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神の使徒になりました。  作者: KEMURINEKO
第3章 皇王の務め。
61/77

第60話 休暇とファクトリーと。

お読み頂き有り難う御座います。


第60話です。

東部視察から帰って1週間が経った。


かねてから開発が進んでいたモービィは既に製品レベルに達している。


また冷蔵庫や製氷機もいつ売り出しても良い所まで出来上がった。


飛行機の方は組み立ての最終段階だが、動力系や操作系のテストも残っている。


組み立てに時間が掛かっているのは、帝国のファクトリーへのモービィの披露の為、一時的に作業を中止していたからである。


ステラに事情を話すかどうかは、今後の状況を見てからにする事になった。


西北大陸に関する情報も順次入っており、ベルクレア・エルベラとの定期的な首脳会談も行っている。


セディには本人が気になっていた自分の専用機を見せた。


彼女は神様にディテールに関してかなり注文を入れていたらしい。


仕上がりには満足な様だ。


皇宮では東部視察の結果や今後の課題などの打ち合わせを進めるなど、仕事もある程度済ませたので、住宅街にある別邸でしばらくのんびり過ごす事にした。


建物の造りや部屋の間取りなど、以前暮らしていた屋敷と同じにしてあるので少し懐かしく感じる。


普段は宮廷料理長をやっているジーナやメイド長 を勤めるフェルテとノエル、そして執事長のサリーも久々に屋敷でのんびりする事になった。


サリー:『この感じ久しぶりですね。』


フェルテ:『まさか、またこんな風にのんびり出来るとは思いませんでした。』


ジーナ:『建国からずっと忙しかったですもんね。』


ノエル:『初めて御屋敷に来た時の事を思い出しますね。』


もちろんパーティーメンバー達も一緒だ。


アン:『これこれ!やっぱりこの感じよねぇ。お城も良いけど、こっちの方が落ち着くわ。』


メル:『私も御屋敷の方が落ち着きます。』


ローラ:『私もです。やっぱりこの感じが一番好きですぅ。』


セディ:『噂には聞いてたけど、本当に良い御屋敷ね。みんなが和むのも分かる気がするわ。』


セディはこっちの世界に来て日が浅い上に、便利な現代社会に慣れ切っている事もあり、こっちの世界での一般人の生活は大変だっただろう。


ザックはセディが暮らし易い様に配慮して、あえてしばらくの間屋敷での生活をする事にしたのだ。


リアス:『ザック様、私も休暇を頂いて良かったんですか?』


ザック:『良いに決まってるだろ?ある意味建国から一番働いてるのはリアスなんだから。』


アン:『そうよねぇ。リアスが休んでるのって見た事が無い気がするわ。』


リアス:『私は自分の好きな事をやらせて貰えてるので満足してますよ?仕事にしてもスケジュールは十分に頂いてますしね。』


セディ:『リアスさんて科学分野の開発者なのよね?』


リアス:『はい、ザック様のお陰で新鮮な発想の開発をさせて貰えるので新しい発見ばかりです。セディさんもザック様と同じ世界から来られたそうですね?』


セディ:『うん、でも国は違うのよ。陛下の居た国は最先端技術の塊みたいな国だけど、私の居た国は少し古い文化を大事にする風習があったのよね。』


ザック:『いや、最先端技術の塊なのは首都圏だけだよ。俺が居た地方都市は結構不便だったしね。』


リアス:『やっぱり世界が違っても、地方と首都圏では結構違いがあるんですねぇ。』


セディ:『全然違うわね。私は一応都会に住んでたけど、親戚の家なんて買い物に行くのに片道車で1時間も掛かるのよ?』


アン:『車って確かモービィみたいな乗り物なのよね?前にザックが話してくれたけど。』


セディ:『そうよ。結構スピードが出る乗り物なんだけど、向こうの田舎って洒落にならないぐらい何も無いのよ。だからお店で大量に買い物をして、家の保管庫や冷蔵庫に入れて週に一度の買い物で済ませたりするの。』


