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神の使徒になりました。  作者: KEMURINEKO
第1章 闇の奴隷商人。
6/77

第6話 休息と2人の冒険者と。

お読み頂き有り難う御座います。


第6話です。

ポットでお湯を沸かす音が聞こえる。


カチャカチャと食器を出す音も。


重い目蓋を無理やり持ち上げると、紅茶の良い香りが鼻を刺激する。


窓に目をやるとまだ薄暗い。


アン:『目が覚めた?』


アンの優しい透き通る様な声が聞こえて来た。


ザック:『おはようアン・・・。』


アンが枕元に顔を寄せて優しく声をかけた。


アン:『おはよう。紅茶を入れたよ、飲むでしょ?』


ザック:『うん。』


最高の朝だ。


こんな美少女が優しく声を掛けてくれるなんて、あっちの世界では考えられない。


身体を起こすと昨日の疲労からか、筋肉痛になっている様だ。


アンと2人で紅茶を飲む。


ダンボールからクリームチーズクラッカーを出してテーブルに置く。


ザック:『食べてみて。』


アン:『ドライブレッド?』


ザック:『ドライブレッドでクリームチーズっていう柔らかいペースト状のチーズを挟んだ物だよ』


そう、この世界にもクラッカーはある。


アン:『不思議な味・・・でも美味しいわ。とても上品な味なのね。』


朝にアンと紅茶を飲むのが日課になりそうだ。



紅茶を飲んだ後、顔を洗って身支度をする。


記憶の指輪でステータスを開くと、【神託】の項目がまだあった。


詳細を開く。


【闇の奴隷商人を倒してくれたので、物資を送ります。】とあった。


ザック:(ん?また何か送ってくれるのかな?)


窓の外はすでに明るくなっていた。


アン:『ザック、朝ご飯食べに行こ?』


ザック:『うん、行こうか。』



2人で食堂に行くとボルトが居た。


ザック:『おはようボルト。』


ボルト:『やぁザック、昨夜は大変だったみたいだね。』


ザック:『あ、ボルトにも迷惑掛けちゃったよね・・・。』


ボルト:『いや、俺は全然大丈夫だよ。で、そっちが例の?』


ザック:『うん、パートナーのアンだよ。』


アン:『アンです。はじめましてボルトさん。』


ボルト:『薬師をやってるボルトだ。』


ザック:『ボルトはいつ頃までこっちに居るの?』


ボルト:『明日リースに移るよ。あっちに商人ギルドも出来たし、コネも作っておきたいからね。』


ザック:『そっかぁ、その後は他の町に行くの?』


ボルト:『あぁ、リースの次はフェルト、その次はシェルバールに行くよ。』


ザック:『シェルバールって南東にある大きな湊町だよね?』


ボルト:『そう、船乗りからの需要が多いから結構儲かるんだ。ザックはしばらくこっちに居るのか?』


ザック:『まだ当分はこの町に居る予定だよ。』


ボルト:『そうか、ならこれを渡しておくよ。』


ボルトはバッグから小瓶を3本出してザックに手渡した。


ザック:『これは?』


ボルト:『それは魔法薬で、魔力を使い過ぎた時に飲むと 魔力を回復する事が出来る。ザックは冒険者になって日が浅いから、持っておいた方が良いぜ?』


ザック:『え?そんなの貰っちゃって良いの?』


ボルト:『あぁ貰ってくれよ。そんなに高い物でも無いしな。』


ザック:『じゃあ有り難く貰っとくよ。』


厨房からダイソンが料理を持って来た。


ダイソン:『ザックさん、昨夜は休めたかい?』


ザック:『えぇ、結構グッスリ眠れました。』


ダイソン:『そうか、さっき泊まってた兵士さんが貧民街で捕まった奴が居るってんで出て行ったんだが、昨夜の残りなのかねぇ?』


ザック:『この後兵舎に行くので聞いてみます。』



朝食を終え、アンとギルドに行く。


カリンに昨日の話をする為だ。


ザック:『失礼します。』


カリン:『おはようございます。兵士から概要は聞きましたか?』


ザック:『えぇ、昨夜は結構な人数が捕まったとか。今朝がたも貧民街で1人捕まったそうですね。』


カリン:『はい、私の住んでいる所でも何名か捕まったみたいですね。私はこの後兵舎に呼ばれているのですが、その前に来て頂いて良かったです。それと先日話した森での討伐制限の件ですが、貴殿方の腕前なら問題無い様なので許可しましょう。』


