第67話 飛行兵器とノワールと。
お読み頂き有り難う御座います。
第67話です。
ファルネリア皇宮を出発して二日目、ザック達はファルネリア西武にあるエルセアという地区に居た。
この辺りには大きな宿場町があり、その先にはブレスデンとの国境がある。
レーベンスは高速船を使ってファルネリアに来たので早く来れたが、陸路ではその数倍は時間が掛かる。
モービィがあるからこそこの時間で国境近くまで来れたが、馬車ならば一週間は掛かる距離だ。
エルシアはモービィのスピードとキャラバンの快適さに驚いていた。
ザックが持っているキャラバンよりも少し大きめだが、その分中は広いのでゆったり過ごせる。
モービィは宿場町の少し手前で止まった。
ザック:『お疲れ様、少し休みなよ。』
メル:『有り難う御座います。』
エルシア:『皆さん凄いですね。こんなに早く国境近くまで来れるとは思いませんでした。』
メル:『まぁ二人で交代しながら運転していますしね。』
ローラ:『普段から試験運転もしていますしね。』
ザック:『それに今回はノルバーン帝国政府がモービィとキャラバンを提供して下さったのも大きいですね。さすがにアーデリアから持って来る訳にもいきませんでしたから。』
エルシア:『という事は陛下もお持ちなのですか!?』
ザック:『えぇ、私のは神様が送って下さった物なので、帝国製の物とは少し違いますが。』
エルシア:『神がですって!?まさか他にも何か贈られていらっしゃるのですか!?』
ザック:『実を言いますとモービィはアーデリアでも量産体制に入るんですがね。神様からは様々な物を贈られましたよ?ほら、この武器なんかもそうですし。』
ザックはエルシアに銃を見せた。
エルシア:『これはまた精巧な作りですね。これが武器なんですか?』
ザック:『陛下は帝国の軍艦に付いている機銃を御覧になられましたよね?あれの小型の物と考えて頂いて結構です。俺が居た元の世界にはあった物なんですけどね。』
エルシア:『陛下はノワールスキルをお持ちですよね?何故その様な武器の携帯を?』
ザック:『理由は幾つかありますが、一番の理由は手っ取り早いからですね。魔法だと場所や相手によって属性や威力を考慮する必要がありますが、これなら相手に向けて撃つだけで済みますから。』
エルシア:『なるほど、それはこちらの世界でも作れる物なのですか?』
ザック:『もっと単純な物なら作れますが、同じ構造の物は難しいと思います。でももし俺が作るのなら、弾丸の代わりに魔法の術式を使って相手にダメージをあたえる物を作りますね。』
エルシア:『それはどうしてですか?』
ザック:『この拳銃という武器は、火薬の力によって鉛の弾を打ち出す武器なんです。確かに威力もあるし、襲って来る相手を倒すのには向いていますが、狙う場所によっては相手を一発で殺してしまう物なんですよ。魔法ならその様な事にはならないと思うんです。』
エルシア:『実に陛下らしい考え方だと思います。もしそれが実現した暁には、我が国へ輸出して頂きたいものです。』
ザック:『検討させて頂きましょう。ところで北部の軍事衝突に関して、実はシュレーデンが飛行兵器を開発している可能性があるとの情報がありましてね。』
エルシア:『飛行兵器・・・ですか。』
ザック:『陛下も想像出来るとは思いますが、飛行兵器とは空から広範囲に渡る無差別攻撃が可能なとても危険な物です。正直言ってこの世界において、飛行兵器は過ぎた兵器なのです。』
エルシア:『えぇ、私としてもその様な物は作られるべきでは無いと思います。』
ザック:『それを踏まえて、陛下には知って頂きたい事があるのです。実は神より俺の元に、飛行兵器が贈られたのです。』
エルシア:『なんですって!?それは本当なのですか!?』