メル:『それは結構不便ですねぇ。まぁこっちの小さな町や村なんかだと保存の利く物を家庭で作ったりしますけど。』


ローラ:『山間部や平原地帯の村なんかはそうですね。少し大きな町とかならその日の物を買う事は出来ますけど。』


セディ:『私達の世界は基本的に出来合いの物を買う習慣があったからねぇ。こっちの世界みたいに家庭で保存食を作る事は少なかったわ。』


このやり取りを聞いて、ジーナがセディに質問した。


ジーナ:『セディ様、ザック様に送って来られた調味料や食材などは、丁寧に包装されたものが多いんですが、これはどうしてなんですか?』


セディ:『あぁ、それは食品工場で作られた製品だからよ。こっちだとそういう概念は無いみたいだけど、向こうでは工場で加工食品を長持ちさせる為に密封包装する事が多いの。』


ジーナ:『え?工場で作るんですか?。随分手間を掛けてるのは分かるのですが。』


ザック:『こっちと違って作る会社も多いからね。同じ店で色んな会社の商品が並ぶから、会社のブランド名や原材料、あとは成分なんかを明記してあるんだよ。まぁ法律で明記する事が決まってるんだけどね。』


セディ:『安全に食べられる様に明記するのよね。そう言えば日本の法律って厳しいですよねぇ。それにイギリスのより数倍美味しいし・・・。』


サリー:『この国で食品工場はお作りにならないんですか?』


ザック:『ん~難しいんじゃないかな?機械の工場とかと違って、色々と条件や制約もあるからね。それに農作物や魚介類なんかの大量確保が出来ないと工場が停まっちゃうだろ?』


やはり向こうの世界から送られて来た食品に関する興味が高い様だ。


ザックとしてはあまり向こうの食品に頼る生活を続けない方が良いと考えていた。


もちろん便利で手軽に美味しい物を食べられるのは有り難いのだが、いつまでも神様を当てにするのも気が退けるのだ。


それはジーナも感じていた様で、最近はこの世界で手に入るハーブや調味料を駆使して、新たな香辛料や隠し味を産み出していた。


農家も最近では穀物の加工を独自で行う様になっていた。


元々パンを作る為に麦等の栽培は行われていたが、最近ではその品種や種類毎に加工の仕方を変えている。


少しずつではあるが、近代的な農業に変わりつつあるのだ。


ザックがもたらした未来的な食文化は、確実にこの世界に影響を与えている事になる。


ザック当人としては、その状況に少し不安も感じていたのだ。



数日後、ザックとアンは久しぶりに冒険者ギルドに向かった。


カリン:『あら陛下、お久しぶりですね。』


ザック:『お久しぶりです。カリンさんまで陛下って呼ぶのやめて下さいよ。』


カリン:『何言ってるんですか、皇王陛下を名前で呼べる訳無いじゃないですか。それで今日はどの様な用件で?』


ザック:『今日は公用で来た訳じゃありませんよ。最近のクエストの状況なんかが少し気になりましてね。』


カリン:『そうですねぇ、最近だと南西にある森に出来たダンジョンの調査クエストがメインですね。まだ2階層までしか調査が出来ていませんが、シルバーの冒険者達がかなり潜っていますよ?』


ザック達が東部視察に向かってからダンジョンが発見され、急遽調査クエストが出たそうだ。


アーデンでは平原や森の魔物討伐のクエストがメインだったので、見返りの大きいダンジョンのクエストに希望者が殺到しているそうだ。


アン:『ダンジョンって結構お宝があるって本当なんですか?』


カリン:『そうですねぇ、ドロップアイテムが比較的多いのと、階層のボスを倒すとお宝が出現するらしいです。階層のボスは倒されると一定期間は出現しませんが、復活するとまたお宝が出ると言われていますね。』