ザック:『有り難う御座います。』


カリン:『それではこちらが昨日の護衛の報酬になります。』


ザック:『あ、そうだ、実は俺達もこれから兵舎に行くので、良かったら一緒にいきませんか?』


カリン:『そうしましょうか。ではまいりましょう。』



3人は兵舎に向かった。


昨夜宿で起こった事やカリンの自宅で起こった事をお互いに話した。


兵舎で兵士長と面会する。


ガルド:『わざわざすまんな、私が兵士長のガルドだ。』


3人が挨拶するとガルドが今回の事件に関して説明する。


ガルド:『捕らえた者の中に無許可で奴隷商をしている者が居てな、この界隈で何件も誘拐をしていた様だ。』


ザック:(つまりこの辺の誘拐事件の首謀だった訳か。)


アン:『それでは当面の安全は確保されたという事ですか?』


ガルド:『確実に・・・という訳では無いがな。それと最近誘拐された亜人属の少女達が囚えられている場所も解った。先ほど兵士達に保護させに行かせた所だ。』


カリン:『それはかったです。』


ガルド:『ときにザックとやら、壊された橋を掛け直したそうだな。なかなか良く出来ておったが、聞いたところではあくまでも簡易的な物らしいが、どの位もつ物かな?』


ザック:『正直分かりませんが、末永く使える物では無い事は確かです。きちんと石組で作り直した方が良いと思います。』


ガルド:『うむ、では頃合いを見て着工するとしよう。そこで今回の一連の事件解決と橋を作って貰った事に対して、こちらから報酬を出す。受付で受け取って帰るがよいぞ。』



受付で報酬を受け取り兵舎を後にする。



カリンと別れ宿の前まで行くと荷馬車が停まっていた。


メリア:『ザックさん!』


メリアが呼び止めた。


メリア:『ザックさんに荷物が届いたみたいなんですけど、量が結構多くて・・・。』


ふと見ると以前と同じ大きなダンボールが6個も置いてあった。


ザック:(あ、神様からかな?)


ザック:『分かった、こっちで運ぶよ。』


馬操者が『まだ有るんですがねぇ。』と言ったので荷馬車を見ると、他に4箱もある。


ザック:(・・・神様多いよ。部屋に入り切らないじゃん。)


ザック:『うん・・・降ろします。』



全部の荷物を降ろし、修繕中のアンの部屋に運び入れる。


その中の一箱を自分の部屋に運んで開けてみた。


ザック:『あ、これって・・・。』


アン:『なになに?何が入ってたの?』


そうである。


神様は俺の行動を全部見ていたのだろう。


この箱には調味料各種が、スーパーの納品並みに沢山入っていたのだ。


ザック:(良いのかよこれ。こんなのごまかし効かないぞ?この宿を異世界料理を出す店にしたいのか?)