ザック:『本当です。そこで陛下には、今からその飛行兵器を御覧頂きたいと思っています。』
エルシア:『まさかこちらにあるのですか!?』
ザック:『いいえ、転移魔法でアーデリアにお連れします。』
エルシア:『・・・宜しい。見せて頂きましょう。』
ザックはエルシアと2回に分けてアーデリアへ転移した。
距離が長過ぎるので1回では魔力消費が激しいためだ。
皇宮の地下格納庫に着くと、エルシアの顔色が変わった。
ザックは魔力薬を飲むと、エルシアに話し始めた。
ザック:『これが神より贈られた飛行兵器です。その気になればこれ一機で世界を相手に戦えるだけの破壊力があります。贈られた時は何故神がこんな物を送って来たのか理解が出来ませんでした。』
エルシア:『そうでしょうね。私も理解が出来ませんもの。それで陛下は何故私にこれを見せる気になったのですか?』
ザック:『それは陛下に俺や他に素性を知る方々と同調して頂きたいからです。』
エルシア:『陛下はこれをどうしようと?』
ザック:『レデンティアとノルバーンの両陛下には話しましたが、俺はアーデリア皇王としてでは無く、使徒として以外これを使う気はありません。ですが今回の西北北部の軍事衝突に関して、シュレーデンが開発しているという噂の飛行兵器だけはどうしても破壊しなければなりません。そこでこの機体を国籍不明機として俺が所有する事を了承して欲しいのです。』
エルシア:『了承するもなにも、今こうしてここにある以上、私が反対したとしても貴方はこれをお使いになられるのでしょう?』
ザック:『いいえ、もし陛下が反対されるならば、この飛行兵器は即解体致しましょう。勿論二度と組み上げられないほどにね。ですが今後同じ様に飛行兵器を開発しようとする国や、緊急事態が発生したとしても迅速な対応は出来なくなってしまいますがね。』
エルシア:『緊急事態とは?まさか魔王の復活とでも仰るおつもりですか?』
ザック:『あえて言うならば未曾有の事態です。何も問題が起きる原因は人によるものだけではありませんし、たとえ神託が出たとしても今回の様に海路や陸路で行く事になるだけですがね。何処かの国が滅びる危機に貧していたとしても、間に合う保証も無くなるとは思いますが。』
エルシア:『・・・負けましたわ。貴方は神に選ばれし者。そんな貴方に神が託した物なのなら何故反対など出来ましょうか。今後どの様な事態が発生するかも分かりませんしね。』
ザック:『意地の悪い物言いをしてすいませんでした。俺自身こんな物を使う機会が無いに越した事は無いと思うのです。しかし今回の軍事衝突の一件で、一刻を争う事態に迅速な対応が必要な事もあるのでは無いかと考えたのです。』
エルシア:『いや、私も分かってはいるのです。大いなる脅威には、それに立ち向かう為の力が必要だと。しかし大きな力を持つ者は、それだけで世界の脅威となってしまう。私は貴方が使徒様であったとしても、一国の王がその大いなる力を持つ事に不安を感じていたのです。ですが陛下が仰る通り、一刻を争う事態には迅速な対応が不可欠です。陛下、私は陛下を信じます。今後どの様な事態になったとしても。』
その後二人はみんなの元に戻った。
ザックにとっては西北大陸において後ろ楯となってくれる国家が出来たのはかなり大きい。
今後ノルバーンやレデンティアとの連携が取りやすくなる上に、将来的には大陸間で同盟が組める可能性もあるのだ。
ブレスデン国境を越えてしばらく進むと大きな町に入った。
エルシアによれば、この町は王国時代にファルネリアとの物流拠点となっていた町なんだそうだ。
ファルネリアはブレスデンが王国の頃に、両国の国境に近い町に物流拠点を作る事で、必要な量の物資を円滑に受け渡す様に協定を結んでいたそうだ。
ブレスデンが民主化した事でその協定は無くなったが、物流拠点だった町は再開発されて大きな宿場町になったという。
