表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の使徒になりました。  作者: KEMURINEKO
第3章 皇王の務め。
51/77

第50話 東への旅とアンの笑顔と。

お読み頂き有り難う御座います。


第50話です。

諜報員を確保して数日が経過し、北方の内情が大まかに見えて来た。


ファクトリーによる身勝手な経営と、兵器開発に関する情報も少なからず入手する事も出来たある日、リアスに簡単な兵器を試験的に作る様に指示を出した。


ザック:『こんな奴なんだけど作れるかな?』


図面を見せると、リアスは首を傾げて答えた。


リアス:『う~ん、作れなくは無いと思いますが、これはかなり精密な切削精度が必要ですよ?』


ザック:『そこで長さの単位をこれで統一して欲しいんだよ。』


ザックが見せたのは0.1ミリ単位で測れるノギスだった。


これは以前スマホを使ってサクラに依頼して送って貰った物だ。


銃のメンテナンスに必要だった為に注文したのだ。


リアス:『これはまた随分と緻密に作られた計りですね?』


ザック:『この目盛りの長さを基準にして、使う分の計りを作ってから旋盤や切削機を調整してくれ。この目盛りを基準にすれば、確実に同じ寸法の物が作れるぞ。』


リアスはノギスをマジマジと見ると、笑顔で頷いた。


勿論その間は地下にある飛行機の組み立ては中断となる。



その後はパーティーメンバーと共にザック達がまだ行った事の無い国土の視察に向かった。


特に東側の領土に関しては、アン以外のメンバーはザックを含め誰も行った事が無い。



丘の上にある神殿に顔を出し、神官とサリアに挨拶した。



ザック:『やぁサリア、久しぶり。』


サリア:『ザックさ・・・へ、陛下、ようこそおいで下さいました。』


ザック:『何だよ、随分と他人行儀だなぁ。』


サリア:『だって私は神殿の巫女ですし、ザックさんは皇王陛下になられたんですから、私達が軽々しくお話し出来る筈無いじゃないですか。』


ザック:『俺は前も今も同じだよ。立場や大分が変わったからって、俺自身が変わる訳じゃ無いだろ?それに近い将来、うちのパーティーに入るんじゃ無かったのか?』


サリア:『それはそうですけど・・・。』



もじもじしているサリアにアンが歩み寄った。


アン:『ねぇサリア、何ならこれから東部の国土の視察に付き合わない?』


サリア:『え!?でも私は神殿のお勤めが・・・。』



神官:『行って来なさい。』



神官がサリアに優しく語りかけた。



サリア:『神官様!?よ、宜しいのですか!?』


神官:『えぇ、行って来なさい。行って皇王陛下の助けになって差し上げなさい。なに、神殿の事は心配要りませんよ。それにお前はもっと広い世界も知る必要があります。皇王陛下、どうかサリアを宜しく頼みます。』