アン:『これってダイソンさんにあげた調味料と同じ物?凄い数入ってるんだけど・・・。』


ザック:『半分くらいはダイソンさんに渡そう。』


他のダンボールを調べ、この世界の人でも使えそうな調味料を半分ずつ出してダイソンに渡す。


ダイソン:『えぇ!?これだけ有れば1年以上は持ちますぜ!?本当に良いんですかい!?』


ザック:『しばらく御厄介になる事にしたので受け取って下さい。』


その後カウンターに行きメリアに1ヶ月分の宿代を2人分支払った。


アンの部屋に戻ると他のダンボールも開けて中を確認する。


アンは初めて見る異世界の製品に目を輝かせていた。


こちらの世界で使えそうな物から、こっちでは貴重とされている物も多かった。


銃弾も2ケース追加で入っている。


もちろん食料やお菓子も大量に入っていた。


嬉しかったのはインスタントコーヒーとポーションミルク。


こちらの世界にはコーヒーが無いのである。


しかも牛乳は結構値が張るので、それなりに稼ぎがある者以外は普段飲む事は無い。


そしてある箱の中にはこの世界では絶対使いようも無さそうな物が・・・。


それには手紙が貼り付けてある。


【この端末を使えばあちらの世界のネットを閲覧出来ます。魔力を注ぐ事で充電も出来ますし、防水ですので活用出来ると思います。これから何か必要な物がありましたら登録されているアドレスにメールで送って下さい。サクラ】


ザック:(マジですか・・・。てかこれスマホじゃん!)


アン:『ねぇ、これ読めるの?』


アンが不思議そうに眺めている。


当然だ、日本語で書かれてあるのだ。


ザック:『便利な魔道具も送ってくれたみたいだよ?俺にしか使えないみたいだけど。』


アン:『へぇ~。』


全てのダンボールをチェックした後で、部屋で一息着く事にした。


前回送られて来たダンボールからチョコクリームサンドのお菓子を出す。


紅茶を入れて、お菓子と一緒にテーブルに運ぶ。


ザック:『まさかこんなに大量に送られて来るとはなぁ。』


アン:『それも見た事も無い物ばかり。でも食べ物はどれも美味しいから良いじゃない。』


ザック:『うん、それは嬉しいんだけどね。中には他の人に説明するのが難しい物もあるからねぇ。』


アン:『このお菓子なんて王都の高級なお店にも負けないぐらい美味しいものね。』


ザック:(まぁそうだろうね。下手なケーキ屋の焼き菓子より旨いもん。日保ちもするしね。)


アン:『この後はどうする?』


ザック:『う~ん、今の所はお金も余裕があるし、宿も一月分の宿代を払ったからなぁ。アンは行きたい所とかある?』


アン:『そうねぇ、じゃあちょっと北エリアにあるお店に付き合ってもらって良い?』


ザック:『良いよ。』



紅茶を飲み終えて宿を出ると、中央広場から北に向かう。



アン:『確かこの辺だったはずなんだけど・・・。』


ザック:『何の店を探してるの?』


アン:『エルフが経営してる道具屋さんで、エルフ用の装備品が売ってるのよ。弓とかも扱ってるの。』



メイン通りから路地を覗くとようやくお目当ての店を見付けた。



アン:『こんにちは。』


店に入るとエルフの装備品が所狭しと並んでいる。


店主:『いらっしゃい。どんなのを探してるの?』


アン:『冒険者用の服を見に来たんですが。』


店主:『あ、それなら隣の店に入ってもらえる?2店経営してるのよ。』


隣の店に移動すると、エルフ用の服が沢山並んでいた。


店主:『全部エルフの村で作られた服だから、ちゃんと精霊の加護がついてるわよ。』


するとアンは色々選び始めた。


ザック:(女の子が買い物する時って長いのよね。)


アン:『ねぇザック、どっちが似合うかな?』


ザック:『ん~個人的には右かな?』


アン:『じゃあこっちにする♪』


嬉しそうにそう言うと、服に合わせてブーツを選ぶ。


気に入ったデザインが見つかったみたいだ。



買い物が終わり、北エリアをブラつく。



パン屋でサンドイッチを買う。


正確にはサンドイッチでは無いらしいが、要は同じ物だ。


中央広場で果実水を買い、噴水の縁に座ってサンドイッチをパクつく。


なんかデートっぽい。


というかデートだな。


ザック:『なんだかアーデンに来てこんなにゆっくりしたのは初めてだな。』


アン:『そうなの?』


ザック:『だって初日はギルドに登録して宿を決めて。次の日はアンと出会って初討伐だし、翌日は荷物が来たり銃を試したり。で昨日は護衛の仕事だったり夜襲があったしさぁ。』


