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神の使徒になりました。  作者: KEMURINEKO
第1章 闇の奴隷商人。
5/77

第5話 護衛と夜襲と。

第5話です。


お読み頂き有り難うございます。

時間にすると午前4時ぐらいだろうか。


日の出まではまだ2時間ほどある。


ベッドから這い出て顔を洗い、ポットでお湯を沸かす。


今朝は護衛の仕事があるので食堂で朝食を取れない。


神様から貰ったダンボールの中にカップラーメンが幾つか入っていたので、アンと食べようと思った。


ほどなくしてアンが起きてきた。


アン:『ザック起きてる?』


ザック:『起きてるよ、入って。そこに座ってて。』


カップラーメンにお湯を入れてテーブルに持っていく。


アン:『これは何なの?』


ザック:『即席料理みたいな物だよ。』


だいたい出来上がりの時間になったので、蓋を開けてフォークと一緒にアンに渡す。


ザック:『そのまま食べられるから食べてみて。』


アン:『・・・美味しい!!何!?これどうやって作ったの!?』


ザック:『これはお湯を入れて少し待つだけで食べられるんだ。』


アン:『え!?お湯を入れるだけ?たったそれだけでこんなに美味しいの!?』


ザック:『凄いだろ?乾燥したヌードルと具材に乾燥させて粉にしたスープが入ってるんだ。ただ乾燥させた訳じゃ無くて、お湯を入れてしばらく待つと丁度良くなる様に作られてるんだ。』


