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神の使徒になりました。  作者: KEMURINEKO
第3章 皇王の務め。
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第58話 神官長と産業と。

お読み頂き有り難う御座います。


第58話です。

セレンティ湖畔神殿。


大陸でも有数の湧水湖であるセレンティ湖の畔に建てられた大型の神殿であり、この町の開拓当時から自治や治安の確保を行っていた行政の中枢でもある。


以前はレデンティア王国からの独立を希望し、エルス同様の聖教国家を目指した過去がある。


アーデリア建国時には独立を希望せず、地方自治体としての一定の権利を要求するにとどまった。


理由としてはアーデリアの建国に関して、エルス大神殿の最高神官が承認した事が大きいかも知れない。


事務官が城に来た際に神官長からの伝言を貰ったが、その内容も否定的なものでは無かった。



ザック達はセレンティ神殿を訪問して、神官長から話を聞く事にした。


神官長:『これはこれは陛下、セレンティまで遥々ようこそおいで下さいました。私がこの神殿の神官長を任せて頂いているワトソンと申します。』


ザック:『宜しくお願い致します。今回こちらまで旅をするにあたり、アーデン神殿の巫女であるサリアと同行しておりますので紹介させて頂きます。』


サリア:『御初にお目に掛かります。サリアと申します。』


神官長:『ほう、そなたがアーデン神殿の巫女ですか。エレイム殿は御元気ですかな?』


サリア:『はい、とても元気です。』


神官長:『それは良かった。彼とは共に修行をした仲でね。宜しく言っておいてくれないかな。』


サリア:『はい、神官様もお喜びになられると思います。』


ザックはあえてメルを紹介しなかった。


神殿騎士団の末裔であるメルを紹介するべきなのだろうが、それでは皇王が神殿騎士を囲って利用していると思われかねない。


確かに神殿とのパイプ役となるが、それだけに共に行動する事で反感を受ける恐れもある。


神官長:『時に陛下、今回はセレンティの視察という事を伺いましたが、もう町の方はご覧になられましたかな?』


ザック:『はい、昨日町を見て回りましたが、とても良く整備されて綺麗な町ですね。それに市場も活気があって食文化も豊かだと感じました。』


神官長:『この町は元々、多種族が別々に暮らす集落が寄り集まった町なのです。この地に神殿を築いた初代の神官長がその集落をまとめ、治安の心配が少ない町を作られたそうです。東部海岸からも比較的近いので、海・山・里の全ての食材も集まります。』


ザック:『なるほど、それで各種族毎のコミュニティが出来たんですね?』


神官長:『えぇ、ですが幾つか問題もありましてね・・・。』


ザック:『問題というのは?』


神官長:『初めの頃は種族間の交流もなかなか上手く行かず、各コミュニティに別々に教会が建てられたそうです。その後異種族同士の小競り合い等も結構あり、コミュニティの通りには他種族が立ち入らないという暗黙の了解が定着したのです。それから数十年が経つと種族間の交流が安定し始めたのですが、広場や市場等の限られた場所での交流にとどまったままなのです。』


ザック:『そんな事があったんですね。実は昨日視察した時に、コミュニティの通りで他種族が歩いて居なかった事が少し気になっていたんです。それで現在もその風習が定着していると?』


神官長:『現在は昔ほど他種族に対する警戒心は無くなりましたが、種族によって生活の価値観や風習も違うので、あまり他種族のコミュニティの通りには立ち入らない様です。別に条令等で禁止している訳では無いので問題は無いのですが・・・。』


ザック:『なるほど、それで納得がいきました。でもそこまで心配する事でも無いと思いますよ?実際その事で不満が出ている訳でも無いんですよね?』


神官長:『そうですね。町の者達からは苦情や不満は出ていません。もう少し様子を見てみる事にしましょう。ところで陛下、失礼とは思いますが、もしや神職の御経験がおありですかな?』


ザック:『いいえ?私は冒険者ですので。』


神官長:『そうでしたか・・・恐らく陛下は神に祝福された方のようですな。陛下からは神力を感じられます。まるで・・・いや、失礼致しました。』


ザック:(やはり感じていたか・・・。神官クラスの神職には誤魔化せないかな?)