ブレスデン側のこの町は、今では組織によって運営されているとの事だ。
よく見るとそこら中に怪しい連中が居る。
ザック:『治安が良く無いというのは本当らしいね。』
アン:『あまり関わり合いたく無い連中である事は確かね。』
エルシア:『あの者達はレーベンスの組織ではありませんね。』
ザック:『分かるんですか?』
エルシア:『えぇ、レーベンスの組織は通称【赤の盾】と呼ばれている組織です。組織の者達は左腕に赤いバンダナを結んでいるので直ぐに分かります。』
アン:『エルシア陛下、ブレスデンはどうしてこんなに民間の犯罪組織を野放しにしているのですか?』
エルシア:『レーベンスが国の実権を握って政府を動かしているからです。ブレスデンにある6つの組織のうち、4つの組織はレーベンスの傘下にあります。残りの2つは王国時代に騎士団だった者達による組織です。』
アン:『王国の騎士団が!?』
ザック:『おそらくわざと2つの組織に分けられたんだろうね。』
エルシア:『陛下の仰る通りです。革命後に騎士団は解体され、その者達は王国再建を願い組織を作ろうとしましたが、レーベンスをはじめとする革命家達によってその勢力を二分されたのです。』
ザック:『ある意味政府は騎士団達を人質に取られた形になったんだろう。本来なら警察組織として動く筈だったんだろうしね。だからこそ組織を容認せざるを得なかったんだ。』
アン:『酷い話ね。それでも革命を起こした意味ってあったのかな?』
ザック:『ブレスデンの国民が税の徴収に苦しんでいたのなら、意味はあったんだろうと思う。でも革命の後で悪が蔓延る世の中になってしまった事が、ブレスデンにとっての不幸だったんだよ。』
エルシア:『だからこそ私は、ブレスデンを有るべき姿の国にする必要があると思っています。レーベンスの様な悪党だけが徳をする事の無い国に。』
エルシアが言った言葉には、ブレスデンを新たな国家として生まれ変わらせようという覚悟が感じられた。
ザック達がブレスデンの首都に到着し、政府との三国会談を行った翌日、エルシアとザックの指揮の元で暫定の新政府が発足され、新たな法整備を行う運びとなった。
当面の間、ブレスデンはファルネリアの傘下国として暫定政府の元に運営され、国家政府による警察組織が作られた。
ブレスデンに到着してから二日後、暫定の警察組織が正式に稼働し始めた。
自警団は解散となり、民間の警備組織として商人ギルドの管轄となる。
首都は突然の政策と法改正により混乱するかと思われたが、各組織の権限が無くなった事により、思った以上に平穏な様子であった。
ザック達はシュレーデンに関する情報を探る為に町での聴き込みを開始した。
有力な情報こそ少ないが、シュレーデンがどの様な国なのかは少しずつ分かって来た。
そんな時、突然一人の女が声を掛けて来た。
女:『ちょっとアンタ達、用心棒はいらないかい?』
ザック:『悪いが間に合ってるよ。』
女:『か弱そうな女の子をそんなに連れてたら、いつ狙われてもおかしく無いぜ?』
ザック:『こう見えて俺達は冒険者だ。それなりの修羅場も潜って来てるよ。』
女:『ほう?おたくのランクは?』
ザック:『ゴールドだ。』
女:『へぇ・・・ゴールドねぇ。スキルは?』
ザック:『随分と質問が多いんだな?俺のスキルを聞いてどうするんだよ?』
女:『ちょいと聞いた話だが、今この国にアーデリアとかいう辺境国の国王が来てるらしい。そいつには四人の取り巻きが金魚の糞みたいにくっ付いてるって話だ。』
ザック:『それで?俺達と何の関係があるんだよ?』
女:『もしアンタがその国王だってんなら、アタシは勝負がしたいのさ。ノワールスキルホルダーとしてね。』
ザック:(この女が例のノワールか!?)