アン:『昨日も思ったけど、ザックの住んでた所ってこういうの本当に凄いわね。魔法でもこんなの作れないわよ?』


二人はカップラーメンでお腹を満たすと冒険者ギルドに向かった。



ギルドの前にはすでに3台ほどの荷馬車が並んでいた。


ギルドの前で荷馬車を眺めているとカリンが声を掛けて来た。


カリン:『ザックさん、アンさん、お早いですね。』


ザック:『おはようございます。今日は宜しくお願いします。』


カリン:『ザックさん達は先頭の馬車に乗って下さい。何かあったら笛で合図しますので。』


アン:『カリンさんはどちらに乗るんです?』


カリン:『私は一番後ろで後方を監視しますので。』


ザック:『分かりました。』



一通りの準備が終わり、日の出を待ってから出発する。


中央広場から南へ向かい、南門を抜けて街道に出る。


農村地帯の橋を渡り、しばらく行くと林の中に入る。


ふと右側を見ると、明らかに旅人や冒険者とは違う一団が歩いて居た。


ザック:『あの一団は何?』


馬操者の男に聞いてたみた。


馬操者:『あれは王都の傭兵団ですな。南の砦からの帰りですね。ほら、旗が見えるでしょ?』


確かに王国軍の旗が見える。


ザック:『アン、一応警戒しておこう。もしかすると傭兵団に盗賊が紛れている可能性がある。』


アン:『分かったわ。』



傭兵団が通り過ぎて30分ほど走ると笛が聞こえて馬車が停まった。


ザック:『来たか!』


二人は馬車から飛び降り後方へ向かう。


そこにはカリンと向き合う盗賊が3人。


ザック:『アン、前側を警戒してくれ!』


アン:『了解!』


カリンが盗賊に睨みを効かせる。


1人の盗賊はニヤリとするとカリンに斬りかかった。


後ろに居た盗賊も続いて襲い掛かる。


ザックは銃を抜き、後ろから迫る2人の盗賊を撃ち抜いた。


2人の盗賊はその場に崩れ落ちる。


アン:『ザック!来たわよ!』


アンの声に振り返ると前からも3人の盗賊が向かって来た。


アンが弓を置き、短剣で1人を相手にする。


すかさず残りの2人を銃で撃ち倒し、アンが身を伏せた所を見計らって、残りの1人の脚と肩を撃ち抜いた。



ザック:『アン、そいつを縛ってくれ。』


後方を見るとカリンも倒した様だ。


カリン:『ザックさん、助かりました。さすがに3人を相手にするのは分が悪かったです。』


ザック:『無事で良かったです。』


カリン:『ところでザックさん、その武器は?見た事無い武器ですが・・・。』


ザック:『これは銃という武器です。魔物相手には向きませんが、盗賊相手なら使い勝手が良いんです。』


カリン:『でも一発で倒すなんて凄い武器ですね・・・。』


アン:『ザック!縛りあげたわ!』


アンの方に行くと盗賊が睨みながら喚いていた。


盗賊:『てめぇら、俺にこんな事をしてタダで済むと思ってんのか!』


ザック:『人の命狙っておいて言うセリフじゃ無いよな。おたくには聞きたい事が沢山ある。簡単に兵士に引き渡すと思ったら大間違いだぞ。』


銃を突き付けると盗賊の男は顔が青ざめた。


ザック:『コイツの威力は体感済みなはずだ。痛いだけで済まない事もな。何ならお前の両手両脚を順に撃ち抜いてやっても良い。少しは饒舌になるだろう。』


そう言うと盗賊は肩を落とした。


その時、物陰から矢が馬車に向かって飛んで来た。


寸前でかわし、飛んで来た方を見るとフウドを被った男が慌てて逃げ出した。


ザック:(深追いはやめた方が良さそうだな。)


アン:『大丈夫!?』


アンが心配して駆け寄って来た。


ザック:『あぁ、大丈夫だ。』


撃ち込まれた矢を見ると、紙が結んであった。


紙を広げると【我々の邪魔をする者は何処の誰であろうと必ず殺す。】とあった。


恐らく暗殺の請け負いもやっている盗賊なのだろう。


ザック:『どうやら敵さんは暗殺も請け負っているらしいな。』


それを聞いてカリンが言った。


カリン:『暗殺まで出来る盗賊はそんなに多くありません。もしかすると、冒険者から殺し屋に転職した者が盗賊と組んでいるのかも知れません。』


ザック:『盗賊とやり合う以上、報復は覚悟していましたが狙われる側っていうのはあまりいい気はしませね。』


カリン:『ギルドでも警戒はしますが、一応宿でも気を付けて下さい。』



周囲の安全を確認してから盗賊を取り調べた。


盗賊からは少しではあるが情報を聞き出せる事が出来た。


闇の奴隷商人はいくつもの盗賊を抱き込んで誘拐させている事、今回捕らえた盗賊はこの辺りでもすでに何件かの誘拐をしていた事。


誘拐された亜人種の女性の行方までは聞き出せ無かった。



再び発車して、途中に休憩を挟んだ後、馬車の中でカリンさんに問い掛ける。


ザック:『ちょっとやり過ぎましたかね?』


カリン:『やり過ぎ・・と言うか、ザックさんが敵では無くて良かったと思っています。』


カリンは半分呆れた様に答えた。


すでに林を抜け、農村地帯に入っていた。


ここまで来れば盗賊は出ない。


捕らえた盗賊に回復魔法を掛ける。


銃による傷跡を消す為だ。


ほどなくしてリースの町が見えて来た。


後々の事もあるのでギルドとしての方針をカリンに聞く。


ザック:『盗賊は兵士に引き渡すんですか?』


カリン:『そうなりますね。聞き出した情報も教えて、今後の捜索に役立ててもらいます。』


アン:『ギルドでは捜索をしないんですか?』


カリン:『あくまでもギルドは独立した組織ですから、捜索の権限が無いのです。下手に行動をすれば捜索妨害と取られてもおかしくないので。』


ザック:(じゃあ俺が下手に動く訳には行かないか。)