こうしてサリアを迎えたザック達は東の最初の町、ルゾフへ向けて出発した。



ザック:『なぁアン、アンが住んでたエルフの森ってかなり東にあるんだよな?』


アン:『そうよ?まぁ行ったところで普通の集落だけどね。』


ザック:『俺の居た世界だとエルフってベジタリアンなイメージだったんだよなぁ。』


アン:『そうなんだ。でもエルフだって体の作りは人属と同じだもの、野菜ばかり食べてたら筋力も落ちるし体力も付かないわよ。』


ザック:『なんか急にファンタジー感薄れたな。でも今じゃこっちの世界が現実なんだよなぁ・・・。』


アン:『・・・ねぇザック、やっぱり向こうの世界に未練てある?』


ザック:『無い・・・て言ったら嘘になるかな。でも俺はこっちの人間だしな。それにこっちの世界には大切な物が増え過ぎた。そして今では大きな責任もあるからな。』


アン:『私達もザックが大切よ。パーティーメンバーだけじゃ無いわ、ザックに出会った人達みんながザックを大切に思ってる。』


アンはあえて自分のザックへの想いをストレートには言わなかった。


言ってしまえば今の幸せが逃げてしまいそうだと思ったからだ。


だがザックはその気持ちを全て気付いていた。


それ故にあえてそれ以上は聞かなかったのだ。



この東の街道は昔から広く、モービィやキャラバンが通っても十分な余裕がある。


元々定期馬車が通っていた事もあるが、この街道は元々ランスからセレンティまでの物流の動脈だったからだそうだ。


この街道は盗賊の被害に会う危険が少ないそうで、理由は途中にエルフの森がある事が一つの理由となっている。


かつての盗賊はエルフの持つ不思議な能力を恐れ、敬遠していたと言われている。


いつしかそれがエルフに関わるとロクな事にならないという慣わしになった様だ。


もっとも多種属が普通に交流する様になったのは900年前の事だ。


それまでは種族ごとに住み分けを行って、互いに干渉しない様にしていたらしい。


エルフ属は古くからの風習を重んじる事が多い為、今でも独立した文化を築いている事が多い。


アンの様に人里に出て生活する者も居れば、森で一生を送る者も結構居るらしい。



ふと目をやると峠道特有の景色が拡がる。


所々に小さな集落があり、町とは違った生活を垣間見る事が出来る。


ザック達はその中の一つの集落に降り立った。


その集落には商店や宿屋はほとんど無く、全ての民が助け合って暮らしている。



農婦:『おや、他所からの人が来るなんて珍しい事もあるもんだね。どちらから来なすったんだい?』


ザック:『はい、アーデンから来ました。』


農婦:『そうかい、アーデンは随分と賑やかになったらしいねぇ。なんでも新しい国が出来たっていうじゃないか?』


ザック:『はい、アーデリア皇国という国が出来ました。ここもその国なんですよ?』


農婦:『おや、そうなのかい?こんな山の中の小さな集落じゃ世間の話に疎くてねぇ。そうだ、あんた達、良かったらここの名物でも食って行くかい?』


アン:『ねぇおばさん、どんな物が名物なの?』


アンが食い気味に聞いて来た。


農婦:『ここの名物はラプセルって具が多いスープだよ。塩辛くした豆のペーストと干しきのこの出汁に野菜・肉・香草を入れて煮込んだ物なんだ。』


ザック:『それは旨そうだな!是非頂いて行こう!』



ラプセルは豚汁に似た汁物で、ペーストの持つ香りや口当たりは味噌その物と言っても良い程だった。


アン:『わぁ!これ美味しいわね!』


ザック:『何か懐かしい味だな!これは旨い!』


メル:『ホッとする味ですね。』


ローラ:『素朴で良いお味ですぅ!』


サリア:『素晴らしいお味です。』



皆が口々に絶賛していた。


もっとも城には味噌があるので、パーティーメンバーのみんなは近い味を知っているのだが、やはり出汁の種類が違うだけで味はかなり変わる。



サリアは時々大衆浴場の食堂に食べに来ているので抵抗も無い様だ。


農婦:『こんな山の中じゃこんな物しか無いけど、良かったらたらふく食べて行きなよ。』


ザック:『おばさん、これに使ってる塩はどうやって手に入れてるんです?』


農婦:『この辺では塩の岩がよく取れるんだよ。この辺は谷も深いから川魚を取るのも大変なんだ、だから取れる時にある程度まとめて取ってこの塩で漬けてから天日干しにしたりもするんだよ。』


アン:『ふぅ~ん、この辺りは岩塩が取れるのねぇ・・・。ん?あれ?もしかしてアーデンの市場で売ってる岩塩って・・・。』


農婦:『あぁ、多分この辺りのどっかの集落が持って行ってるんだろうねぇ。ここの集落は年配者が多いからねぇ。』


それを聞いたザックは、地方における高齢化に関しての課題を感じていた。


ザック:(そうか、やはり高齢化が進んでいる集落も結構あるんだな。やはり役場や治療院なんかも考える必要があるし、農産業に関しても対策をする必要があるな。)