アン:『そう言えば確かに結構慌ただしかったわねぇ。』


アンは笑いながら空を見上げた。


アン:『でもまだ私達って会って3日しか経って無いのね。色々急展開過ぎてもう1年ぐらい一緒に居る気分よ。』


ザック:『俺だってそうだよ。まさか出会って2日で一緒に暮らすと思わなかったしね。そして昨日のアレだろ?正直頭が追い付いて無いよ。』


『でも私、この町に来て良かったなぁ。ザックと出会えたお陰で、新しい発見や驚きが沢山ある。』


そう言うとアンは両手を伸ばし背伸びをした。



サリア:『ザックさん?』


サリアが買い物袋を片手に通り掛かった。


ザック:『お買い物?』


サリア:『はい、ギルドのお使いです。』


ザック:『そっか、あ、紹介するよ、一緒にパーティーを組んでるアン。こちらは商人ギルドで事務をやってるサリア。』


サリア:『サリアです。よろしく。』


アン:『よろしく、私はアンよ。ねぇ、ザックとサリアはどういうご関係?』


ザック:『ムーランに泊まってるボルトの紹介で知り合ったんだ。神職を目指してるんだよ。』


サリア:『はい、いずれ神職になって経験を積んだらザックさんのパーティーに入れて貰おうと思っています。』


アン:『そうなんだ、ザックは私にそんな事何も言わないからなぁ~。』


ザック:『いずれ紹介しようとは思ってたよ。サリアはまだ神職に就いてもいないんだし。』


サリア:『はい、神職になると食べて行くのがやっとな稼ぎになるので、今の内は商人ギルドで蓄えを作る方が先ですね。』


アン:『それは大変ねぇ・・・。もし困った事があったら相談してね!いつでも相談にのるから。』


ザック:『もちろん俺も相談にのるよ。気が向いたらいつでも言って。』


サリア:『アンさん、ザックさん・・・。有り難うございます。それでは仕事が有るので失礼します。』


アン:『うん、頑張ってね。』


サリアは深々と頭を下げて歩いて行った。


アン:『一瞬ザックの恋人かと思っちゃった。』


ザック:『この町に来てまだ1週間も経って無いのに?』


アン:『・・・。ザックって自分に気のある女の子を分からないでしょ。』


ザック:『そんなの分かる男の方が少ないと思うよ?』


アン:『・・・聞いた私が馬鹿だったわ。』

(ま、そこがザックの良い所でもあるんだけど。)


それから数日が過ぎ、森での討伐にも馴れた頃、ザック達は久しぶりに休日をもうける事にした。


その日は街の東側を散策しようと街に出た。


中央広場から東のメイン通りに出ると、魔法関連の店が並んでいる。


異世界に来たと実感するに足るその風景は、ローブを着た魔法使いや魔法剣士と良く馴染んでいる。


自由民や一般の商人はあまり来ない様で、その一見怪し気な光景から子供の間では魔族が支配していると噂になっている様だ。


すると路地から何やら揉めている声が聞こえた。


ローブを着た少女とビキニアーマー的な服を着ている女性冒険者だ。



女剣士:『いい加減にしなさいよ!アンタなんかにそんな事言われる筋合い無いわ!』


魔法使い:『アンタのせいでまたパーティーを追い出されたんじゃない!』


女剣士:『それはこっちの台詞よ!』


ザック:(あぁ、これはアレか、あぁやって喧嘩ばかりしてるからパーティーから外されたんだな。こりゃ関わったら駄目な奴だわ・・・。)


アンも呆れた顔をしている。


ザック:『行こ・・・。』


アン:『そうね・・・。』


2人が歩き出そうとしたその時。


≪あ、あの!すいません!≫


アン:(ザック!無視よ!無視するのよ!)


ザック:(アン!無視だぞ!関わるなよ!)