ザック:『分かりました。では兵士団におまかせですね。』



門を抜けてギルドに到着すると、町の兵士団の詰め所に捕らえた盗賊を引き渡す。


他の盗賊の腕と武器も一緒に出すと、懸賞金が貰えた。


6人で240.000ジルだ。


かなり高額の懸賞金だったので全員が驚いた。


この盗賊達は何重にも懸賞金が掛かっていた為にこんな金額になっていたそうだ。


カリンは自分の分は要らないと言っていたが、半ば強制的に受け取ってもらった。


盗賊1人頭40.000ジルの稼ぎという事になる。



ギルドに戻り、アンと二人で片付けを手伝う。


カリンは護衛の仕事だけで良いと言っていたが、手が空いてるからと申し出た。


ザック:『これで大体終わりかな?』


アン:『ザックお疲れ様、紅茶入れたから飲んで。』


カリンと3人で紅茶を飲みながら、帰りの事を話した。


カリン:『帰りはアーデンに戻る兵士も同行する事になりました。』


ザック:『盗賊が出たからですかね?でもそれは心強いですね。』


アン:『兵士さんが居るなら少しは安心出来そうね。』


カリン:『兵士が同行するのは良いんですが、ザックさんのその武器を見せて良い物かと思って・・・。』


ザック:『兵士さんが同行するならこの武器をしまっておきますよ。剣もあるし魔法も使えますので。』


アン:『そうね、その武器は強力すぎだものね。』


カリン:『そうして頂けると助かります。変に勘ぐられるとザックさんが調査対象になりかねませんので。』



荷馬車の準備が整うまで時間があるそうなのでカリンを交えた3人で早目の昼食を取る。


この町の料理はシチューの様な物が多いらしい。


こっちの世界でもチーズがあるそうで、シチューにチーズを削って入れて食べるスタイルが一般的な様だ。


向こうの世界との共通点が有ると嬉しくなる。


ザック:『カリンさんはリースによく来るんですか?』


カリン:『月に1度は来ますね。ギルドが無かったので兵士団の詰め所で冒険者の登録などの仕事をしているんです。』


ザック:『じゃあこれからはわざわざリースに来なくても良くなるんですか?』


カリン:『そうですね。リースのギルド長もアーデンで研修はしたので大丈夫だと思います。』


するとアンがカリンに話し出した。


アン:『シルビアさんに聞いたんですけど、カリンさんってゴールドランクだったんですね?二つ名まで持ってると聞いて驚きましたよ。』


カリン:『王都に居た頃の話ですよ。アーデンのギルド長になってからは実戦をほとんどしていませんから、他のゴールドランカーに比べると技量は落ちてると思います。』


アン:『えぇ!?でもアーデンのゴールドランクの人では敵は居ないってシルビアさんが言ってましたよ?』


ザック:『俺もそう聞きましたし、さっきの剣裁きは凄かったですよ。』


カリン:『でもザックさんが後ろに居た2人を倒してくれなかったら結構危なかったと思いますよ?そう言えばさっきの武器を少し見せては貰えませんか?』


カリンが銃を見たいと言うので、マガジンを外し弾を抜いて渡す。


カリン:『これはどんな仕組みになっているんですか?』


ザック:『この弾薬の後ろを銃のハンマーが叩くと、中の火薬が炸裂して先端の弾頭が飛んで行く仕組みなんですよ。』


カリン:『この本体はどうなってるんです?』


メンテナンス分解をして説明すると、よほど関心を持ったのかマジマジと見ていた。


カリン:『こんなに精巧な部品は見た事無いです。何か文字の様な物が刻印されていますけど、何処の国の文字なんでしょう?』


ザック:(う~ん、どう言えば良いかな?カリンさんって結構学が有りそうだから、下手な事言うと突っ込まれそうなんだよなぁ。)


ザック:『これは暗号の様な物なんです。あまりに強力な武器なんで、製法や組み立て方を他人に知られない様に書かれているんです。』

(ごめんなさい!真っ赤なウソです!)


カリン:『なるほど。確かにそうでしょうね。これだけ複雑で精巧な作りの武器なら、真似をしようにも作れる人は居ないとは思いますけど。』


ザック:(良かったぁ、何とか誤魔化せたみたいだな。)



荷馬車の準備が整い、リースを後にする。



林の中に入ると警戒をしたが、怪しい人物は見当たらない。


物陰に潜む盗賊も居ない様だ。


同行している兵士達から話し掛けられた。


兵士:『盗賊が出たのはこの辺りか?』


ザック:『もう少し先だったと思います。丁度街道の脇に小路が走っている所でした。最後に矢を撃ち込まれたのがその小路からでしたから。』


兵士:『なるほど。それにしても盗賊6人を相手に、ゴールドランクが1人居るとはいえ、ブロンズ2人が倒すとはな・・・。』


カリンが口を挟む。


カリン:『こちらのザックさんはスキルがノワールの判定が出ている方です。経験こそ少ないですが、戦闘時の立ち回りはかなりのものです。』


ザック:(ちょっとカリンさん!何言ってくれてんの!)