現在の日本がそうである様に、大型都市化が進む一方で地方の過疎地域に関しては高齢化が進む事が多い。


この世界もまた同じで、若者は都市部に集まり、商人や冒険者として生計を立てている。


その分農業や畜産、更には紡績などという産業に関しては若者の雇用率が低いのだ。


ザックの政策により一次・二次産業の安定化は図られたのだが、こういった山岳部までは浸透していない。



ザック達は集落を離れ、街道を東に向かった。


山岳部から平地に出ると小さな町がある。


ハーブ農園を囲む様に作られたその町はエルサック。


峠の宿場町であり、アーデンへ一番多くのハーブを卸している町だ。



ザック:『こりゃ綺麗な町だな。』



まるで北欧ヨーロッパを思わせる町並みと町中に香るハーブの匂いに、パーティーメンバーは自然と笑顔になった。


町の中央にある泉のお陰で、常に水路には水が流れている。


泉から引かれている水道もあり、生活水準は極めて高い様だ。


町の兵士局にモービィとキャラバンを預け、この日の宿をとる事にした。


兵士局から用意された宿屋で羽を伸ばして居ると、サリアは神殿に顔を出して来ると出掛けて行った。



メルとローラも町を散策がてら必要な物を買って来ると出て言ったので、久しぶりにアンと二人でのんびりする事にした。



ザック:『アン、こうしているとムーランで暮らしてた頃を思い出さないか?』


アン:『ははっ!今私も同じ事を言おうと思ってた所よ。』


ザック:『あの頃とは状況が変わってしまったから、こうしてアンとのんびりする時間も減っちゃったよなぁ。』


アン『建国が決まってからは、ずっと外交ばかりだもんねぇ。なんなら王様やめちゃう?』


ザック:『それが出来りゃ苦労は無いよ。でも俺がこの世界に転生出来たのはこの世界の管理者になる事が条件だしな。下手すりゃ神様の怒りを買って殺されかねない。』


アン:『さすがにそれは無いわよ。でも他の国の王様は許さないかもね。』


ザック:『俺が使徒だとベルクレア陛下に知らせたのが間違いの元だよなぁ。』


アン:『シンクレア王女の命が狙われていたから仕方無かったけどね。やっぱりあの件が伏線だったのよね。』


ザック:『あれから急に忙しくなったからな。名誉騎士団に領主、そんで今じゃ王様だ。力を得るのは大事な事だが、あまりに大きな力は負を産みかね無いからなぁ。』


アン:『力は手段の一つに過ぎないわ。その力をどう使うか、使う人が未来をどう見据えているかなのよ。エルフ属は人属より魔力や体力が高いと言われているわ。でもその力を行使して権力を望まなかったのは、大きな力を束ねる事の難しさを知っていたからよ。人属や魔族の戦争を側で見ていたからだわ。』


ザック:『アン、悪いが俺は戦争で世界を救うつもりはないよ。俺は様々な力を手に入れた。能力・権力・兵器。それ等を駆使すれば今直ぐにでも世界を手に入れる事も不可能じゃ無いと思う。でも俺にとって力は誇示する為のものでも無ければ、人々を平伏させる為のものでも無い。他の力から人々を守るための手段に過ぎないんだ。』


アン:『うん、知ってる。そんな人だから私は貴方を好きになったのよ、ザック。』


ザック少し予想と違う返事に戸惑ってしまった。


アン:『も、もちろん私だけじゃ無いわ。パーティーのみんなやザックに笑顔を向けてくれる人達みんながそう思ってる。・・・だから安心して力を振るいなさい。』


そう言って微笑んだアンの顔は、絵画に描かれた女神の様に美しかった。

お読み頂き有り難う御座いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