ダンジョンの攻略はギルドとしても収入を大きく左右するため、そのダンジョンの規模はそこそこ大きい方が望ましい。


しかし過剰に大きなダンジョンは上級の魔物が住み着くので、冒険者にはかなりの危険が付きまとう事になる。


ザック:『その話だと結構大きなダンジョンみたいですけど、2階層までで中級以上の魔物はどのくらい出たんですか?』


カリン:『まだ中級レベルはボスだけですね。なので一応シルバーが2人以上のパーティーしか調査クエストに参加出来ない様にしているんですよ。』


アン:『その方が良いでしょうね。それで今は何組のパーティーがクエストに参加してるんですか?』


カリン:『このギルドだと今は10組のパーティーが参加していますね。リースからも何組かのパーティーが参加してるみたいですよ?』


ザック:『案外リサ達も参加してたりして?』


アン:『あぁ、多分してるんじゃない?あの娘達ってリースじゃそれなりに名前が知られてるんでしょ?』


カリン:『リサさんて、以前アーデンギルドに所属していた剣士の方ですよね?魔法使いの娘とペアだったのを覚えています。』


ザック:『えぇ、リースに移ってからはかなり力もつけたみたいで、リースでも結構有名な冒険者みたいですよ。』


アン:『リサ達がこっちに居た頃に、私とザックで少し訓練してあげたんですよ。色々問題のある娘達だったので・・・。』


カリン:『まぁ確かに彼女達は色々と問題が多かったですね・・・そうですか、ザックさん達が訓練してあげたんですね・・・。ん?名簿によると彼女達は最近4人でパーティーを組んでるみたいですね。』


アン:『へぇ、あれからまた1人増えたのね?』


ザック:『まぁ確かに4人の方が連携は取りやすいだろうしな。それであの2人はもうシルバーになったんですか?』


カリン:『えぇ、少し前にシルバーに昇格して、【アルト・フェアリーズ】というネームドパーティーになったみたいですね。』


アン:『ふぅ~ん、結構ちゃんとやってるのねぇ。』


ザック:『何にせよ元気そうで良かったじゃないか。ところでカリンさん、そのダンジョンなんですが、俺達がクエストに参加しても良いんですかね?』


カリン:『私としては大歓迎なのですが、一応国の王が参加するとなると色々と検討しないといけないんですよ。陛下達の場合は特例での冒険者なので、あまり予想のつかないクエストは遠慮して頂く事もあるんです。』


ザック:『やっぱりそうか・・・。例えばの話、神託が出てダンジョンに行く必要がある場合はカリンさんに一言断る事で行けたりしませんか?』


カリン:『その可能性があるなら、私の権限で行かせる事は可能です。陛下が使徒様である事は存じておりますし、何より神様の御意志で有るならば協力させて頂きます。』


ザック:『それを聞いて安心しました。何か有りましたら連絡させて頂きます。』


屋敷への道中、アンはザックに不安そうに尋ねた。


アン:『ねぇザック、さっき神託って言ってたけど、ダンジョンに何か不安要素でもあるの?』


ザック:『以前神託が出てからずっと音沙汰が無かっただろ?もしかすると、そろそろ何か起こるんじゃないかって気がするんだよ。西北大陸の件や帝国の兵器の件に関しては、世界の各国が事情を共有しているだろ?でもそれらには魔族や魔王の話は絡んで無い。万が一ダンジョンの規模が想像を超える大きさだった場合、そこに魔族が住み着く危険性だってあるんだ。』