兵士:『ほう!それは頼もしいな!ザックとやら、今度手合わせを願えるかね?』


ザック:(ほら、こうなるんだから。)


ザック:『き、機会がありましたら。』


小声でカリンに文句を言う。


ザック:『ちょっとカリンさん!内密にって言ったじゃないですか!』


カリン:『でもブロンズの冒険者が盗賊を数人相手に倒したなんて、どう考えてもおかしいじゃないですか。別にスキルの内容まで話した訳じゃ無いんですから勘弁して下さい。』


盗賊と戦闘した場所に着くと、荷馬車が停車して兵士達に状況を説明する。


銃を使った事は隠して魔法を使った事にした。


兵士が周囲を見渡して口を開く。


兵士:『なるほど。此処なら襲撃には適しているだろうな。』


もちろん薬莢は戦闘の後に片付けてある。


兵士:『う~ん・・・ひとつ気になったのだが、先程の説明では先に後方から、続いて前方から3人ずつ現れたのだろう?』


ザック:『そうですが何か?』


兵士:『いくらカリン殿がゴールドランクとはいえ、1度に3人もの盗賊を相手にするのは無理ではないのか?』


ザック:(いや、ごもっともなご意見です。)


ザック:『前方からの盗賊が現れるまでには少し時間差がありましたので、1人に前側の警戒を任せてその間に攻撃魔法を2人の盗賊に叩き込みました。』

(ちょっと苦しいかな?)


兵士:『そういう事か、ならば納得もいく。しかしそのとっさの判断と行動力は大したものだ。』


ザック:(良かったぁ~)


ザック:『子供の頃から大人数で喧嘩とかしてましたからね。』


頭をかきながら答える。


兵士:『なるほどな、相当やんちゃだったという事か。ハハハハ。』


兵士はザックの云わんとした事が解った様だ。



荷馬車が再びアーデンへ向けて出発した。



林を抜けて丘の頂上を越えると、前方に今朝すれ違った傭兵団が道を防いで居た。


兵士達が近付き話を聞きに行く。


どうらや川に掛かってる橋が壊されているらしい。


ザック:(もしや盗賊がやったのか!?)


現場を見に行くと、確かに橋が壊されている。


傭兵団は野宿しようとしている様だ。


カリンが厳しい顔をして呟いた。


カリン:『困りましたね・・・これではアーデンに戻れない。』


道の脇に目をやると、細い街路樹が並んでる。


川幅はそれほど広く無い。


水深も思ったほどでは無い様だ。


土手の傾斜は緩やかだし土質も柔らかい。


ザック:(材料も揃いそうだし、これなら大丈夫かな?)