ザック:『俺はスキルがノワールなので、確かに祝福はされているかも知れませんね。それにエルスのレイエス最高神官様との交流がありますので、それが大きな理由かも知れませんね。』


神官長:『ほう、最高神官様と交流がおありでしたか。そう言えば建国の際に最高神官様が直に承認されたそうですな。エルスが直に承認した国は過去にも例がありません。それだけ陛下を気に入られたという事でしょう。』


ザック:『実は以前、ある件で他国の事件を解決する際にレイエス最高神官に助力を頂いた事がありましてね。その時から交流があったんですよ。』


神官長:『なるほど、そういった経緯があったのですね。』


ザック:『そう言えばひとつ疑問があったのですが、西に行った所にあるアリスバンの町で、聖霊を奉ってる事に関しての意見を伺いたかったんです。』


神官長:『その件に関しては、アリスバンの自主性に任せようと思っております。実際過去に神殿が聖霊信仰を危惧して指導しようとした事はありましたが、私としては人の心の拠り所を強制する事はしたくありませんし、住民達も水の聖霊を崇拝している訳では無い様ですからね。』


ザック:『それを聞いて少し安心しました。俺も王としての立場上、信仰や崇拝に関する事に関して、出来れば口出しを避けたいと考えていたもので。』


ザックとしてはこの国に信仰を強制する事はしたく無かった。


自分が使徒である事を証す訳にもいかない事や、この世界の信仰や風習を出来るだけ尊重しなければ、一国の王としては異端と取られかねない。


神官長はザックの意図を理解した上で、質問に答えた様だ。


神官長との話し合いが終わると、ザックは今回の視察を纏める為に皇宮に転移した。


他のメンバー達はセレンティの観光を楽しんでいる。


皇宮では内政・経済・厚生の各大臣と今後の課題についての取り纏めを行った。


東部各町村においての行政の役割や医療施設の設置など、地域毎に必要な措置を行わなければならない。


政府として出来る限りの対策は必要だが、セレンティに関してはその一部を神殿に委託する事になる為、あまり複雑な内容にする訳にもいかないのだ。


各大臣に地域毎の事情を伝えると、人員的な問題と予算に関する話を受けた。


当然ながら国家予算として使える金額の上限はあるのだが、初年度は行政に関する予算を優先に捻出する事にしていた為に、決定するのはそれほど難しくは無かった。


その後ザックは産業開発部門に向かい、リアス達の様子を見に行った。


ザック:『調子はどうだ?』


リアス:『あ、ザック様、丁度良かったです。モービィの試作車両がさっき出来上がったので見て頂けますか?』


そこに置かれていたのは、まるで1930年代後期のアメリカ車の様な洒落たデザインのモービィだった。


ザック:『良いデザインなんだけど、少し大きくないか?』


リアス:『まぁこれはあくまでも試作ですからね。ボディを少し大きめに作って乗り降りのしやすさを重視したんですよ。』


ザック:『それで機能面はどうなんだ?』


リアス:『一応ザック様から頂いたリスト通りの装備と走行性能は確保しています。ただ車輪の径に関してはこれから見直す必要はありますね。車両に対して少し大きい気もするので。』


ザック:『それは走行テストを何度も行って決めれば良いよ。問題はコストだけど、一台あたりどのくらいになる?』


リアス:『実は新型の魔動機の構造がかなり簡略化出来たので、全体のコストはかなり抑える事が出来たんです。ステラの考案した術式レイアウトがとても優秀で、魔動機全体もかなり小型化出来たんです。』


ザック:『それは凄いな。それで魔力の使用量は?』


リアス:『かなり少ないですよ。小型の作業用モービィよりも少ない魔力量でかなりの速度が出せますからね。』


ザック:『それを聞いて安心したよ。それでリアスの目から見てステラはどうだ?』


リアス:『正直予想以上ですね。知識だけで無く、開発意欲も旺盛です。この魔動機の術式もそうですが、様々な加工に関する知識も豊富なので開発から製造の一連の仕事を出来る事になります。それに彼女は今後の事を見越してこんな物まで作ったんですよ。』


少し興奮気味なリアスは棚から消火器ほどの大きさのボトル缶の様な物を持って来た。


ザック:『これは何だい?』


リアス:『これは、魔力を蓄積する装置です。一定量の魔力を蓄積して、その魔力を一定の力で放出する事が出来るんです。これが有れば魔法を使えない者でもモービィを運転出来るかも知れません。』


ザック:『それって凄いじゃないか!ちょっとステラを呼んでくれ、直接話を聞こう。』


リアスはラボラトリーからステラを連れて来た。


ステラ:『お久しぶりです陛下。』


ザック:『やぁステラ、随分と頑張ってるみたいじゃないか。』


ステラ:『お陰様で。でも私がこんなに贅沢な環境で働かせて貰って、本当に良いんですかね?』


ザック:『こっちが頼んだんだから良いに決まってるだろ?それよりステラ、この装置なんだけど・・・。』


ステラ:『あぁ、これですね。これは魔力を蓄積して、一定量ずつ放出する装置です。小型化する為に大量の蓄積は出来ませんでしたが、これより大きなサイズならモービィをかなりの距離走らせる事も可能ですよ。』