≪無視しないで下さ~い!!≫


逃げる様に歩き出したザックとアンをさっきの2人が泣きながら肩を掴んで呼び止めた。


アンとザックが困った顔で振り向く。


ザック:『何の用?』


魔法使い:『あ、あのぉ、冒険者ですよね!』


女剣士:『も、もしパーティーに空きが有ったら私を入れて貰えませんか?』


魔法使い:『ちょっと!先に声掛けたのは私よ!』


女剣士:『何言ってんのよ!そんなの早いモン勝ちでしょ!』


2人の口論はどんどんエスカレートして行く。


アンがうんざりした顔で『もうさっさとことわって行きましょ。』と言って来た。


ザック:(面倒臭いなぁ。)


ザック:『ちょっと悪いんだけどさ、俺等ブロンズだし、今はまだパーティーを増やす予定無いんで、他を当たってくれない?』


魔法使い:『あ、あたし達もブロンズです!』


女剣士:『人数が増えると討伐も楽になりますよ!』


アンが痺れを切らして口を開いた。


アン:『ちょっと悪いんだけど!貴女達みたいに喧嘩ばかりして協調性の無い人達とはパーティー組みたく無いの!ザックだって迷惑してるじゃない!』


2人はしょぼんとして口を開く。


魔法使い:『もう喧嘩しないので、お願いですからパーティーに入れて下さい。』


女剣士:『仲良くしますんでお願いします。荷物持ちでも何でもしますので。』


ザック:(あのなぁ・・・。)