アン:『確かに魔族が絡むと今後の不安要素も増えるわね。でも今の所はほとんどが低級の魔物なんでしょ?』


ザック:『でもクエストが進めば敵も強くなる。深層に行くほどね。そうなれば魔物の強さを超えた存在が深層に居る可能性も出て来るだろ?』


アン:『一応様子見って感じね。私も時々ギルドで話を聞く事にするわ。』


2人が屋敷に戻ると、メルとローラがセディに何やら教えている様だった。


ザック:『何してんの?』


メル:『あぁザック様、実はセディさんがまだ魔物との戦闘経験がほとんど無いそうなので、これから平原で少し討伐でもやろうかと思いまして。』


ローラ:『魔法の効率的な使い方とかも知っておいた方が良いと思うんです。』


セディ:『正直低級の魔物しか相手にした事が無いんですよ。こっちの平原や森なら中級も出るって言うので。』


ザック:『なるほどねぇ・・・。なぁセディ、記憶の指輪を可視にして見せて貰えるか?』


セディはステータス表示を可視にしてザックに見せた。


セディの魔力はザック程では無いが、ローラをはるかに上回る数値だ。


使える魔法は炎と水の二つのみだが、最強の攻撃魔法まで全て習得済みになっている。


しかも剣や格闘のスキルもほぼ最大。


場馴れさえしてしまえば、どこでも独りでやって行けるだけの力があるのだ。


それどころか、対魔法スキルがザックより強力で、全属性魔法無力化能力がある上に、詠唱省略・連鎖魔法・威力増幅・異種魔法複数同時発動という魔法使いとしては賢者レベルを超えるほどのスキルを持っている。


力や器用さの数値も一般的な冒険者を大きく上回っているので、冒険者を辞めても職には困らないほどだ。


セディ:『私は陛下ほど過激なチートじゃないと思いますけど、多分スキルはかなり高いんじゃないですかね。』


ザック:『前に見た時も思ったけど、正直レベルは高過ぎな位だよな・・・。で、冒険者カードは?』


セディ:『あぁ、これですか?』


メル:『え!?プラチナカード!?』


ローラ:『えぇ!?』


ザック:『やっぱりな。』


アン:『あぁ、そういう事ね。』


ザック:『正直メルやローラに教えられる事は少ないかもな。多分力や魔力の上限が俺より低いのと、属性が二つしか無いからプラチナなだけで、もしそれらの条件が同じなら俺より高いステータスを持ってる可能性が高い。限りなくノワールに近いプラチナだよ。』