ザック:『勝負?』
女:『あぁ、アーデリアの王様はノワールスキルホルダーって話じゃないか?世界に数人しか居ないっていうノワールが、せっかくこの国に来てるんだ。どっちが上かを試す良い機会だろ?』
ザック:『それを試してどうしたいんだ?』
女:『アタシよりも強ければ、アタシはソイツに付き従う。もしアタシより弱ければ、アタシはそいつを殺す。ノワールの権威を守る為にね。』
ザック:『そんなに権威が大事かい?単にスキルが高いだけの話だろ?』
女:『アンタは分かって無いねぇ。ノワールスキルホルダーが世界に数人しか居ないのは、ノワールスキルを持つ奴に世界を仕切る権利があるからさ。アタシがこんな所で甘んじているのは、単に力で金を稼げるからさ。あの男が捕まって無職になっちまったが、ある程度稼いだしそろそろ他に行こうと思った矢先にアーデリアの王が来たんだ。こんな絶好の機会は無いだろ?』
ザック:『君は何か勘違いをしているね。世界はそこに暮らす者達のものだ。別にスキルによる優劣は関係無い。世界を手に入れたとしても、スキルだけで人々が平和に暮らせる環境を作る事は出来ない。』
女:『正論だな。アンタただの冒険者じゃ無ぇな?そうか、て事はやっぱりアンタがエルベスタとか言う国王だな?アタシはフリージア。かつてこの国の王女だったあばづれ女の孫娘だ。』
ザック:『あばづれって・・・ん?君は王族なのか!?ならばこんな馬鹿げた事は止すんだ!王族の血を汚す事になるぞ!』
フリージア:『何が王族だ!国一つ束ねられない王家なんか滅んで当然だ!聞いた話じゃアンタは成り上がりの国王なんだろ?なら今すぐアタシと勝負しな!』
ザック:『仕方無ぇなぁ・・・分かったよ。まぁ既に没落した王家だしな。だが勘違いするなよ?俺は世界の王になる気も無ければ君に殺されるつもりも無い。そしてこのスキルはこんな事の為に使うべきでは無い。』
フリージア:『何を綺麗事をつらつらと・・・。アンタは神の使いにでもなったつもりかよ?』
ザック:『ならもうお喋りは良いだろ?さぁ始めようか。』
ザックはこの戦いの結果は初めから分かっていた。
ザックのスキルは、他の者のノワールとはレベルが違い過ぎるのだ。
本来のノワールスキルはフリージアのレベルなのだろうが、神より与えられたチート能力は総てにおいて規格外なのだ。
フリージアは必死に剣や魔法で様々な攻撃を繰り出したが、ザックは涼しい顔で交わしながら的確にフリージアの動きを封じていく。
周囲の者達から見ると目にも止まらぬ速さの攻撃に見えるが、ザックから見ればまるで子供の喧嘩だ。
遂にフリージアが立てなくなると、ザックは短剣をフリージアに向けて見下ろした。
フリージア:『・・・同じスキルで何でこうも違う?涼しい顔しやがって・・・。』
ザック:『簡単だよ。同じじゃ無いからさ。』
フリージア:『バカな・・・同じじゃ・・・無い?』
ザック:『そう。たとえスキルの判定がノワールだからと言って、能力そのものが同じとは限らない。』
ザックは記憶の指輪を可視にしてフリージアに見せた。
指輪が映し出したそれは、フリージアの持つ能力とは桁違いのものだった。
剣術・格闘・弓術はもちろん、俊敏さ・力・器用さ、魔術も魔力も想像を超える程の数値なのだ。
更には見た事も聞いた事も無いスキルまでがズラリと並んでいる。
フリージアは指輪が映し出した内容を見ると呆然とし、その後直ぐにその場で大の字に寝転がり大笑いし始めた。
フリージア:『ハハハハッ、そいつは無理な訳だ、無理無理、勝てる筈が無ぇわ。』
フリージアはやっとの事で立ち上がると、ゆっくりとザックに抱き着き耳元で言った。
フリージア:『これでアタシはアンタのものだ。これからアタシはアンタの剣にでも何にでもなるよ。よろしくな、アタシの王様。』
アン達は最初のうちこそ警戒していたが、世界で数人しか居ないノワールである事もあり、少しずつフリージアに馴染んで行った。
その後数日が経過し、ブレスデンの暫定政府が機能し始めると、ザック達はブレスデンの北西に位置するラムサス共和国へ向けて出発する日がやって来た。
エルシア:『暫定政府発足への御助力感謝致します。』
ザック:『いいえ、俺は皆さんより少しばかり民主国家というものを知っていただけですから。』
エルシア:『この先何かありましたら、いつでもファルネリアを頼って下さい。皆様の御武運を祈っております。』
ザック:『有り難う御座います。事が済みましたら報告に伺いますので。』
こうしてザック達は、一路ラムサス共和国に向けて旅立った。
お読み頂き有り難う御座いました。