ザック:『だいたい何でそんなにパーティー入りたいんだ?2人で組んでペアでも良いじゃんか。』


アン:『そうよ。私達だってペアでも問題無くやってるわよ?』


女剣士:『私達だと剣士と魔法使いのコンビなんで、中級の魔物が相手だと危険なんです。』


魔法使い:『何処へ行くにしても中級が出る所を大きく迂回しなければならないので、ほとんど稼げ無いんです。』


ザック:『だったら何で喧嘩ばかりしてんだよ?パーティーから外された理由ってそれだろ?』


アン:『そうよ、仲良くしていれば外される事無かったんじゃないの?』


魔法使い:『だってこの子が前衛でいつも魔法の射線に入って邪魔するから・・・。』


女剣士:『はぁ!?アンタが自分から動いてポジションを変えないだけじゃない!』


ザック:『だから待てって!そうやって周りの動きを見ないで戦っているからお互いにミスしてんだろうが!』


アン:『そんなんじゃパーティーから外されるのは当たり前よ!仲間のアシストやフォローが台無しじゃない!』


≪返す言葉も御座いません・・・。≫


ザック:『はっきり言って君らが稼げ無いのは自業自得だ。今俺のパーティーに入っても同じ事の繰り返しだよ。』


アン:『そうね、それで足を引っ張られたら命が幾つ合っても足りないわ。』


ザック:『まずはしばらく2人で話し合った方が良い。喧嘩せずに冷静に話し合いをする。話はそれからだ。』



肩を落とした2人を置いてギルドへ向かった。



アン:『何でギルドに行くの?』


ザック:『一応パーティー募集の掲示板を見ておこうと思ってね。』


アン:『何処かのパーティーに入る気?』


ザック:『場合によってはそれもアリだとは思ってるよ。でも見に行くのは別の理由なんだ。』


アン:『まさかさっきの2人!?やめとこうよぉ、あんな面倒臭いのに関わるのぉ。』


ザック:『確かに面倒臭いけど、稼げないっていうのは見過ごせないよ。女の子が宿にも泊まれず野宿ばかりっていうのも後味悪いじゃん。』


アン:『それはそうだけどさぁ・・・。』


パーティー募集の掲示板は基本的にシルバーランクが大半を占めている。


ブロンズは駆け出しなので、中級討伐には向いていないのだ。


そこでブロンズのソロやコンビの冒険者はパーティーを組む場合、ギルドの窓口でブロンズの情報を貰う。


つまりブロンズの冒険者を紹介して貰う訳だ。


ザック:『シルビアさん!』


シルビア:『ザックさん、アンさん、何かご用ですか?』


ザック:『実はこの町のブロンズ冒険者についてお話を聞きたいなと思って。』


シルビア:『そうですねぇ、現在この町のブロンズは15名、これはザックさんやアンさんも含まれます。 その中でパーティーを組んで居るのは6名、他はソロですね。』


ザック:『そこに剣士と魔法使いの女性コンビが居ると思うんですが・・・。』


シルビア:『あぁ・・・彼女達ですか・・・。』


アン:『やっぱり変な事で有名なのね・・・。』


シルビア:『彼女達は経験値はそれなりに有るのですが、パーティーに入る度にトラブルを起こすので、他のブロンズやシルバーからは良く思われていませんね。』


ザック:『あの2人って毎回2人一緒にパーティーに入ってるんですか?』


シルビア:『はい、分かれてパーティー入りした記録は無いですね。』


ザック:(あれだけ喧嘩ばかりしているのに毎回同じパーティーに入るって事は・・・。)


ザック:『あの2人って、頻繁にギルドに来てます?』


シルビア:『えぇ、ほぼ毎日いらっしゃってますよ。』


アン:『ちょっとザックなにする気?』


ザック:『ん~ショック療法・・・的な?』


アン:『ショック療法・・って何?』


ザック:『臨時で俺達とパーティーを組んで貰うんだよ。』


アン:『ちょっと!?本気で言ってるの!?あんなのと討伐に行ったら全滅しちゃうわよ!?』


ザック:『大丈夫だよ。いざとなれば俺が本気出すし、彼女達は俺のスキル知らないしね。』


アン:『もう・・・どうなっても知らないからね?』


ザック:『そういう事なんで、明日彼女達が来たら俺達が臨時パーティーを募集していると伝えて下さい。』


シルビア:『それは構いませんけど・・・よろしいのですか?』


ザック:『ご心配無く。』


アン:『私は不安しか無いんだけど・・・。』



ギルドを後にし、武器屋に向かう。



アン:『武器買うの?』


ザック:『うん、俺が今使ってるのは短剣だろ?今回はロングソードが必要なんだ。』


武器屋に入ると獣人の女の子が声を掛ける。


店員:『いらっしゃい、何にしますか?』


ザック:『黒鉄鋼のロングソードってあるかな?』


店員:『黒鉄鋼は今無いですね。でもこんなのが入ってますよ?』


彼女が出して来たのはアイスメタルと黒鉄鋼のハイブリッドメタル。黒鉄鋼単体よりも固く水属性の魔法付与がされたロングソードだ。


『これはエルヒムという職人が作っている【ドラコンスレイヤー】という剣です。こちらでしたら黒鉄鋼のロングソードと同じ値段で良いですよ?』


ザック:(リーチも長く振りも大きいが、重心が良い位置に有って振りやすい。だが問題は水属性の付与だな。魔法は武器の属性に左右される。)