アン:『て事は、現時点で私と出会った頃のザックよりも事実上スキルが高いって事?』


ザック:『少しニュアンスは違うけどそうなるね。でもセディはまだ連携した戦闘の経験が無いだろ?・・・そうだな、メル・ローラと3人で北の森に行ってみなよ。』


セディ:『そうさせて貰います。』


メル達が討伐に行っている間に、ザックはノルバーンのファクトリーに関する調査報告を見る事にした。


東部視察に行っている間にも順次報告は来ていたが、エルベラが規制を厳しくしてからはファクトリーによる兵器開発が縮小されたらしい。


北方大陸には帝国以外にもファクトリーを保有する国はあるのだが、精度や生産効率では帝国のファクトリーには及ばない。


そこで帝国内のファクトリーは、兵器開発と販売の為に数社のファクトリーでそのシステムを分割しているらしい。


もちろん規制対象から外れたファクトリーが行っている様なのだが、最終的な作業や輸出に関する業務を行っているファクトリーが特定出来ないとの報告だった。


リアスに頼んでいた兵器の製造はすでにテストが完了しているので、近い内に帝国のファクトリーを招いて裏事情を聞き出す必要がある。


ザック:『なぁリアス、そろそろ帝国のファクトリーを招待しようと思うんだけど、いつ頃が良いかな?』


リアス:『そうですね・・・。モービィと二輪車、あと兵器に関してはすでに調整も終わっているので、いつでも大丈夫ですよ?』


ザック:『城の中庭で兵器のテストをしたいんだが、準備してもらえるか?』


リアス:『分かりました。』


翌週に帝国のファクトリーに招待状を送ると、予想よりも多くのファクトリーからモービィを見たいと連絡が入った。


ファクトリーには内緒でエルベラにも来て貰う。


理由は兵器に関心を持ったファクトリーの素行を教える為だ。


その数日後、いよいよ帝国のファクトリーを招く日がやって来た。


今回集まったファクトリーは8社。


もちろん建国前に交渉したファクトリーも来ている。


アーデリアで開発したモービィを披露すると、ファクトリーの面々は驚きを隠せずにいた。


帝国内では停滞していたモービィの技術に対して、数段進んだ技術が使われているだけで無く、快適性や操作性が帝国製のモービィをはるかに上回っているのだ。


帝国のファクトリーではコスト面でここまでの技術や装備を導入出来ない。


だが乗り手がカスタマイズする事によって改善するのが一般的だ。


アーデリア製のモービィは、乗り手が求めるであろう最低限の装備を標準装備している。


それでも帝国製モービィよりも価格を抑える事が出来るのには理由がある。


ステラが考案した術式回路が複数の術式を同時に制御出来るので、走行に特化した術式回路しか搭載していない帝国製モービィよりも最終的なコストが抑えられるのだ。


走行性能も帝国製よりも高く、少ない魔力で使用出来るので、乗り手の疲労度合いも少なく済むのだ。


各ファクトリーはこのモービィの販売権利を求めて来たが、ザックはこれを断った。


元々輸出する気は無かったし、技術に関する権利を保護する為だ。


すでにアーデリア・レデンティア・ノルバーンで、技術保護に関する特許制度を締結している。


つまりノルバーンにおいてステラが考案した術式回路を複製する事は出来ないのだ。


かなり不満そうなファクトリーの面々にザックは本題を切り出す事にした。


そう、例の兵器だ。


中庭に設けられた射撃場に行き、そこに設置され布を被せられた兵器を見ると、ファクトリーの面々の目は明らかに真剣だった。


ザックが布を取ると、そこに設置されていたのはマシンガンだった。


帝国のファクトリーが開発していた自動装填よりもはるかに単純かつ合理的な物だ。


リアスによる説明が終わり、射撃の実演が行われると、ファクトリー代表の1人がザックの元に近付いて来た。


ドルース:『御初に御目に掛かります陛下。私はエラン社のドルースと申します。実は陛下に折り入って相談が有るのですが・・・。』


どうやら彼が帝国のファクトリーで兵器開発を行っている代表者の様だ。


ザック:『どの様な用件でしょうか?』


ドルース:『ここでは何なので、出来ましたら二人きりでお話ししたいのですが・・・。』


ザック達は執務室で話をする事にした。


もちろん隣の部屋にはエルベラが待機している。


ザック:『それで相談というのは?』


ドルース:『単刀直入にお話しします。あの連射式の銃を、我々のファクトリーで製造させて頂きたいのです。』


ザック:『聞くところによれば、帝国では兵器開発に関する規制があるそうですが?』


ドルース:『実のところ陛下の仰有る通り、帝国において兵器開発に関して規制が強くなっております。ですが現在、軍需が大きくなっているのもまた事実。西北大陸からの受注はとどまる事がありません。ファクトリーとしては当然その受注に対して返答を出さねば信用問題となります。そこでアーデリアにて開発が行われ、我がファクトリーで製造を行えば定期的な出荷も可能となります。もちろんその利益から陛下にも開発費用を御支払させて頂きますので、アーデリアにも利益となります。』


ザック:『なるほど、では帝国における規制内容の意図は無視されるおつもりですか?帝国政府は他国の戦争に関与しない方針だと伺っておりますが?』


ドルース:『我々ファクトリーは本来政府による関与を受けない筈なのです。国家政府の方針はどうであれ、ファクトリーの経済活動は保証されるべきです。今回の件に関しましても、あくまで開発に関する規制がある訳で、製造に関する規制がある訳ではありませぬ。』


ザック:『経済活動が目的とは言え、ファクトリーが他国の戦争に関与する事を知りながら兵器の製造を行う事に関し、第3国であるアーデリアがそれに関与する事になるのは好ましい事ではありません。万が一にも我が国がこの事で他国より非難された場合に責任は取って貰えるのですか?』