ザック:『もしかしてこれも帝国のファクトリーで作ってたのか?』


ステラ:『いいえ、これは私のオリジナルです。以前何かに応用出来ないかと開発メモを残しておいたんです。こんなのを軍事転用されたら相当危険ですからね。』


ザック:(ちょっと驚いたな・・・。この子の技術はこの時代のかなり先を行っている。それにこの技術を更に進化させれば、ある種の永久機関を作る事も可能かも知れない。どうする?この子に話すべきか?いや、もう少し様子を見る方が無難だな。)


リアス:『実はこの技術を元にして、陛下の言っておられた発電設備を作ってみようかと思っています。その開発が上手く行けば、アーデンや周辺の町を夜に照らす事が出来ますので。』


ザック:『確かに良い案だとは思うけど、問題はコストだな。現段階では新規の開発に出せる予算はほとんど無いんだ。』


リアス:『そんな事も有ろうかと、実は商品化を予定していた物の中で、すでに出荷が可能なレベルまで完成した物があるんですよ。』


ザック:『どんなの?』


ステラ:『こちらですよ。』


ステラが装置のシートを剥がすと、小型の冷蔵庫らしき物が2台あった。


ザック:『これはもしかして冷蔵庫か?』


リアス:『はい、冷蔵庫と製氷機です。デザインに関してはもう少し手直しが必要ですが、外観の問題さえ解決すればいつでも出荷が出来ますよ。』


ザック:『デザインに関しては俺が戻るまで待ってくれ。それとこの2つにさっきの装置の設置が可能な様に改良してくれないかな?』


リアス:『それは構いませんが、それならいっそマナリアクターを接続した方が良くないですか?』


ザック:『そのマナリアクターって何?』


ステラ:『空気中のマナを取り込んで、魔力に変換する装置です。モービィみたいに瞬間的に高い魔力を必要とする物には使えませんが、この冷蔵庫の様に一定の低い魔力を継続的に使うなら、長期的使えますし手間も掛からないかと。』


ザック:『結構便利な物があるんだな?』


すかさずリアスがザックに耳打ちする様に話し出した。


リアス:『実は例の飛行機に使われている技術を転用して作ったんです。さすがにあれほどの精度では作れないので、低出力の物を作ったんですよ。』


ザック:『なるほどな、てかあの飛行機ってそんな凄い技術使ってんのか・・・。』


ステラ:『もし任せて頂けるなら、マナリアクターの強度と出力を少し向上して冷却機と一体にしますが如何ですか?』


ザック:『それで時間はどのくらい掛かりそうかな?』


ステラ:『そうですねぇ、機構的にはさほど難しくは無いので、10日ほどもあれば出来ますよ?』


ザック:『それじゃあ頼むよ。生産ラインの手配はこっちのデザインが出来てからにしてくれ。』


リアス:『了解しました。』


その後ザックは使用人達の元に向かった。


建国以降、使用人達は裏方役に徹していたうえに、ザック自身が多忙だという事もあって会える時間も少なかったのだ。


奴隷から解放してからはザックの専属使用人となったが、建国時に雇った他の使用人達の指導役としても働いているので、彼女達もかなり忙しかったらしい。


この数週間はザック達が視察の旅をしていたので、少しは時間にも余裕が出来た筈だ。


ザック:『やぁ、久しぶりだね。』


ザックの声に驚いて振り向いたのはサリーだった。


サリー:『え!?ザック様!?いつお戻りに!?』


ザック:『さっきセレンティから転移して来たんだ。一通りの視察が終わったから、あと数週間で戻れるよ。』


サリー:『そうでしたか。こちらは使用人がかなり増えたので、私の仕事は随分と楽になってしまいました。』


サリーは苦笑いをしながら首を傾げて言った。


ザック:『じゃあ俺達が帰ったら、久々に身内だけで数日のんびりしようか。』


サリー:『宜しいのですか!?・・・でもあの御屋敷は医療施設に改装されたんですよね?』


ザック:『それなら心配要らないよ。あの屋敷より南に少し行った所の屋敷を別宅としてとってあるから。間取りや敷地の造りがあの屋敷と同じだし、家具やキッチンの配置とかも同じにしてあるよ。』


サリー:『そうなんですか!?それならフェルテ達にも早速その事を知らせます!』


サリーは満面の笑みを浮かべ、とても喜んでいる様だった。


ザックにとって彼女達と屋敷で過ごしていた頃が、最も心安らぐ時間だった。


立場や身分こそ変わってしまったが、あの頃の生活を基盤にした形に戻すつもりでいたのだ。


その後雑用を幾つか済ませて、ザックはセレンティに戻った。

お読み頂き有り難う御座いました。

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