ザック:『他にはどんなのが有ります?』


店員:『黒鉄鋼と同等かそれ以上のロングソードだと結構値が張りますが良いですか?』


ザック:『この際構いませんよ。』


店員:『では、今ならこの5種類がそのグレードになりますね。』


固い順ならアークメタル・エレメントメタル・タイトメタル・白鋼・ディアルゴ鋼になる。


どれも魔法付与はされていないが、エレメントメタルは魔力の増幅作用がある。


アークメタルは重量が重すぎるし、タイトメタルは刃幅が広過ぎる。


白鋼は刀身が細い日本刀の様な作りだが横方向からの力に弱いし、ディアルゴ鋼は曲がりやすい。


ザック:『それじゃあエレメントメタルにします。』


店員:『有り難うございます。58.000ジルになります。』


アン:『え!?ロングソードってそんなに高いの!?』


アンはかなり驚いている。


ザック:『高い物になると200.000ジルはするみたいだよ?ほら、あれなんて170.000もするし。』


アン:『そうなんだぁ、そうよね、弓だって名品になると50.000ジルはするもの。』



武器屋を出て宿屋に戻ると宿屋の前が何やら騒がしい。



メリア:『ザックさ~ん!助けて下さ~い!』


良く見るとメリアとさっきの2人、魔法使いとビキニアーマーの女剣士が揉めている。


ザック:『お前ら何やってんだ?』


アン:『また出た・・・。』


女剣士:『あっ!昼間のお二方!』


魔法使い:『先ほどはどうも!』


ザック:『メリア、どうしたの?』


メリア:『実はこちらのお客様がザックさんに会わせろと・・・。』


ザック:『お前ら宿屋に迷惑掛けるなよ!』


アン:『ちょっと常識無さ過ぎでしょ!』


≪すいませんでした。≫


ザック:『それで何の用だ?』


女剣士:『先ほどギルドに行ったら、パーティーメンバーを募集していると聞きまして、しかしまさか貴方がザックさんとは。』


魔法使い:『折角なのでお話をさせて貰おうかと!』


ザック:『分かった。取り敢えず話を聞くよ。』

(明日かと思えば今日かよ・・・。)


アン:(この子達ちょっと図々しいわね。)


ザック:『メリア、部屋に上げても良いかな?』


メリア:『えぇ、構いませんよ。』



部屋に入りアンに紅茶を入れて貰う。



ダンボールからバタークッキーを出してテーブルで開けた。


ザック:『取り敢えずこれでも摘まんで落ち着いてくれ。』


ロングソードを立て掛けベッドに腰掛ける。


ザック:『それで?臨時のパーティーメンバーは確かに募集しているけど、君らは何で押し掛けたりしたんだ?』


女剣士:『その・・・私達、もう今晩から野宿しないといけないほどお金が無くて、お話を聞いたら舞い上がってしまって・・・。』


魔法使い:『低級の魔物を倒しても、あまりお金にならなくて・・・藁にもすがる思いだったんです。


アン:『哀れねぇ、自分達で招いた事態でしょ?本来ならもっとまともな暮らしも出来たでしょうに。』


≪・・・。≫


ザック:『つまりは直談判しようとして宿屋まで押し掛けたって訳か?』


≪・・・はい。≫


ザック:『呆れたなぁ・・・飯代はあるのか?』


≪・・・いいえ。≫


ザック:(おそらく満足に飯も食えないほど稼げて無いんだろうな。冒険者とはいえ若い女の子が風呂にも入らず野宿を続けるのは良く無いし・・・。)


ザック:『君ら名前は?』


女剣士:『リサです。』


魔法使い:『エミリアです。』


ザック:『・・・アン、ちょっと。』


廊下に出て耳打ちする。


ザック:『アンが気に入らないのは分かってるんだけど、さすがに気の毒だから2人に部屋と今日の夕飯と朝食をメリアに頼んでくれ。これ代金な。』


アン:『もう、本当にお人好しなんだから・・・。分かったわ、行ってくる。』


部屋に戻ってテーブルに出したクッキーをつまむ。


ザック:『ほら、君らもつまめよ。』


≪でも・・・。≫


ザック:『良いから食え!』


≪は、はい!≫


2人は恐る恐るクッキーをつまんで口に運ぶ。


≪っ!!美味しい!!≫


ザック:『君らは本当に俺のパーティーでトラブル起こさないか?』


≪はい!≫


ザック:『どんな状況でも仲間と揉めたりしないか?』


≪はい!≫


ザック:『俺とアンの言う事をちゃんと聞けるか?』


≪はい!≫


ザック:『君ら2人でちゃんと連携を取れるか?』


≪はい!≫


ザック:『・・・。』


≪・・・。≫


ザック:『なら今日は夕食を食って風呂に入ってゆっくり休め。』


リサ:『えっ!』


エミリア:『それって・・・。』


ザック:『今アンがこの宿の宿泊手続きをしてくれている。だから今晩はこの宿に泊まれ。』


そう言うと2人はザックの前にひざまづき、泣きながら土下座をした。


ザック:『エミリア、リサ、そういうのは良いから紅茶を飲んでクッキー食ってしまえ。』


2人は泣きながらクッキーを食べた。


アンが部屋に戻って来た。


アン:『部屋が取れたわ・・・って、何で泣いてんの!?』


また2人はアンの前で土下座をした。


アン:『えっ!?ちょっと!?何?』


ザック:『アン、宿帳はどうした?』


アン:『ザックの名前にしてもらったわ。』


ザック:『リサ、エミリア、鍵は自分達でカウンターに取りに行けよ。』


≪はい!≫


アン:『ねぇザック、あの子達に何したの?