ザック:『なら橋をつくりますか?』


ザックの言葉にカリンが目を見開く。


カリン:『え!?作れるんですか!?どうやって作るのですか?』


ザック:『いやなに、そこの街路樹を使うんですよ。』


カリン:『どういう事ですか?』


ザック:『文字通り切って削って繋いで作るんですよ。俺のスキルと魔法と、ちょっとした工夫でね。』


ザックのスキルにはパワーライズがある。


今まで使う必要が無かったので使わなかったが、切り倒した木を運ぶのには打ってつけだ。


人手に関しても傭兵団ほどの人数さえ居れば簡易的な橋を作るのに問題は無い。


ザック:『悪いんですけど、傭兵団の皆さんに手伝って貰えますか?』


傭兵:『あ?あぁそれは構わんが、何をすれば良いんだ?』


ザック:『まずは簡易的な設計図が必要か・・・。大きな紙とペンは有りますか?』


傭兵団が使っている作戦指示書用の紙に、大まかな設計図を書く。


ザック:『それじゃあ俺の指示に従って作業して下さい。アンは木を風魔法で切ってくれる?』


アン:『良いわよ。何本ぐらい必要?』


ザック:『取り敢えずこの辺にある街路樹を全部切ってくれ。』


アン:『ぜ、全部!?わ、わかった。』


各パーツの長さを書き、材料を風魔法で切る。


打ち付けに必要なハンマーとスコップは木で作った。


大まかに加工をしたら各パーツにナイフでこじって穴を空け、木を削ってクサビを作る。


手前の岸から作業を始める。


橋の内側のフレームを作り、川の中に突っ掛え用の丸太を落としてフレームを支える。


同じ様に荷馬車の幅より広くなる様に外側のフレームを作ってそこに足場も作り、向こう岸に渡る簡易通路を作る。


両岸から同じ高さになる様に紐を渡し、フレームのバランスが同じになる様になる様に矢印にする。


あとは同じ工程を向こう岸から行って橋の真ん中のジョイントを補強する。


天板となる部分は丸太をホゾ打ちした上から板で平らに仕上げた。


荷馬車を通さなければならないので橋の上に土を盛って段差を埋めてやれば一丁上がりだ。


兵士1:『これほどまでに効率的に橋が出来てしまうとは・・・。』


兵士2:『金具も使わずに木材を固定するだなんて聞いた事も無い。』


兵士が驚いていた。


ザック:(まぁ、橋脚の台座が無いからアーチ橋を参考にしたんだけどね。釘やボルトが無いから宮大工の技術を真似して使ったけど、上手く行って良かった。)


ザック:『これはあくまでも簡易的な橋なので、後日きちんとした橋を作って下さいね。』


アンとカリンも呆気にとられている。


それもそのはず、僅か4時間程度で作ってしまったのだ。


ザック:(もし盗賊が橋を壊したんだとしたら、野宿をさせて夜襲を狙っているはずだからな。)


兵士に話し掛ける。


ザック:『盗賊の残党が橋を壊した可能性が有ります。橋が直った事で目論みが外れたら、アーデンの町に現れるかも知れません。』


兵士:『何故盗賊が橋を壊したと?』


ザック:『今朝奴等は報復宣言とも取れる手紙を残しています。この橋を通れずに野宿している所を夜襲するつもりで居るとしたら?』


兵士:『あてが外れて町まで来る可能性がある・・・か。』


ザック:『あくまでも仮説ですがね。でも可能性は高いと思います。そこでお願いが有るんですが、今夜から夜間に町の各所に私服の兵士を配備して警戒して頂きたいのです。』


兵士:『そこまでする必要があるのか?相手はただの盗賊だろ?』


ザック:『奴等は一連の誘拐事件の実行犯らしいですから、裏で暗殺専門の殺し屋と繋がっている可能性が高いんです。実行犯の1人が捕まって自白しているとなれば、確実に口封じや見せしめの為に俺達を殺しに来るはずです。』


兵士:『なるほど、そういう事か。よし!アーデンの兵士団に言って町の各所に配備させよう。』


ザック:『でしたらムーランという宿屋にも1人か2人お願い出来ますか?俺とあちらのエルフの子が滞在している宿なので。』


兵士:『よし、手配しよう。』



無事に橋を通過してアーデンに戻って来た。



ムーランには私服の兵士2人が泊まり、表にも兵士が見張る事になった。


アンはザックの部屋へ移りザックと共に警戒する。


盗賊がエルフであるアンを狙うのを見越しての作戦だ。


カリンの自宅にも兵士が張り込む事になっている。


メリアとダイソンにも事情を説明し、少しでも不振な所がある宿泊客が来たら知らせて貰う事になっている。


ザック:『一応これでやれる事は全部やったかな?』


アン:『ねぇ、私がザックと同じ部屋で一緒に寝泊まりしても本当に良いの?』


ザック:『今は非常時だし、そんな気分にもならないだろ?』


アン:『ま、まぁそりゃそうだけどさぁ・・・でも今日のザックってなんか凄いね。』


ザック:『そう?』


アン:『だって橋を作ってる時とか、一瞬で設計図書いてたし、傭兵さん達に指示する時とかも的確だったし。』


ザック:『それは時間も無かったし、状況が状況だったからね。』


アン:『それに兵士の人達にも全部ザックが指示出してたじゃん?それって凄い事だと思う。』


ザック:『俺の指示が凄いんじゃ無くて、動いてくれる人達の理解が早いんだよ。どんなに説明しても理解力が低い人達だと統率が取れなくなる。それだけ傭兵団のみんなや兵士の人達が凄いって事だと思うんだ。』


