第40話 王国と新国と。
お読み頂き有り難う御座います。
第40話です。
レデンティア王国の王宮に戻ったザックとベルクレアは、王宮内の談話室で今後の事について話し合っていた。
ベルクレア:『・・・という訳で、帝国の再建に我が国も含め第三国が関与する事もあるゆえザック殿には早目に一国の君主になってもらわねばならん。』
ザック:『まぁ確かに今回の帝国の一件に関しては俺にも責任は有りますがね・・・でも急ぐ理由って本当にそれだけです?』
ベルクレア:『確かに他にも事情はある。ザック殿には話しておらぬが西方大陸に有る小国【アルゼンヌ共和国】に妾の妹が嫁いでおってのう・・・。』
アルゼンヌの女王リゼリアは今回の帝国との条約締結に関し西方諸国へ今後の帝国との貿易や王国の役割に関してと、西南大陸における一国統治の限界と新国設立に関しての説明をしていた。
西方諸国側としても西南大陸を一国統治のままで置く事に危機感を感じていたようだ。
大きな領土を持つ国はそれだけで兵力が高い。
高い兵力は他国にとってそれだけで脅威となる。
その王国が帝国と条約を結んだ事により、更なる脅威となりうる事を諸外国が危惧していたのをベルクレアは聞いていたのだ。
当然ザックの事やザックが国王候補になっている事もリゼリアは知っている。
ザック:『はぁ、なるほど・・・既に根回しが進んでたって事ですね。ですが建国となれば俺自身が諸外国の君主に説明する必要が出て来ますよね?』
ベルクレア:『勿論そうなるじゃろうな。しかし建国に関しては、その国に接しておる隣国全てが承認を行えば事実上の建国は可能じゃ。今回の場合は妾と海を越えた帝国が承認をする。じゃがそれでは我が国と帝国が何かを企んでおるという疑惑が産まれるでな、同じく大陸内に幾つもの国が接しておる西方大陸の諸国の承認を求める事で他の諸外国に警戒をさせぬ必要があるのじゃ。』
ザック:『諸外国が帝国に持つ印象があまり良く無いという事ですか?』
ベルクレア:『確かにそれもあるが、王国も国交を行っておる国が少ないでな、我が国の内情を理解しておる妹のリゼリアに説明を頼んだのじゃ。今後の事を考えても味方は多い方が良い。』
ザック:(確かに隣国以外の諸国ともバイパスを作っておけば今後動きやすくはなるか・・・。)
ザック『建国するのは良いとして、具体的には何から始めれば良いんですかね?やっぱり法整備ですか?』
ベルクレア:『まずは国家の方針じゃろうな。それいかんでは諸外国の対応も変わって来るじゃろう。妾としては皇国としてザック殿の君主としての基盤を明確にして貰った方が助かる。あまり国民に自由を与え過ぎても新設の国家では問題が出やすいしのう。』
この世界が中世である以上、向こうの世界の様な民主主義を全面に出した国家運営を行うには無理がある。
未だ奴隷制度や貴族制度が存在するこの世界では、民族・宗教に関係無く平等に権利を与える政策は善しとはされないのだ。
君主が民衆を束ねる事こそが国家君主としての義務であり、民衆は君主を支えるものであるという概念が一般的だ。
ザック:『ならば皇国として建国した方が諸外国には印象が良さそうですね。内政に関しては自由にして構わないんですよね?』
ベルクレア:『勿論、なんと言ってもザック殿は使徒様じゃ。ザック殿の奴隷達やパーティーメンバーを見れば、皆が不満無く暮らしておるのは良く解る。現在のアーデンの状況は混乱も無く安定しておるから、ザック殿が君主として皇国として独立しても問題も少なかろう。』
ザック:『それで国の領土の範囲ですが、現在の領地の範囲でよろしいのでしょうか?』
ベルクレア:『それなんじゃが、精査した結果この大陸の南部全域を国土とする予定になった。現在ロムネイブ以外の王国の貴族もそちら側には領地も無いうえに、アーデンより南はシェルバールも含め政府の息も掛かっておらぬからな。』
ザック:『え!?それはいくらなんでも広過ぎじゃないですか!?南部全域といえば国土の三割以上は有りますよ!?』
ベルクレア:『王国としては今後他の地域が独立を画策して謀反を起こすのを避けたい。現在の政策を快く思っておらぬ国民も少なからず居るでな。ザック殿もシェルバールへ行った時に気付いたじゃろうが、南部では各町村毎に自治が確立されておる。騎士局や兵士局が国政の代行をしておるが、王都から離れておる事もあり妾の所に上がって来る情報も少ないのじゃ。』