ザック:『何も?』


リサ:『ザック様とアン様のご厚意に感謝します。』


エミリア:『私達2人は、お二方の手足となって支えます。』


ザック:『あのさ君達、俺は家来をとった覚えはないんだが。』


アン:『何か本当に面倒臭い子達ね・・・。』


ザック:『ところで2人は年幾つなんだ?』


リサ:『15才です。』


エミリア:『私も15才です』


アン:『私と同い年なの!?』


その後全員で夕食をとり、リサとエミリアは自室に行った。


ザック達も部屋に戻る。


アン:『あの子達どうする気?』


ザック:『あの2人には自分達の力で食べて行ける様になって貰うよ。』


アン:『でもザックみたいな力はあの子達には無いのよ?』


ザック:『ブロンズとは言っても魔法使いならエミリアの攻撃魔法の魔力は高いはずだ。リサの剣裁きさえ鍛えてやれば、中級でも討伐出来るはずなんだよ。』


アン:『問題はあの子達のチームワークよね。実際に戦闘を見てみないと分からないけど、昼間の様子だと自分の攻撃しか頭に無いみたいだし。』


ザック:『そこなんだよ。だから明日は俺がわざと連携の邪魔をしようと思う。』


アン:『そんな事したら本末転倒じゃない!?いつものコンビでさえ短気になるのに、他のメンバーに邪魔されたら能力も発揮出来ないわよ?』


ザック:『だからだよ。極限までストレスを感じてる状況で結果を出そうと努力させるんだ。もちろんご褒美付きでね。』


アン:『本当にそれで効果有るの?』


ザック:『どうだろうね。でもそれで自分からパーティーを抜けたいと言ったら、それこそ自分達の力で何とかしなければならなくなるだろ?森のど真ん中でそんな状況になったら、嫌でも出来る様に努力しなければならない。パーティーの有り難みと自分達の役割を自分達自身で見つけさせるのが狙いなんだ。


アン:『かなりスパルタね。そこまでしてあの子達が伸びなかった時はどうするの?』


ザック:『冒険者を辞めさせる。』


アン:『それはやり過ぎよ。』


ザック:『考えてもみろよ?彼女達は今日食べるにも困る生活をしているんだ。稼げなければのたれ死ぬって感覚を知らなければ、命懸けで冒険者の仕事は出来ない。そんなに安全な環境で仕事をしたいなら、商人ギルドに入って商売をすれば良い。』


アン:『・・・確かにそうね。あの子達が本当に冒険者としてやって行きたいなら、その覚悟も必要だものね。』



リサ・エミリアの部屋。



エミリア:『ねぇリサ、こんなに良くしてもらって良いのかな。』


リサ:『私達の宿代だって安く無いわよね。』


エミリア:『明日さ、私リサと対角線に動いて魔法を使おうと思うの。いつもはリサが飛び込んだ後を追いながら魔法を使ってたでしょ?』


リサ:『でもそれじゃあエミリアの死角に入っちゃうわよ?』


エミリア:『うん、だからリサは斬り込んだら1回毎に魔物から距離を取って欲しいの。そうすれば魔法の発動圏内から外れるでしょ?』


リサ:『でも明日はザック様とアン様も居るから、2人の動きも見ながらやりましょ?』


エミリア:『うん、出来るだけ位置をずらしながら攻撃するね。』


2人にとってザックとアンは命の恩人同然だった。


温かいお風呂に温かい食事、温かいベッド。


リサとエミリアはザックとアンの役に立ちたい、失望させたく無いと思った。

お読み頂き有り難う御座いました。

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