守りたいって思えるんだ。』
アン:『・・・ほんと?』
ザック:『うん、ほんと。』
アン:『じゃあ・・・ぎゅってして・・・。』
ザック:『うん・・・。』
ザックはアンをきつく抱き締めた。
『へへっ今日・・・2回もぎゅってしてもらっちゃった♪』
お読み頂き有り難う御座いました。