ザック:『しかし範囲的にシェルバールも含まれる訳ですよね?そうなると海産物や南方からの貿易品のやり取りは国を跨ぐ事になりますし、貴族達からも不満が出ると思いますが・・・。』
ベルクレア:『貴族達には既に新国の承認と今後の交易に関する損益に関しては了承させておる。南方からの交易品に関しては貿易関税を支払えば問題無かろう?海産物も今まで優遇してくれた分、今後は新国からの輸入となる。新国としても建国初年度から貿易収入が入るし、シェルバールが新国の貿易港となるから南方諸国を含めた他国との外交がしやすくなるじゃろ?』
ザック:(驚いたな、てっきり関税の優遇や交易利益の何割かは請求されると思ったんだが・・・。)
ザック:『こちらとしては有り難い話ではありますが、それでは結果として王国にかなりの損益が出るでしょう?せめて南方からの交易品の関税免除ぐらいはさせて下さい。無論これから生産されるモービィに関してもです。』
ベルクレア:『じゃがモービィは新国の一大産業となるのじゃろ?』
ザック:『元々内需目的だけで生産を考えていた物ですし、新国を工業国家にするつもりはありませんからね。』
程無くしてアン達が町から戻って来た。
アン達を交えて新国建国に関する概要と帝国の再建についての話し合いとなった。
アン:『はぁ・・・もう、だから変な事に首を突っ込まないでねって言ったのに・・・。』
ザック:『でもあのままだと帝国が崩壊するのは目に見えて解ってたから仕方無いだろ?』
メル:『ザック様、それで建国はいつ頃にするんですか?』
ザック:『あまり期間は無いかな?帝国の状況がいつどう変わるか分からない。下級貴族達や実力者達がすぐに謀反を起こす危険も有るからね。』
アンが呆れた顔でベルクレアに話し出した。
アン:『そもそも何で帝国がそんな事になるまで北方諸国は黙ってたんです?』
ベルクレア:『北方諸国は帝国の経済の恩恵を受けておるからのう。事実上帝国の俗国なのじゃ。』
メルがザックに何かを思い付いた様に話し掛けた。
メル:『そうなると当面の間、新国は帝国・王国との外交が主な公務となるのですよね?』
ザック:『多分そうなるだろうな。』
メル:『そうなるとザック様御自身が外交に当たられたら内政が混乱してしまいます。そこで北方に縁のあるリアスさんを外務大臣となって頂いてはどうかと。』
ザック:『う~ん彼女は外交より産業の方が向いてるんじゃないかな?それに内政に関しては俺よりも適任が居るよ。』
メル:『どなたです?』
ザック:『メルだよ。』
メル:『え!?わ、私ですか!?』
ザック:『メルは各地方の事情に長けている。元々ソロだった上に流浪の民だったメルの方が各土地の事情に詳しいだろ?』
メル:『ですが私はザック様の従者として行動を共にする使命があります!』
ザック:『勿論必要な時はそうして貰うよ?でも当面は国の事でしか動かないし、今までと違って討伐を頻繁にする訳じゃ無いからね。』
メル:『確かにそうですが・・・。』
アン:『ところでザック、建国するって事はお城も作るの?』
ザック:『必要かな?俺は別に無くても良いと思うんだけど?』
ベルクレアが口を挟んだ。
ベルクレア:『ザック殿、城は作らねばならぬぞ。城は単なる国の権威の象徴では無く、万が一の時に城下町の者達を受け入れる場として必要なのじゃ。
ザック:『確かにそういう考え方もありますね・・・。』
ザック:(言われてみればその通りだ。いつ城下町で暴動が起きないという保証も無い。言い換えれば城壁や石畳の道路整備もそうだな・・・。)
ザック:『でもさすがに城を作る職人は知らないなぁ。』
アン:『リアスじゃ駄目なの?』
ザック:『城を建てる場合は色々と特殊な技法が必要だからね。一般的な建築士では館ぐらいまでしか作らないよ。』
ベルクレア:『ザック殿、それならば心配要らぬ。王都に城の建築士が居るでのう。』
ベルクレアが兵士に指示すると建築士を王宮に招いてくれた。
マリアベル:『王宮建築士のマリアベル、参上つかまつりました。』
ベルクレア:『わざわざすまんのう。こちらに居るエルベスタ殿は存じておるか?』
マリアベル:『はぁ、アーデン一帯の領主様と存じております。』
ベルクレア:『これから申す事は極秘事項じゃ。よいな。』
ベルクレアが一通りの事を話すとマリアベルはしばらく固まっていたが、新たな城を建てる事を知ると随分と張り切った様子で帰って行った。
その後幾つかの事をベルクレアと打ち合わせた後、ザック達はアーデンへと旅立った。
お読み頂き有り難う御座いました。