アン:『なんて言うか、色々凄くて驚くのが馬鹿らしくなって来たわ・・・。』


ダイソンが部屋を訪ねて来た。


ダイソン:『ザックさん、良いかい?』


ザック:『どうそ。』


ダイソン:『食堂だとまずいと思って、こっちに夕食を持って来たんだが。』


ザック:『わざわざすいません、他のお客さんは大丈夫ですか?』


ダイソン:『えぇ大丈夫です。誰も気付いて無いですよ。』


アン:『ご迷惑おかけします。』


ダイソン:『気にしなさんなよ。あ、これ二人分ね。』


ザック:『有り難うございます。』


ダイソンが部屋を後にする。


ザック:『さ、食べようか。』


夕食を食べた後で交代で入浴した。


入浴後、ダンボールから出したチョコチップクッキーを紅茶を飲みながら食べる。


正直クッキーなら作り方を知ってるので、こっちの食材でも作れる。


こっちの世界だとビスコッティはあるらしいが。


甘い物は緊張を解すのには丁度良いのだ。


アンが盗賊や暗殺者の事で緊張してるはずだ。


盗賊や暗殺者に関しては俺が護衛の仕事を受けた事で起こった事なのだから、せめてもの罪滅ぼしだ。


アン:『これとっても美味しい♪』


好評な様だ。


アン:『ねぇ・・・ザック?』


ザック:『ん?』


アン:『もうちょっと食べたい・・・。』


ザック:(可愛い。)


ザック:『今出すからちょっと待っ・・・っ!!』


ガタガタガタッ!


アンの部屋の方が騒がしい。外でも兵士達が数名を取り囲んでいる。


ザック:『アン!部屋の奥に隠れてろ!』


部屋の扉を開け廊下を見ると、アンの部屋の扉が開いている。


短剣を取り廊下に出る。


廊下に誰も居ない事を確認してからアンの部屋を慎重に覗く。


誰かが押さえつけられている。


部屋の入口に立つと、押さえつけられているのが暗殺者だと気付く。


部屋は揉み合いであちこち破壊され、部屋に置いてある物は散乱していた。


次の瞬間、暗殺者は兵士を跳ね退けてこちらに向かって来た。



暗殺者:『盗賊どもの尻拭いは不満だが、これも仕事だ。悪く思うなよ小僧!』


ザック:(さすがは暗殺者ってとこか。だがしかし・・・。)


ザック:『アンタ、暗殺者になってから日が浅い様だな。こんな狭い所で、そんな大剣は振り回せないぜ?。』


暗殺者:『うるせぇ!!』


案の定、暗殺者が振り上げた剣は扉の枠に刺さる。


ザックはそのまま大剣を持った腕と両脚を短剣で斬り付けた。


続けて兵士が大剣を取り上げ暗殺者を押さえつける。


宿の外ではもう1人の暗殺者が捕らわれていた。


ザック:『ここはお任せします!』


ザックは急いで自分部屋に戻った。


ザック:『アン!無事か!』


アン:『うん!大丈夫!』


ザックはアンの部屋に戻り、兵士と2人で暗殺者を縛り上げた。


その後しばらくして1人の兵士が部屋にやって来た。



兵士:『ご無事でしたか。ザック殿の言っておられた通り、町の各所で盗賊と思われる者達と暗殺者が数名、そして身元不明の怪しい男が2名捕らえられました。』


ザック:『それで兵士団の方々の被害は!?』


兵士:『2人腕を負傷した程度で済みました。それと明日兵士団長から改めてお話があるそうなのでお越し下さい。』


ザック:『分かりました。明日伺います。』


兵士:『ではこれにて。』



兵士が帰るとメリアとダイソンが部屋に来た。



ダイソン:『大丈夫でしたかい?』


ザック:『えぇ、お陰さまで。』


ダイソン:『一応アンさんのお部屋は修繕しますので他の部屋にお移り頂く事になるんですが。あ、修繕費は町の兵士団から出るそうなので費用の心配は要りませんぜ?』


アン:『あの、それなんですが、それまでザックの部屋に泊まっても良いですか?』


メリア:『でも・・・その、ザックさんは・・・。』


ザック:『俺からも頼めないかな?さっきの件もあるし、アンも不安だと思うから。』


メリア:『そうですねぇ、ダイソンさん、どうします?』


ダイソン:『まぁ、部屋を直すまでなら良いでしょう。』


ザック:『有り難うございます。じゃあアン、荷物を運ぶの手伝うよ。』


アン:『うん、有り難う。』


アンの荷物を運び終え、落ち着いた所で紅茶を入れた。


ザック:『クッキー食べる?』


アン:『うん!』


ザック:(さっきより多目に出してやるかな・・・。)


その夜、緊張と疲労でいつもより眠りが深かった2人だった。






お読み頂き有り難うございました。

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