ドルース:『別にそこまで深くお考えになる事でもありますまい?これは互いにとっても有益となる話。今回我々に兵器を見せたのにはそういった意図があったからなのでしょう?この事を我々が黙ってさえいれば、他国が揶揄する事もありません。』


ザック:『なるほど、本音はそれか・・・。今までもそうやって貴族達を抱き込んだのですか?』


ドルース:『私共は正直なだけでございます。どの様な綺麗事を言ったところで、企業には利益が必要。モービィの収益のみで運営するには限界もあります。それに軍需産業は今後更に需要が増えます。』


ザック:『それを訴える相手は俺じゃ無いんじゃないの?』


そこでエルベラが戸を開けて入って来るとドルースの顔が青ざめた。


ドルース:『こ、皇帝陛下!?』


エルベラ:『ドルースとか申したか?先程の話を聞かせてもらった。その方は自由経済を望んでおる様じゃな?確かにファクトリーの経済活動に関しては国家政府が直接関与する事が出来ん。じゃが他国の戦争に干渉する内容に関しては話が別じゃ。ましてや我が国の友好国であるアーデリアの皇王に対し、兵器に関する商談を持ち掛けるなど言語道断な話じゃな。』


ドルース:『お、恐れながら、勘違いをして頂いては困ります。我々ファクトリーは他国戦争に干渉しているのでは無く、純粋に技術発展と経済発展を重んじる企業。これは我が帝国の利益ともなる事であります。軍需産業は今後、どの国家においても重要な産業となります。これはその為の下準備とお考え頂きたい!』


エルベラ:『国家の利益と申したか?ならば何故余の知り得ぬところで話が進むのじゃ?兵器開発の意図や受注先に関する情報に関しても、第3国の協力があって初めて知り得た事じゃ。』


ドルース:『我々はファクトリーで御座います。当然情報に関する問題は政府干渉となりうる内容を避けて報告されるのです。これは商人ギルドの同意の元で行われている事です。』


ザック:『商人ギルドと言えば、出向している職員がギルドへの報告を渋っているらしいね?それはどういう事なの?』


あからさまにドルースの顔が引きつった。


ドルース:『ファクトリーは企業です。機密事項や情報管理に関してギルドへの報告が出来ない事も当然あります。』


エルベラ:『それはおかしい。ファクトリーは経営に関する総ての内容をギルドへ報告する義務がある筈じゃ。それは産業も商業も変わらん。その方には悪いが帰国後直ぐに商人ギルドに新たな出向職員を送らせる事にする。』


ドルース:『我々が利益を得るための苦労を何故御理解頂けないのでしょう?モービィにしても兵器にしても、産業に変わりは無いではないですか?多数の貴族の方々も我々に賛同頂けるというのに、何故御理解頂けのか?』


その言葉に呆れた表情のエルベラが応えた。


エルベラ:『その方、本当にそう思っておるのか?その方等が作った兵器で、いったい何人の人々が命を落とすと思っておる?自国の防衛の為の設備ならばいざ知らず、他国の戦争に使われる兵器を作れば当然我が帝国がその戦争に加担している事になる。つまりは余も貴様も人殺しの手伝いをしている事になるのじゃ。世界の国々と歩調を合わせ、平和的な外交を行っておる中でそれを裏切る様な事を、どうして認める事が出来ようか?目先の利益ばかりにとらわれず、未来への投資をしようとは思えぬか?』


ドルース:『失礼ながら陛下、目先の利益を必要としなければならない状況を作っておられるのは政府で御座います。貴族達による圧力で、どれ程のファクトリーが辛い思いを強いられているか。陛下御自身もよくお考え頂きたい。』


そう言い残してドルースは部屋を出て行った。


ザック:『・・・やはり貴族でしたか。』


エルベラ:『やはり事は急がねばなるまい。ベルクレア殿と早急に打ち合わせねばならぬな・・・。』


そう言ったエルベラは少し悲しげな顔をしていた。



お読み頂き有り難う御座いました。

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